165 キューラの戦い
クリエもトゥスも倒れている。
そして、自分は体調不良……そんな状態でキューラはオーク達との戦いに挑む。
護らなくては……その強い意志が切っ掛けか、それは彼自身にも分からない事だったが、突如熱を帯びる左目。
すると不思議な事に彼の体調は良くなっていくのだった。
魔力痛は治った。
だが、風邪が治った訳ではない。
不思議と絶好調ではあるが……いつまただるさに襲われるか分からないし、元々重い剣は扱えない。
ただでさえ俺に好都合な展開だというのに剣が上手くなるなんてさらに好都合が重なる訳はなかった。
それにどんなに俺の体調が良くなっても多勢に無勢なのは変わらない……。
こっちに居る動ける仲間はライムとレムス……相手はこの住処に居る魔物達。
何かあった時の為に魔力痛にならない様、気を付けなくてはならない。
ライムにはクリエ達を守るという重要な役割がある。
レムスには牽制を頼み続けたいが、残念ながら生き物である以上体力がある……。
消耗する物がある限り……この多勢に無勢現状では……こっちが不利だ!!
なら……広範囲を攻撃できる炎の魔法……が一番だが、此処は自然が多い、使ったら最後燃え広がって逃げられないだろう……。
「全く……嫌な状況だ……」
使える強力な属性は闇、土……その二つだ。
氷は……ライムの為にも使う訳にはいかないからな。
「だけど……」
そう、だけど………………。
「俺は負ける訳にはいかない!!」
クリエの為にもここで死ぬわけにはいかない。
守り切れないなんて情けない結果もだ!!
「我望むは……真なる我が領域……シャドウ!!」
ペットの方は鼻が利く為、視界を奪っても無駄だろう。
だが、オークの方は違う!!
対し……闇の中でも俺は目が見える!! オークから視界を奪うだけでもこっちに有利になる。
効果がある時間は数分と言った所だろうが……そこでどれだけ数を減らせるか……。
「やってみるしか、無いよな……」
そう呟きながら俺は近づいて来たペットに対しグレイブを使う。
音を聞き、避けられてしまったが……そんなのは関係ない。
「シャドウブレード……」
その避けた先に剣を出現させればいいだけだ……影の中ならこの魔法は場所を選べる。
何も、問題ない……!!
さて……残っているペットの方は一匹……厄介な奴だが、対処できない訳じゃない。
なら……数を減らす為にも……。
「命令を下すオークを先に仕留める!!」
そう決めた俺は走りつつ詠唱を考える。
残っている時間は少ない。
消耗は激しいが、上位ほどじゃない……よし!!
「地の精よ……ノームよ……我が願いを聞き入れ、我にその力の一部を与えたまえ、汝が力降り注ぐ岩の槍と変え、我が敵を討ち貫け!!」
俺が詠唱した魔法は炎の魔法程強力ではないが広範囲に岩の槍を降り注がせるものだ。
とは言え、本来なら足止め程度にしかならない魔法だ……しかし、それでも詠唱を加えれば!!
「アースランス!!」
すさまじい音と共に落とされた岩の槍は次々にオークを貫いて行く……辺りには血の臭いが充満し気持ちが悪い。
だが、文句を言っている暇はない……。
この魔法が最後……シャドウの効果は無くなる。
その時、俺には同じ魔法を使い続けるだけの体力は残っていないだろう……。
つまり、この魔法が俺達の生死を分ける物だ。
こういう時は「やったか!?」と言う言葉を言いたい所だが、それを言ったらフラグになってしまいそうだ。
あえて口には出さずにつばを飲み込む……。
左目に見える光景にはしっかりと倒せた魔物達の姿が浮かぶ……。
だが、撃ち漏らしたのも少なくはない。
「ペットは……駄目か……」
残った一匹のペットには避けられてしまった。
だが、狙いはオークの数だ。
「…………」
俺は息を整え闇が晴れるのを待つ……。
オーク達は俺を見て、その顔を怒りに染める。
当然だ、仲間を殺されて怒らないやつは居ない……だが、それは俺にも言える事でもあり、俺にも守る者が居る!!
「そう簡単に、死ぬわけにはいかないんだよ!!」
俺は吼えた所、ある事に気が付いた。
オークの死体の中に見慣れた剣を持つ奴が居た。
そう、それは紛れもなくクリエに買ってもらい、トゥスさんが細工をしてくれた精霊石の剣だ。
俺はその死体へと向かい走るとオーク達も一斉に俺へと向け駆け寄ってきた。
だが、遅い……俺は何とか剣を手に取ると一番近くに来たオークの胸へと剣を突き刺す……。
「こっのぉぉぉぉおお!!」
オークの皮膚は人の皮膚とは違い頑丈だ。
だから、いくら良い剣を買ってもらったとは言え、俺の腕ではそう簡単に傷つけられるものではない。
しかし、この時は角度が良かったのか何なのか、上手く突き刺せた。
「……はぁ…………はぁ、次は……どいつだ?」
俺は息を整え、オークを睨んだ。
すると、立ち止まっていたオーク達は一歩後ろへと下がり……たがいに何か言葉を交わすとそのまま俺から視線を外さずに逃げていく……。
ペットの方も主人に連れられて行き……どうやら、敵わない、そう思われたのだろうか?
『かぁ……かぁ……』
ほっとしていた所にレムスは甘い声で鳴きながら近づいて来て、俺は腕を差し出し彼? を迎えてやる。
「助かったよ、レムス……ライムもご苦労さま」
ねぎらいの言葉をかけてやると、途端に疲れが出て来てその場に座り込む。
「なんとか……なったのか?」
そう呟き俺はクリエからもらったペンダントを握りほっとし……深いため息をついた。




