163 収まらない魔力痛
居心地の悪い食事を終わらせたキューラ達は改めて歩を進める。
冒険者達を気にしている様子のクリエだったが、キューラはもう関わって欲しくないと考えていた。
しかし、偶々見かけることがあったら助けると約束をした。
そして、先へと進む中、キューラは一応休息を得ていたのだが?
俺が微かな不安を感じつつも馬車は進んでいく……。
更には野営をし、二日……そして三日目になり……。
「キューラちゃん」
クリエは心配そうに俺の名を呟く……俺と言えば……それに応える事も出来ずに彼女の膝の上で苦痛に顔を歪めていた。
魔力痛が収まらない……それどころか、痛みを増しているのだ。
参ったな……魔法を使い過ぎた。
いや、使い過ぎたってこんなにひどい目に遭ったのは初めてだ。
「…………っ」
おまけに熱まで出てきたのか、頭もボーっとする。
息も苦しい……。
「けほっ……」
…………これ、風邪か?
「参ったね、風邪か……」
ボーっとする頭の中にトゥスさんの声が聞こえた。
やっぱりそうか……つまり、魔力痛と風邪が重なるとこうなるって事か……。
「ど、どうしましょう!? は、早くお医者さんに!?」
この世界で風邪は重病だ。
以前の世界と同じで特効薬が無いのは当然として、風邪が万病を引き寄せる原因でもあるからだ。
だからなのかどうなのか分からないが、神大陸では風邪は邪神の呪いとも呼ばれてもいる。
「診せたい所だけど、街まではまだ遠いよ」
「そんな……」
そんな会話が聞こえつつ、俺はゆっくりと目を閉じる。
頭がはっきりしない……身体中がきしむ、筋肉痛ではない、別の何か……魔力痛の所為で体は動かない。
息苦しく……寒気も感じる。
ああ、まったく……俺はなんでこんな時に風邪を引いてるんだ。
「キューラちゃん……すぐ、すぐに! 街に着きますからね?」
「あ、ああ……」
彼女の言葉に何とかそう答えた俺は暫く休むことにした。
どの世界でもやっぱり風邪はひきたくないものだな……。
そんな事を思っていると――。
「クリエお嬢ちゃん!! 何かに掴まりな!!」
トゥスさんの焦った声が聞こえ、すぐに馬車は大きく揺れる。
「きゃぁぁぁぁああ!?」
更にはクリエの悲鳴がすぐ近くで聞こえ、俺は思わず彼女に手を伸ばそうとするもどうにも出来ずに馬車の外へと放り出されてしまった。
クリエ……クリエは何処だ? 霞む目で俺は辺りを見るが彼女はなんとか見つかった。
良かった、そう思いつつ……彼女の傍へと寄るのだが……ようやく手を取ったと思った時、安心した所為か俺の意識は闇の中へと落ちていく……。
一体、何が…………起きたんだ……?
俺は何とか何が起きたか確認しようとし、意識が完全に落ちる前に辺りを確認する。
すると、見えたのは大きな人間の様な魔物……。
あれは……確か……オークだ。
辛うじてそう分った時、俺の意識は闇の中へと落ちた。
次に目を覚ましたのは骨で作った檻の中だった。
最後に見た光景から考えるにどうやら俺達はオークに襲撃をされた。
「……っぅ」
だが、それが分かってもどうする事もできない。
魔力痛も酷い……風邪もどんどん悪化してきているのか身体が動かない。
何とか首を動かし、ようやくクリエとトゥスさんが傍に居る事を確認するとほっとしたも、武器はやっぱり取り上げられていた。
ライム達は……。
「……ひゃん!?」
使い魔であるライムを探していると、何かが身体にもぞりと這い俺は思わず変な声を出してしまう。
な、なるほど……そこに居るんだな? レムスは賢いし……捕まっていないならどこかで俺達を見ていてくれているはずだ。
それにしても捕まったのが本当にオークならヤバいぞ……。
良くある話で騎士やエルフの相手がオークで「くっ殺せ!」と言うのがあるが……この世界ではトロールならともかく、オークが人をそう言った事で襲う事は無い。
単純にオークはオークの女性にしか興味が無いからだ、なのに人間を襲う理由……それは…………。
「……クリエ! トゥスさん!!」
二人を起こそうと名を呼ぶが、二人は一向に起きない。
このままじゃマズイ! 俺は頭痛と魔力痛、寒気にだるさに耐えながらも辺りを確認する。
まだこっちにオークは来ていない。
逃げるなら今の内だ……でもどうやって? 檻を壊すのは簡単だ。
でも万全な状態でも二人を運ぶのは無理だ。
俺がそんな事を考えていると――。
「ギャァァァァアアアア!! 嫌だ! 止めろ!! ギ!?」
悲鳴が聞こえ、それは何かもがいていた様だが、突然声はしなくなり、代わりの人間の悲鳴が上がった。
俺達以外にも捕まった奴が居たという事だ。
そして、足音が聞こえ……俺はびくりと身体を震わせる。
オークが捕らえる理由……それは……。
「く、くそ……!! 餌だけはごめんだっての……」
彼らが飼うペットの魔物の餌になるからだ……。
『…………』
俺を見てか、それとも単純に腹を空かせているのか分からないが、魔物はぼたぼたと涎を垂らし……。
オーク達は檻を壊していく……。
骨が一本一本外されていくにつれ、俺は二人が早く起きてくれないかと願うが……それは敵わず……。
魔物を前にし、丸腰の俺は……逃げる事も出来ずに……ただ、魔物を見つめていた。




