160 水魔
聞き分けの無い冒険者を守るため見張っていたキューラ達。
そんな中、水辺から現れたのは恐ろしい魔物……マーメイドだった。
キューラは立ち向かうが、力の差は激しく……彼は恐怖を感じる。
しかし、諦めるものかと強い意志を持つのだった。
マーメイドの腕へと巻き付いたライム。
すると魔物は顔を歪め――。
『――っ!! ――――っ!?』
「…………っぅ!?」
声と言う事が出来ない程の耳障りな音を口から発した。
歌ではないからか、そこまで頭は痛くはならなかったが、それでも傷に響くほどの音だ。
だが、ライムの攻撃だけじゃ駄目だ。なんとかしてこいつを冒険者から離れさせ、トゥスさんの射線に入れなければならない。
「レムス!!」
俺は空を舞うもう一匹の従者の名前を呼ぶ。
するとレムスは鳴き声を上げる事もなく、マーメイド目掛け降りてくるとその鋭い爪で引き裂こうとする。
敵だと恐ろしいが、味方だと頼もしいな……事実、俺の魔法よりも今は効果があるみたいだ。
情けないが、現状は彼らに頼るしかない。
魔法が使えないんじゃ、切り札の魔拳も使えないからな。
そう考えていると、魔物は使い魔の主である俺から目を離さずにいる。
当然だ……マーメイドは賢い。
使い魔は俺の命令で動いているし、そうじゃなくても俺を守ろうと動く……。
そして、その主の俺は今一番の足手まといだ。
倒すのは俺からの方が楽だ。
それを理解しているのだろう……。
そして、子供の餌である俺を逃がすつもりはないのだろう……ああ、こんな時も男の方が……。
いや、やっぱり嫌だ。
この世界のマーメイドはとても美しいなんて言えない。
瞳は大きく赤く……見ているだけで恐怖を感じる程だ。
そう考えると襲われる心配がないだけ女の方がましなのだろうか? いや、でも喰われるのも嫌だ。
どっちにしろ……。
「もう、逃げられない……な」
ようやく落ち着きを取り戻した俺は魔物から目を離さずにそう呟いた。
全く……そこの冒険者が最初から話を聞いてくれていれば、こんな厄介な魔物を相手にしなくても済んだ物を……。
「ライム、レムス……頼むぞ!」
二匹の使い魔に俺はそう告げる。
勿論彼らに頼りっきりでは勝てないだろう……多少の無理はしなきゃだめだ。
「とすると、やっぱり……」
魔法が必要だ。
だが、攻撃に使う事は出来ないもっと単純で……確実に射線へと入れる手段を考えなきゃだめだ。
どうする……使える魔法はわずかだ。
「ライム!!」
俺はライムの名を呼び、此方へと戻す。
ライムは攻撃よりも防御に徹して欲しいからだ。
そして――。
「レムス隙を見つつ攻撃をしてくれ!!」
鋭い爪と嘴を持つレムスにはそう告げた。
だが、勿論これだけじゃマーメイドには勝てない。
ライムはともかく、レムスじゃ歌われたら終わりだ……それだけは阻止しなくちゃならないんだ。
とはいえ、ライムを攻撃に回すと今度は俺の守りが手薄になる。
俺は死んだら駄目だ……クリエとそう約束したし、無理も出来ない。
なら……牽制はレムスに任せつつ……防御はライム。
俺は……。
「グレイブ!!」
魔法を唱え、不格好な岩を地面へと叩き落とす。
魔力も込めてないし攻撃としては不十分だ。
しかし、マーメイドは賢いからこれを避けた。
そう……避けてその顔を歪め口を動かし始めた。
「させるか!! レムス!!」
俺の声を聞き、レムスはマーメイドへと向かい爪で引き裂こうとする。
しかし、それは虚しくも避けられてしまった。
だが、隙は出来た……間抜けにも開きっぱなしの口。
そこが……!!
「良い、位置だ!! グレイブ!!」
俺はもう一度魔法を唱える。
今度は全く魔力を練らずに放たれたそれは……見事にマーメイドの口の中へと入る。
するとマーメイドは顔を歪めもがく……やっぱり、苦しかったようだ。
お蔭で出来たぞ……大きな隙が!!
「グレイブ!!」
俺は再び魔法を唱える。
しかしマーメイドもそれに気が付くと水棲の魔物とは思えない速さで俺へと近づき……。
その細い腕で俺を掴もうとしてきた。
だが……それは敵わない。
彼女が掴んだのはライムだ……ライムが俺とマーメイドの間に割って入り助けてくれた。
そして、声を奪われた彼女がそうするのは予想済みだ……。
「悪いな……」
俺はそう一言を呟いたと同時にマーメイドは横へと吹き飛ぶ。
そう、グレイブは最初から二か所に発動させていた。
魔法を多方向から放つ……今回はうまくいって良かった……魔力を込めていないせいですぐに砕けたが問題はない――後は――!
「フレイム!!」
明りを一瞬でもつければ……俺達の勝ちだ!!
そう確信した時、轟音が鳴り響き……マーメイドの頭は見事に撃ち抜かれた。
流石はトゥスさんだ……まさに百発百中ってやつだな。
そんな事を考えつつもマーメイドが動かないかを確認した後、冒険者の方へと近づいた俺は……。
怯えて固まっている彼らに告げた。
「だから言ったろ? 水辺は危険だって……それに見張りも立てないで、お前達は自殺願望者か?」
「そ、そそそそんなわけ!」
俺の言葉に反論してくるが、俺からは最早溜息しか出なかった……。
「さっさと離れて見張りを立てろ……良いな?」
それだけ告げ、俺はクリエ達の元へと戻るのだった。




