159 お守
水辺は水棲の魔物が居る可能性があり、危ない。
そう伝えようとするも冒険者たちは勘違いをし話を聞かなかった。
キューラ達は仕方が無いと近くで彼らを見守る事にしたのだが?
さて、あれから時間が経ち、すっかり夜も更けてきた。
問題の冒険者達だが……。
彼らには驚かされた、その理由は……。
「全員で寝てやがる……」
普通野営をする時は魔物や盗賊などを警戒し、交代で見張りを立てる。
しかし、彼らはそうではなく……。
「……あんなの常識無さすぎじゃないかい? なのに何を考えているの分かったもんじゃないね」
トゥスさんは呆れ果てた顔だ。
そん彼女は最初に寝ているクリエの方へと目を向け……。
「助ける必要なんてないんじゃないかい?」
「それはそう思うけどな……」
助けるとクリエに約束してしまったからな。
そう思いつつ、俺は一つ欠伸をしながら彼らを見守る。
今のところ魔物に襲われている様子はない……。
このまま何も無ければいいが……。
そう思っていた矢先だ。
水辺からなにかが現れ、それは鋭い眼光を近くに居た冒険者達へと向ける。
しかし、彼らは全然気が付いていない……マズイ!!
「行くぞ!! トゥスさん!!」
クリエは寝ているし、魔力痛はまだあるし……本調子ではない。
だが、魔法が使えない訳じゃない……ゴーレムを倒した時の様な魔法は使えないが、軽い魔法ならなら問題はない。
「アタシは此処で支援をしてやるよ、クリエお嬢ちゃんも寝てるしね」
「……そうか、分かった!」
確かにクリエを見守ってくれる人は必要だ。
身体がまだ思ったように動かないのは不安だが――。
「ライム! レムス!! 手を貸してくれ!!」
俺は一人ではない、仲間でもある使い魔二人に声をかけ、冒険者たちの元へと駆けつける。
だが……俺の足ではすぐにたどり着くことはできない。
「う、うわぁぁぁぁあああ!?」
目を覚ました冒険者の一人が悲鳴を上げ、その悲鳴に目を覚ました別の人が更に悲鳴を上げる。
しかし、腰が抜けてしまっているのか逃げ出そうとはしない。
まずいぞ……パニック状態になってる!
「フレイム!!」
俺は魔物へと向け炎の魔法を放つ。
しかし、相手は水の魔物……炎の魔法は見事に命中したものの効果はないみたいだ。
「なら……グレイブ!!」
今度は岩を作り出し撃ちだすも……。
「ぅぐぅ!?」
痛みが身体中に走り……威力が弱まってしまった。
当然、魔物にも効いていない……更にはこっちは左程脅威に感じていないのか、魔物の目は獲物である冒険者たちの方へと向いたままだ。
これじゃ駄目だ! そう思い、再び魔法を唱えようと魔力を練り込む……しかし、痛みで集中が途切れ上手い事魔法が使えない。
「くそ……ったれぇぇぇぇぇぇ!! グレイブ!!」
何とか形になった魔力を魔法へと変え、撃ちだすもいつもより効果は落ちる。
闇の魔法の方が良かっただろうか? いや、駄目だ。
暗闇の今、その魔法を使えば万が一冒険者がやる気を出して戦おうとした時、魔法に気付かず怪我をするかもしれない。
いや、どっちにしても同じなんだが……闇の魔法の方が見にくい……どっちにしてもこの痛みではまともな魔法は使えないな。
「……って……またかよ」
俺は結果を見てうんざりした。
魔法はいとも簡単に落とされてしまったのだ。
なんか、魔法が一気に下手になった気分だ……痛みの所為とは言え、これは無いな。
そうこうしている間も魔物は冒険者達へと一歩一歩と近づき、声すらあげれなくなった彼らは此方を見ている。
クソ……こうなったら……。
「――っ!!」
俺は剣を引き抜き構える。
トゥスさんに加工をしてもらった軽い剣だ。
そして――あの時の事を思い出す。
確か、彼は――ああ動いていたはずだ。
そう思いながら駆け抜け、魔物へと近づいた俺は――!
「おぉぉぉぉおぉぉぉ!!」
痛みに耐えながら雄たけびを上げ、それを繰り出した。
これなら、避けられることもない。
そう思って使ったが、所詮は剣士であるターグと魔術師の俺……その差は歴然としていた。
そもそも、軽い剣を使った所であの技は繰り出せなかった。
「っ!?」
そう、俺は魔物に剣を掴まれ動けなくなってしまった。
水に居る魔物……マーメイド……。
その歌声は聞いただけで頭が割れる程に痛みを走らせ……他種族の男性を襲っては子供を作る。
そして、逆に他種族の女性は……彼女達の子供の餌となる。
水の魔物の中でも極めて強い分類の魔物……それが、俺が戦っていた相手だった。
「…………っ!!」
だからと言って逃げる訳にはいかない! 何とかして剣を抜こうとするが、全く動かない。
俺がもがいているとマーメイドはその顔を歪め……。
「ひっ!?」
俺は情けない悲鳴を上げた。
敵わない……それだけが理解出来た瞬間だった。
ならあきらめるのか? そうじゃない! 諦めてたまるものか!!
「くっ!! ライムゥゥゥゥ!!」
そうだ、俺にはまだ仲間がいる!!
名を呼ぶと使い魔であるライムは飛び出した。
本当、頼もしい奴だ。




