158 水辺の野営
キューラ達は水辺の近くで休むことにした。
だが、そんな時見かけたのは水辺の真横で野営の準備をする冒険者達。
水には水の魔物が居る。
その事を伝えにキューラ達は彼らの元へと向かうのだが?
歩くのも辛い俺はライムに水を飲ませ、乗せてもらって移動をしている。
だが、正直に言おう……一歩一歩と足を進めていたら悲鳴を上げていたかもしれない。
「……キュ、キューラちゃん、やっぱり待っていた方が良いんじゃ?」
「…………だ、大丈夫だ」
それでも痛い。
いや、痛いで済ませて良いほどの物ではない。
そう思いつつもクリエにそう返した俺は一緒に冒険者の元へと向かう……。
そんなに離れてはいないし、馬車に揺られるよりは痛みはないからそれ位は我慢できる。
ある程度近づいた所で彼らはすぐに気が付き、此方へと目を向けてきた。
俺よりも少し年上、クリエぐらいだろうか? 彼らはクリエを見て驚いている。
当然だな、この世界においてクリエは勇者だ。
彼女が近づいて来るのだから驚かない訳がない。
「ん?」
と思ったんだが、彼らは何故か俺を指差している。
「キューラちゃんとライムちゃんに驚いているみたいですね? それにレムスちゃんにも」
「俺達?」
何処もおかしくはないと思うんだが……そう思って見下ろしてみると……スライムにまたがる俺が居る訳で……。
なるほど、確かにスライムとニースクロウは厄介な魔物。
その二匹を連れているのは確かに注目の的になってしまうかもしれない。
まぁ、少し考えてみれば距離もあるし、クリエの瞳の色までは確認できないだろう……。
そんな事を思う間に彼らの表情は見る見るうちに変わっていく……勿論、クリエを見て、だ。
「あ、あれ?」
さらに近づいて行くと今度は自身を指差され首を傾げるクリエ……いや、あれ? ではなく、君は勇者だろう。
そう言おうかと思う前に彼らの前に辿り着いた俺は……。
「水辺で野営はしない方が良い、便利だけど水棲の魔物に引きずり込まれることだってあるんだぞ」
忠告をしておく、すると彼らは立ち上がり……。
「い、いくら勇者だからってここを独り占めする気なのか!?」
眉を吊り上げてそんな事を言い始めた。
予想外の反応に俺もクリエも固まっていると……もう一人立ち上がり。
「ここは俺達が最初に見つけた! 別に使うな、とは言わないし、構わないけど……追い出されるのだけは納得がいかない!!」
「いや、そうじゃなくてだな……俺達はもうあっちで準備をしているが、君達が――」
何を勘違いしているんだ? こいつらは……。
そう思いつつも説明をしようとすると、もう一人立ち上がり。
「その魔物を連れた従者が居ても無駄だ! ス、スライムなんか怖くないぞ!!」
いや、スライムは危険だぞ? ライムはともかく普通は逃げた方が良い。
刺激しないに限る。
「あ、あの……だから私達は別に……」
「と、とにかく! ここを退けと言われても退かないからな!!」
「勇者の特権だか何だか知らないけど、俺達は関係ない!!」
あー、うん……駄目だこれは……。
「なぁクリエこれ以上何を言っても無駄だ……」
「で、でも本当に!」
水辺は危険だ。
そんな事は分かっている。
しかし、話を聞かないんじゃ一度痛い目を見ないと分からないんだろう。
かと言って見捨てるなんて言葉を言ったら……クリエはきっと幻滅をする。
こいつらの事は別に興味はないが……幻滅をされるのは嫌だ。
「大丈夫、俺達ももう少し近くで休もう……何かあったら駆けつける、良いな?」
「……そ、そういうことでしたら」
クリエは頷き……怖かったのか俺の服を掴む。
うん、クリエはやっぱり女の子だな……。
「おい! 話を――!!」
「もう分かった何も言わない、ただ俺達も近くに泊まる、水ぐらいは取らせてくれ」
俺がそう口にすると予想外だったのか黙った彼らに対し俺は念を押すように……。
「良いよな?」
と告げると、ゆっくりと首を縦に振った。
「あ、ああ……そう言う事なら別に……」
「じゃぁ、俺達は行くからな」
俺はそれだけ残し、クリエと共にトゥスさんの待つ方へと戻る。
さて、面倒な事になった……。
何かあったら駆けつけるとクリエに言った以上、見張ってないといけないな。
何も無ければいいんだが、こういう時に限って絶対……何か問題が起きそうだ。
「大丈夫でしょうか?」
クリエは心配なのだろう、彼らの方をチラチラと見ており、俺は……。
「十中八九、魔物に襲われるだろうな」
「へ? じゅっちゅう……はっく?」
俺が言った言葉を舌足らずになりながら繰り返す。
畜生……男は美人にはやっぱり抗えない運命の様だ……。
「えっと、十中八九というのはほぼ確実にって意味だよ」
「ほぼ、確実……ってそれじゃ! やっぱり!!」
クリエは慌てて振り返って彼らの元へと走ろうとするので、俺は腕を掴みそれを止める。
流石に俺を引きずる気は無いのだろう……足を止め。
「でも!」
「だからこそ、何かが起きるって警戒しやすいんだ。近くで彼らの安全を確保する……勿論怪我は避けれないだろうが死ぬよりはましだ」
俺が淡々とそう告げると……彼女は納得できないのだろう……腕を少し動かし始め、振りほどこうとしてきた。
「それに彼らは話を聞かない、今行ってもさっきと同じ結果だ。なら下手に刺激するよりも彼らの安全を確保する方が楽でいい」
「キューラちゃん……」
俺にそんな力はない、だが人の話を聞かない冒険者位守れなきゃクリエは守れない。
なんとしても彼女の為にも彼らを守らないとな。




