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157 魔力痛

 ゴーレムを倒すためにキューラは上位魔法を強化し使う。

 しかし、一度も使ったことの無い魔法を唱えた事で彼は動けなくなってしまった。

 その上ゴーレムを倒し切る事は出来ず……彼の窮地を救ったのはトゥスだった。

「ぁ……ぐぅ……!?」


 少しでも身体を動かそうとすると全身に痛みが走る。

 先程から全く変わらないそれに、俺は喘ぎ声を上げた。


「キューラちゃん……」


 そんな俺を心配そうに見つめるのはクリエだ。

 だが、心配はないこれは単なる魔力痛……身の丈に合っていない魔法を無理やり……それも強化なんて事をしたしっぺ返しを食らっただけなんだからな。

 少し休めば元に戻る。

 だが……参ったな、戦いが終わった後に馬車へと運んでもらったは良いが、馬車が揺れるだけでも痛みが走る。

 動けないし、ここまで辛いのは初めてだ。


「もう、止めましょう?」


 俺が苦しんでいるからだろう、クリエはそう口にし……。


「旅も何も、キューラちゃんが……」


 彼女はそう言葉を続け――何かを口にしようとしていた。

 だが、俺は彼女を睨み……。


「魔王……だって……どう、やって……倒す、くぅ!? つもり、だ?」


 それをしなければ彼女は解放されない。

 いや、それをしたからと言ってクリエが解放されるとは限らない。

 だが、俺が……俺達が……勇者でも英雄でも何でもない俺達が魔王を倒すことが出来れば話は別になる。

 ただの一般人……世界に住む普通の人だって協力し合えば何でもできる。

 そう示すことが出来る! そうなれば、勇者の奇跡なんて言う馬鹿げた力は必要ない。


「でも――!!」

「でも、こうもないよ……どっちにしたって今魔法を使えないクリエお嬢ちゃんじゃゴーレムには勝てないだろう? キューラのはただの魔力痛だ、ゆっくり休ませておきな」


 俺達の会話は聞こえていたのだろう、トゥスさんはそう口をはさんでくると――クリエは御者の席を睨む。


「ただの魔力痛? それで身体が動かなくて死んだ人だって!!」


 正しくは動けなくなったところを魔物に狙われたと言った方が良いだろう……魔力痛で死ぬという事は無い。

 現に今生きてるしな。


「……トゥスさんはキューラちゃんにあの燃える魔法を使うなって言ってましたよね!?」

「あれとヘリスイーラは全く違うさ」


 魔拳の事か……確かに全く違うものだ。

 だけど、今回の事は確かに無理をした……それは分かってはいるし、反省してない訳でもないし、自身を情けないと思っていない訳でもない。

 だが……それでも俺は……。


「何を言われようが……クリエを守りたいだけだ……」


 他の誰かなんてどうでもいい、ただ一人さえ守れればそれで良い……。

 どっちにしたって俺には全てを守る力なんてない。

 せいぜい出来るのは仲間の為に壁になるか、先程の戦闘の様に無茶をして何とか活路を見出すかだけだ。

 だけど、今はそれでいい……結果的にクリエを助けることが出来れば……な。


「…………ぁぅ……」


 俺の言葉を聞くなり、クリエは急に赤くなり……奇妙な声を上げる。

 顔を覗き込むと困った様な嬉しそうな……どちらとも言えない表情を浮かべていた。


「クリエ?」

「…………」


 俺が呼んでも反応しない彼女はうめき声の様な物だけをあげる、その様子はなんだか可愛らしい物で……じっと見ていると彼女はすっと顔を逸らした。


「ど、どうしたんだよ?」


 不機嫌になってしまったのか? と心配していると……。


「ぅぅ……ずるいです」


 なにがずるいんだ? 聞きたい所だが、恐らく聞いても教えてはくれないだろう事は分かっている。

 とにかく怒ってはいないみたいだし、それで良いだろう。

 そしてなぜ……。


「クク……クククククク……」


 トゥスさんは笑っているのだろうか?

 彼女はクリエの様子を見ていないはずだが、何か心当たりでもあるのだろうか?

 そうこう考えている内に……。


「っと水辺だ。そろそろ野営の準備をしよう……」


 トゥスさんはそう提案してきた。

 彼女の方へと目を向けてみると確かに川が流れており、野営には丁度良い場所だろう。

 しかし、水辺と言うのは特別な理由が無い限り魔物や動物が現れる危険な場所でもある。

 トゥスさんは川から少し離れた所に馬車を止め……。


「これ位ならそんなに苦労はしないだろう?」

「ああ、助かる」


 道は平坦、高い背の草はあり、身を隠すにはもってこいの場所だ。

 そう思いつつ、川へと目を向けると……。


「人? なんであんな所で……」


 そう、人の姿が見えた。

 冒険者だろうか? 装備を川の近くへと置き、休んでいるようにも見える。

 いや、間違いなくあそこで休んでるな。


「新米の冒険者だね、まだ日もあるしあそこで飯でも食べてるんじゃないかい?」


 俺達は何時も早めに野営の準備をしてしまうが全員が全員そうと言う訳ではない。

 食事を済ませてから安全な場所に……と言うのもあるだろう……そう思っていた。

 しかし……。


「なんか、寝床の準備をし始めてますよ!?」

「馬鹿かい!? あんな所で……」


 二人は焦った声でそう言うが、当然だ。

 水辺で休まない理由の一つに水の魔物が居るというのがある。

 特に怖いのはスライムだ。

 俺達とライムが出会った場所も水辺だしな。


「注意しよう……俺とクリエで言って来る、トゥスさんは馬車を見張っててくれ」

「大丈夫かい? そんな身体で……」


 俺は頷き答える。

 本当は大丈夫ではないが、歩くぐらいなら何とかできそうだ……というか、クリエ一人で行かせるのは不安だしトゥスさんもなにを言うか分からないからな。


「行こうクリエ……」

「は、はい!」


 クリエは俺の言葉に頷き、ともにあの冒険者の元へと向かう……全くあいつらは何を考えているんだ。

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