155 旅の始まり
アルセーガレンは今いる村からは正反対の方にある。
そこに行くには勿論いくつかの村や町、都市を抜けなくてはならない。
キューラ達の旅立ちが……旅が今再び始まる。
新たな目的を胸へ刻みこんでの旅立ちの日……。
俺達は荷を背負い村を後にする。
本当はイール達と話をしたかったが、どうやら仕事で忙しいらしい。
残念に思いつつも、馬車で歩みを進めつつ地図を開いた。
「さてと……アルセーガレンへと行くには……」
「まずは大きな街へと出ないと駄目だね」
御者の席に座っているトゥスさんはそう呟いた。
そう、俺達は人攫いの馬車……というか馬をそのままもらうことが出来た。
村にも馬は必要だろうと思ったのだが、もういっぱいいるらしい。
そこで村長であるラルクは装飾を変えてくれた上で出発の時に渡してくれたのだ。
「そう、だな……でも……」
お蔭で旅が楽になったと喜んではいたのだが、問題が一つある。
馬車自体は街に預かってもらう事も出来るし……また、万が一あの人攫いが取りに来たとしても奴は犯罪者。
こっちは勇者ご一行……聞いた所、問題はない様だ。
「問題は……」
俺は呟きながら地図の一か所を中央あたりつつく……。
そこは神大陸の大都市と呼ばれる場所であり、全ての王の頂点に立つ神王と呼ばれる人が統治する場所。
迂回をすれば険しすぎる山や横断することが無理な程の流れのはやい川……どう足掻いても俺達はその都市を通過しなければならない。
「大都市ユミル……」
偶然にも俺にもなじみのある名前だ。
確か最初の巨人だったか? 詳しい事は忘れたが……北欧神話かなにかだったような気がする。
まさか、こっちでは巨人ではなく大都市だとは思わなかったけどな。
とにかく……俺達はユミルへと向かう事になる。
「だけど、その前にも街は都市はあるんだユミルにばかり気を取られるんじゃないよ」
「分ってるさ……」
俺がそう答えるとトゥスさんは何も言わずに馬へと指示を出す。
そんな中、一人黙っていたクリエの方へと向くと……。
「…………キュ、キューラちゃん」
クリエは不安そうにしている。
何かを言ってあげた方が良い、それは分かってはいたが、俺はただ頷く事しか出来ず。
その場に沈黙が流れた……。
どうするべきだろうか? そう悩んでいたところ……ふとある事を思い出し……。
身に着けてはいたものの服の中へと隠していたペンダントを取り出すと出来る限りの笑みを浮かべた俺は……。
「約束……したろ?」
そう彼女に告げる。
すると、まだ不安そうではあったもののクリエは「うへへ」と笑い。
「はい!」
どこか嬉しそうな表情を浮かべた。
やっぱり、クリエは笑顔が似合う……そう思いつつも俺は釘付けになる視線を何とかそらし地図へと戻す。
そして、次の目的地を指差すと……。
「次は此処だな……ルード、街みたいだ大体3日か……」
「ああ、でもしっかり食料は貰ったし、いざとなったらまた狩れば良い」
トゥスさんはそう口にする。
しかし、本当に運が良かった……もし、馬が無かったら用意してもらった食料や水では足りない。
水に関してはライムが居るし、狩りにはレムスが居る……確かに何とかはなるが疲労は溜まっていくだろう……。
旅をする以上、温存できるものがあるならするに越した事は無い。
そう思うとやっぱり馬車を手に入れられたのは大きいな。
「とはいえ、どこかで馬達を休ませないとですね」
「ああ、そうだな……」
クリエの言う通り、俺達は温存できてもトゥスさんや馬は違う。
どこかで休憩を取り、そして前に進むことにした。
そう思った矢先のことだ……。
「キューラ! クリエお嬢ちゃん構えな!! 魔物だ!!」
御者の席から声が聞こえ、俺達は慌てて馬車から飛び降りる。
「あれか!!」
俺達の目の前には大きな魔物……それは今まで岩にでも擬態していたのだろう。
そう、岩が魔力を得て生まれた魔物……ゴーレムだ。
スライムほどではないが厄介な事に剣や拳そういった物理的な攻撃が効かない。
つまり、ゴーレムを倒すには魔法が必要って事だ。
そして、この中で魔法が使えるのは俺だけだ。
トゥスさんの精霊銃も一応魔法の道具ではあるが、あれは物理的な物には変わりがないからな……。
「クリエ、トゥスさん! 詠唱魔法で行く……時間を稼いでくれ!!」
だが、俺の魔法では恐らくゴーレムを倒すことはできない。
だからこそ、詠唱を考え威力を高める必要がある。
それも生半可な魔法じゃ駄目だ……熟練の魔法使いなら中級……いや、初級の魔法でも十分な威力は出せる。
しかし、俺では……。
上位魔法……それを更に強化しなくちゃいけない……。
「来るぞ!!」
俺はゴーレムの振り上げられた腕を見てそう叫び――戦いは始まった。




