152 修業の前に
商人のお蔭もあり、クリードの管轄下へと入った名もなき村。
そして、その話をしている時、同時にキューラには修業を言い渡される。
果たして、その修業とは? そして、脚に傷を受けたままの彼にそれは出来るのだろうか?
「はい、これで治療は終わりですよ」
あれから数日経ち、脚の傷はすっかり塞がった。
これで村長ラルクの言う修行が出来るはずだ……。
しかし、この村には俺たち以上の実力者なんているのだろうか? いや、少なくとも俺より強い人は居るだろうけど……。
「それで、傷は治ったみたいだけど……どうするんだい?」
トゥスさんはそう言うと煙草に火をつけ吸い始める。
最初の内は驚いていた神官さんも慣れてしまったのか、気にせずにてきぱきと帰る準備を始めた。
俺は慣れとは恐いものだと思いつつも彼女の方へと向き……。
「勿論、村長の元へ向かう……彼の言う修行が俺の成長に繋がるならやらない理由はない」
そう口にするとクリエは複雑そうな表情を浮かべたが、トゥスさんは頷き……。
「何かあったら任せておきな、アタシが何とかしてやるよ」
「助かる……」
何かあったら……恐らく俺達が騙されていたらと言う事だろうな。
そんな事無いのが一番だけど、そう言い切れないのが悲しい所だ。
「行こう皆」
皆と言ってもこの部屋にいるのはクリエとトゥスさんだけだ。
イールやステラはこの村に残ることが決まったが、彼女達の家を作る為に今は手伝いに行っている。
それにこれから先は修業……幾らクリエを助ける事に賛同してくれたと言っても彼女達を連れて行く訳にはいかないだろう。
「ああ、そうしようか」
「は……はい……」
やはりクリエは納得できないのかどこか元気のない感じだ。
でも、それでも……俺は彼女を守る。
それが、俺の決めた道だからな……。
そう思いつつ向かった先は勿論村長宅だ。
俺達はすぐに出発できるよう身を整えてから来たから物々しい格好だが、すんなりと通してくれた。
すると――。
「ちょ!? そんな恰好で来てなにするつもりよ!!」
アイシャの文句が俺達いや俺へと向けられるとレムスが飛び立ち大きな鳴き声を上げる。
すると彼女は可愛らしい悲鳴を上げ――。
「ちょ、ちょ!?」
「レムス……武装してきたこっちが悪いんだ」
俺はレムスを落ち着かせると先輩使い魔であるライムは触手のような形になりレムスの頭を叩く……。
どうやらライムも注意してくれている様だ。
最初は仲が悪いからどうかと思ったが、これなら安心だな。
そう思いつつアイシャの方へと向くとレムスが襲って来ない事にホッとした少女は俺を睨み始めた。
「何しに来たの?」
「修行の件でラルクさんに話があるんだ……頼む、通してくれ」
「…………」
正直に話すと彼女は不本意そうに俺達に背を向けて歩き始めた。
「やっぱり、嫌いです」
すると後ろから聞こえたのはクリエの不満の声で……。
「私のキューラちゃんなのに……」
うん、俺は何時からクリエの物になったのだろうか?
いや……このペンダントを貰った時と言われてしまえばそれで事足りてしまうのか……。
というか、クリエは何故そう……恥ずかしいセリフをすらすらと吐くのだろうか? あーでも、このペンダントは確か婚約の証でもあるんだよな?
だとするとやっぱり、反論しづらい……な……なんてこと考えているといつも話をする部屋に着いてしまった。
「キューラちゃん?」
いつもなら俺の突込みがある事を知っているクリエは何も言わない事を不思議に思ったのだろう、肩を叩いて来たが……。
「行くぞ?」
俺はあえて聞こえないふりをしてやり過ごすことにした。
「キューラ……顔真っ赤だよ」
「は!?」
そんな事を言われても鏡何て持ってないし見る事は出来ない。
しかし、トゥスさんの一言でクリエは前へと回り……。
「本当です!? もしかしたら熱があるんじゃないですか!?」
慌てて頬に両手を当ててきた。
それに驚いた俺は――。
「う、うわぁぁ!?」
素っ頓狂な声を上げ、振り払おうとするのだが……うん、後で悲しそうな顔をされるかと思うとどうにも抵抗が出来ない。
どうしてしまったんだろうか? という思いと何処か恥ずかしいと思う思いが入り混じっている中……。
「!? ~~~~!!?」
熱を測る為だろう、クリエの額と俺の額がくっつく……何度も思うがクリエは相当の美人だ。
そんな人に顔を近づけられて男の俺がなんとも思わない訳がないだろう……当然のように心臓はバクバクとなり始め視界はクリエに釘付けになってしまった。
「熱は……無いみたいですね」
「…………」
そう言いつつ顔を話していくクリエは相変わらず頬に手を当てたままだ。
俺は最早言葉を失いその場に立ち尽くしていると……。
「クククク……」
トゥスさんの笑い声が聞こえ……。
「お前達は何をしてるんだ」
俺達が来た事を知ってだろう、部屋へと来てくれた村長のそんな声も聞こえたが……それはどこか遠くに感じた。




