15 クリードへ
休息を終えたキューラ達は再びクリードを目指し歩み始める。
道中を共にする少年カインと少女チェルと共に進む中――チェルはキューラを見つめ考え込んでいる様で……?
カインの阿呆な道決めを阻止した俺達はクリードへと向けて足を動かす。
その途中……
「キューラちゃんって勇者様の従者、なんですか?」
チェルがそう質問してきた。
「ああ、一応な」
「だから、あんな凄い魔法を使えたんですね!」
凄い魔法?
「いや、あれは凄い魔法じゃない。先輩ならもっと凄い魔法を使える」
「でも、まだ昼間なのに……」
ん? ああ……そうか、そう言う事か……。
「もしかして古代魔法の事ですか? 確かに昼間に闇魔法、寒い所で炎魔法等を使うと弱まると思われがちですが暗闇や陰のある場所や松明をつけて使えばいつも通りの魔法になるんですよ」
俺が答えようとした事をクリエが代わりに言ってくれたが、古代魔法とは闇、炎、地、雷、氷からなる魔法だ。
そして、最大の特徴としてそれぞれの精霊が存在しない場所で使うと威力が弱まる所にある。
その精霊が存在する場所って言うのがややこしいが実際には闇なら影や暗闇、炎なら松明とクリエが言った通り、引き起こす現象と似た性質を持つ者があれば威力が落ちない。
つまり、暖かい地方での氷魔法や晴天時の雷魔法などは使い物にならない……と思われがちだが、実はそうでもなく、精霊の力を引き出す儀式……詠唱を長く唱えればその分の魔力を補えることが出来るらしい。
隙が増える分、威力は増やすことが出来る……勿論無詠唱使いが詠唱すればその分威力が高まる訳だ。
「でも、詠唱も……」
「ああ、俺は短縮……無詠唱が出来るんだよ」
「た、短縮? 無詠唱? それって詠唱が無いって事ですか!?」
そんなに驚かれる事だろうか? 学校じゃ凄いとは言われたがその存在は知られていたし……。
歴代の卒業生の中でも俺だけが無詠唱を使えるって訳じゃない。
「魔族と混血の使う古代魔法は術者によっては詠唱を省けるんです。絶対に詠唱が必要な神聖魔法とは違うんですよ?」
「そ、そうだったんですか、すみませんうちの村には魔族の血を引く方が居なかったので……」
ああ、そう言う事かそれなら仕方ないな……って、ん?
「魔族の血が無い? 一人もか?」
「はい、この辺りでは珍しいですよね」
「………………」
なんだ? この違和感……いや、それだけじゃない。
魔族がの下りでカインの笑みが消えた……。
「本当に居なかったの?」
クリエも何かに気が付いたんだろう、立ち止まってチェルへと問う。
すると彼女は躊躇なく頷き――。
「はい、産まれてから一度もお会いしたことがありません……ですからキューラちゃんが魔族の血を引いているとは知らなかったんです。本当に黒い髪で赤い瞳を持って――」
チェルの言葉は最後まで紡がれることが無かった……その理由はカインが徐に自身の顔を殴ったからだった。
「カ、カイン君!? もうまた自分を殴って!? 何をやってるの!?」
「いや、悪い……蚊が止まった様な気がしてさっ!!」
「また拳を握って蚊を叩くつもりだったの!?」
お、おいおい……いくらなんでもそれは理由としてはどうなんだよ……どれだけ敏感肌なんだ……。
でも、カインはどこかおかしい……今は笑ってはいるがなにかが……。
「もう、何かいつもこの話するとそうなるよね?」
「あ、ああ、そうだな……蚊の奴は変な話が好きなんだな」
ああ、そうか……つまり、そう言う事か……でもコイツ……。
「何で覚えてるんだ?」
俺は疑問をカインに問う……。
「何の事だ?」
「蚊が止まって気付く奴なんてそうそう居ないだろ? それに今チェルがこの話をしたらいつもって言ってたな? お前は覚えてるんだろ……自分の村に魔族の血を引く奴が居たことを……」
「…………」
対しチェルは覚えてないんだろう、俺の言葉に眉を顰め――。
「えっと……今居なかったって……」
そう言っているが、恐らくそれは呪いによる記憶消去だろう……。
だけど、どういう訳かカインにはそれが効いてないんだ。
「それが誰なのか覚えてはいない、だけどさ……誰かが居たんだ。俺が冒険者になりたいって言った時……渋るチェルの横に一緒に行こうって賛成してくれた奴が……確かにもう一人誰かが……」
「も、もう……またその話? 怖いんだけど……」
チェルの言葉に顔を背けるカインは此方へと向き――。
「クリエさんとキューラは何か知ってるのか? チェルの言う通り、これはただの妄想なのか? それとも本当に誰かが居たのか? ただ、顔も名前も分からないのに忘れちゃ駄目だって言うのは覚えてるんだ……」
その顔には笑みが張り付いておらず……カインはその事を真剣に考えているのだろう……。
だったら、俺が言う事は一つしかない……。
「確かに誰かが居た……それは俺には言い切れる。だから絶対忘れるなよ」
「そ、そうか……でもなんで言い切れるんだ?」
カインの疑問は最もだ……。
「それは、人の命を奪い……殺した人の記憶を皆から奪う……魔族が居るからですよ。だからその子の事少しでも覚えているなら、キューラちゃんの言う通り忘れては駄目です」
クリエはカインの目を見てそう告げる。
ミアラ先輩も俺も誰かの記憶が消えるのを体験した。
もうその人の顔は思い出せない……だが、俺はギリギリで誰かが居たことは記憶に残っている。
先輩はどうなんだろうか? もし、俺があの時消えていたら……俺は皆の中からも消えてたのか? そう思うとぞっとする。
最後の最後で悲しんでもらう事すらできないなんて……だったら、一人でも覚えてもらってるその子は運が良いんだろう……
そう思うと同時にやはり魔王は許せない! 倒すべき敵だ。
ただただ平和に暮らしてる人間を――無害な人達をよりにもよって子供を誑かし殺させている臆病者はとっとと引っ張り出して叩くに限る。
「そうか…………俺、チェルたちが言った通り変なものに憑かれてるんじゃないかって疑い始めてたんだよ」
「え、えっと……皆何を言ってるの?」
そう言葉にするカインはようやくその顔に笑みを取り戻した。
そうだ……忘れちゃ駄目だ……願わくば俺達が魔王を倒した時に記憶が戻ってくれると良いんだが……。