151 王からの手紙
レムスは無事に戻って来た。
しかし、まだ日数はかかる様だ……次の手紙を待つ間。
キューラ達は村長の好意で宿を借りることが出来るのだった。
あれから数日経ち……。
俺達は宿に泊まっていたが、その待遇は快適と言って良い物だった。
寧ろこんないい待遇で良いのだろうか?
そう思いつつも、村長の好意に甘えていたのだ。
そんなある日……。
ドンドンドンドン!! そんな大きな音を立て、扉は軋み……。
「ひぃ!?」
「な、なななん!?」
同室になってしまった少女達の代表イールとステラは互いにその身を抱き寄せ合う。
「アイシャ……ここには普通の女の子もいるんだ」
俺は訊ねてきたのが村長の孫娘であるアイシャだと睨みその名を呼ぶと……彼女は一切入っても良いと言ってないのにもかかわらず扉を開け……。
「私は鳥替わりじゃないの!!」
「それは村長に言ってくれ……」
俺がうんざりしながらそういうと彼女はふんっと息を吐きだすとクリエの方へと向き、その表情を明るくする。
「こんにちは、クリエさん!」
「こ、こんにちは……」
流石のクリエも彼女は苦手なのか、一歩後ろへと下がり、引きつった笑みを浮かべた。
彼女はその後にすぐに俺の後ろへと移動すると抱き着いてくる。
狭い部屋で暴れる訳にはいかないし、大人しく受け入れると……。
「うへへ……キューラちゃんが許してくれるようになりました……」
なんとも嬉しそうな笑い声をこぼす。
それを見たアイシャの方は頬を膨らませ……。
「王様から手紙が届いたの! 早くお爺ちゃんの所に来て!!」
そう怒鳴りながら告げてくる。
王様……つまり、クリード王ってことか? それにアイシャを送って来たという事はよっぽどのことじゃないのか?
だって、彼女は夢見の巫女と呼ばれる子で尚且つ村長の信頼を置く人物のはずだ。
だとしたら、まずい事でも起きているのだろうか?
「分かったすぐに行く、行こう皆!」
俺はそう言うと仲間達を連れ再び村長の元へと向かう。
いやな予感を抱えながら訪ねると其処に居たのは笑みを浮かべていた村長だ。
彼は俺達が入るなり、「おおお」っと声を上げ笑い始めた。
「よく来た、まず最初にキューラよお前の働きのお蔭でこの村は助かった」
「ん?」
俺は彼の態度を見て首を傾げる。
アイシャを送ってきたというなら嫌な事ではないか? と勘繰っていたが、どうやらそうでもない様だ。
「助かったってことは……」
「ああ、あの商人が良くやってくれたようだ! この村はこれからクリードの管轄下に入る。だがキューラよ君の手紙により神の子を守る剣と盾にもなって欲しいと書かれていた」
そうか、王様はただこの村を救うとは考えてなかったんだな。
確かにそれならばただこの村を救うだけじゃなく、ちゃんとクリエを守る為の力にもなる。
俺に……俺達にとっても助かる事だが……。
「それで良いのか? 貴族達と戦うかもしれないんだぞ?」
「……それは元からだ、覚悟ならとっくにしている」
彼はそう言うと、頭を深く下げ始めた。
「何日も足止めさせてすまない、しかし……助かったこれからこの村一同、君たちの助けとなるように動こう……」
「それは良いんだけどね、その手紙とやらは見せてもらえないのかい?」
トゥスさんがそう言うと彼は一通の手紙を取り出し、わざわざ俺達に渡してくれた。
そこに書かれていたのは今彼が言った通りの内容……。
嘘偽りはない様だ……といってもトゥスさんは心配し過ぎじゃないだろうか?
そう考えていると彼女は俺の方へと鋭い瞳を向けてきた。
俺は無言の訴えに頷くと、村長の方へと視線を戻し……。
「これで依頼は終わりだな? 俺達は次へ旅立とうと思ってる」
「いや、まだ君達を旅立たせる訳にはいかない」
ん? なんだ? 急に……笑みが消えた?
「ワシが言うのもなんだが、君達はまだ弱い」
「なんだって?」
苛ついた様子を隠さずにそう口にしたのはトゥスさんだ。
だが、確かに村長の言っている事は間違っていない。
トゥスさんとクリエはともかく、俺は弱い……。
ん? でも君達と村長は言っていた、どういう訳だ?
俺が首を傾げると彼はゆっくりとその口を開き語り始めた。
「確かに個々の力は優れているだろう、だが……お前達は本当の意味で協力をしたのか? そして、キューラよ……その傷は確か賊にやられたと言っていたな?」
確かに、俺は女の子たちの事を話す際にこの傷の事も話した。
しっかりと頷き返すと彼は溜息をつき……。
「人間と言うのは一人では出来る事が限られている……だからこそ、お前達は弱い」
「何を言ってるんだい? ちゃんと協力して戦っているんだ……観てない奴に文句を言われる筋合いはないね」
んー協力しているか? で考えるとしているとも言えるし、そうでないとも言える。
正直トゥスさんには信用はされていても信頼はされていないような気がするんだよな。
クリエに関しても危ないから危険だから、死ぬかもしれないんだから、っと……ついこの間言い合っていたばかりだ。
今もまだ、その気持ちは彼女の中で渦巻いている事だろう……。
「そして、協力を得るには互いの力が近しい物であるのが好ましい……」
村長は言葉を続けゆっくりと瞼を閉じると再び開く……。
「アイシャがお告げを夢見た……その場所を調べよう、キューラよその傷を今はゆっくりと癒すのだ……」
「癒すのは構わないでも調べようって事は……」
まさか、と思いつつ俺は村長に尋ねる。
すると彼は頷き……。
「お前の力は優れている……しかし、戦いになれた二人には追い付けてはいない……今までは気力や精神面でどうにかして来れたのだろうが、これ以上は無理だ……なら己自身に自信をつけるのが早い」
「……」
明確な答えは返ってこなかった。
だが、己自身に自信を……それは恐らく修業を表す言葉なのだろう……。
それなら、俺が願っていた事だ……。
「キュ、キューラちゃんに危険な事を――?」
「…………クリエ、良いんだ。どっちにしても強くならなきゃいけないのは変わらない、もしアイシャが見た夢が俺に関わる事なら、クリエを守るのに関係するのなら、俺は喜んで受け入れる」
だから、そう答えたんだ。




