149 ゾルグへの帰還
少女に謝ったキューラ。
彼はクリエなら助けたと言い張った。
しかし、それは確かにキューラが問った選択であり、クリエはその言葉と彼の守ると言う言葉に安堵したのか、代々家に伝わる首飾りを渡すのだった。
それから名もなき村へと何とか辿り着いた俺達は村長の元へと向かった。
理由は簡単、あの子達をかくまってもらうためだ。
本来ならばゾルグか何処かが良いのだろうが、あそこは信用できないからな。
その点この村ならば、元々騎士をやっていた人間もいるし、安全のはずだ。
そう思い街の中を馬車で進んでいると……。
「着いたよ」
トゥスさんの声が聞こえ、俺達はようやく馬車から降りる。
「イール、ステラ……君達も来てくれ」
俺は二人の名を呼び、馬車から降りるように頼む。
すると顔を出した二人の少女は首を傾げ始めた。
「わ、わかりました……」
「何で私達?」
疑問を持っているようだが、ちゃんと理由はある。
まず二人は最初から俺達と親しい方だ……。
喧嘩腰ではあったもののまともに会話をしていたのはステラとだし、イールは最初から親しげではあった。
次にクリエの奇跡……これの事を知っている人物だからだ。
これから先、増やしていく仲間……その条件はクリエの事を犠牲にしない、する方がおかしいと考えてくれる奴だ。
ならば、先に此処の村長とは会わせておいた方が良いだろう……。
そう考えた結果、彼女たち二人を代表に立てようと思いついた。
「良いから、頼むよ」
俺はまだ、捕らわれていた子の中に貴族が残っていないかなんて分からないし、下手に聞いたら怪しまれる可能性だってある事から、頼むと一言だけをステラへと告げる。
すると彼女は不満気な表情を浮かべるものの馬車から降り……。
「仕方ないなぁ!」
そんな風な言葉を口にした。
二人が居る事を確認した俺は扉をノックをした所……。
「アタシは暫くここで待ってるよ、この子達ほっぽって置く訳にはいかないだろ?」
「あ、ああ! 助かる」
しまった、そっちの事はすっかり頭に無かった。
反省しつつ扉が開くのを待ち……暫く待っていると……扉は開かれ、柔らかい表情の男性が出てきた。
「おや、貴女方は……どうぞ、お入りください」
部屋の中に通された俺達の所に村長はすぐに来てくれた。
彼は俺とクリエ、そして二人の少女、最後にまた俺……俺の足へと目を向けた。
「まず、一つ聞きたい事が……外に馬車にあると聞いたのだが……」
「ああ、途中で闇商人と出会ってな……その時に助けたんだ」
俺がそう言うと彼は頷き、再び視線は足へと向かう。
「そうか、ではその傷はその時に……後で魔法使いを手配しましょう」
「助かる……」
そして俺から目を少女達へと移した村の村長……ラルクはそのまま口をゆっくりと動かした。
「この子達は責任をもって村で預かろう……他の者達も身寄りがないんだろう? なら、ワシ達に任せて置け」
そう言われ、俺はほっとしていた時だ。
扉は荒々しく叩かれ、すぐに男性が部屋の中へと滑り込んでくる。
何事か? そう思ったとの同時だろうか?
「そ、村長! 大変です!! 魔物が!!」
「慌てるな、魔物ぐらい……村の連中でも対処ができるだろう?」
呆れた様に言う村長だったが、すぐに男は首を振り……。
「ニースクロウです!」
「なんだと……?」
村長はその表情を変える。
当然だニースクロウは雑食性……人の子供だって食べる事がある凶悪な魔物でもある。
しかし……ニースクロウ……って、レムスの事か?
いや、他に思いつくことが無い。
野生の魔物が森を抜けてここまで来るとも思えないしな。
「多分、俺の使い魔だ」
正直にそう言うと慌て始めていた村長は溜息をつき……。
「ならば村の者に伝えろ、手を出すなと……」
「ですが、もし勇者殿…………の従者殿の使い魔ではなかった場合は!?」
おい、ちょっと待ってくれ……今明らかに勇者の所で俺の事を見てたよなこの人。
だから、俺は違うって言ってるのに……まさかラルクは俺の事をそう祀り上げてはしないよな?
俺ははっきりと言ったんだからそれは無いと思うが……。
「大丈夫だ、キューラ達には至急魔物の元へと向かってもらう、良いな?」
「ああ、勿論だ」
どっちにしろ、俺が行かないとどうなるかは分からないからな。
悪さはしないで真っ直ぐにこっちに向かって来るとは思うが一応保険の為に迎えに行こう。
「で、何処に居るんだ? レムスは」
そう男性に尋ねると彼は顔を一瞬変な風に笑み……だろうか? 歪ませた。
「こ、こっちだ!」
「……ん?」
なんか変な奴だな? そう思っているとクリエに抱きつかれてしまった。
この頃避けれないな。
「キューラちゃん気を付けてください」
「なにをだよ……」
気を付ける事なんかないだろうに……。
そう思いつつ俺はクリエの手から何とかすり抜けると男性の後を追いかけた。




