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148 勇気ある者

 勇気ある者……勇者。

 他人に勇者と呼ばれたのはこれで二回目だ。

 しかし、自身はそうではないと思うキューラ……だが、それでもその言葉には彼の心を動かす者があった。

「ごめん……」


 俺は先程礼を告げてきた女の子に対し、頭を下げていた。


「え……あの……」

「俺は、自分が何も出来てないんじゃないかって勝手にそう思い込んで……君にあたってしまった」


 正直にそう告げた俺は下げた頭を更に下に向け、再び謝罪の言葉を口にする。

 俺が落ち込んでいようがなんだろうが、この子には関係のない事だった……。

 だってのに……俺はこの子にあたった。

 その事はちゃんと謝らないといけない。

 じゃなきゃ、クリエはいつまでだっても俺を信頼してくれないだろう……。

 俺はクリエを助けたい。

 だけど、それにはまず……。


「さっきも言ったけど必ず安全な村や街に送っていくよ」


 目の前のこの子達を助けられなければそんな事は不可能だ。

 だからこそ、さっき思ったんじゃないか、徐々にでも良いから実力をつけて行きたいと……。

 その為の修業をしなくてはならないと……。

 だけど、焦っては駄目だとも考えたはずだ。


「…………あの……」

「ん?」


 俺は彼女の方へとようやく顔を向けてみると、彼女は笑みを浮かべ……。


「ありがとう」

「…………」


 先程と同じ言葉を俺へと向けてくれた。


「……助けようと思った訳じゃない、ただ、放って置けなかっただけだ……」


 クリエなら……彼女ならきっとそうする。

 俺はそう思ってこの子達を助ける事を決めた。


「キューラちゃん……それって……」


 話を聞いていたクリエはほっとしたような声を出していた。

 だけど、俺は事実ゆっくりと付け足した。


「クリエなら見捨てないだろ? だから、俺はこの子達を助けるって言った。君ならそうしてた、不思議だけどそう確信したからな」


 あくまで俺の意思ではない。

 助けたのは俺達だ、だけど……そう思わせたのはクリエだ。

 その事だけははっきりさせておきたかった。

 へりくつだろうと面倒臭い奴だと思われても構わない。

 今の俺はきっとクリエが居なければダメな奴になるだろう……彼女を守れなかった時、俺は自分自身がどうなるか分からない。


「だけど、そう判断したのは君だよね? なら、私がお礼を言う子は君だよ?」

「……そういうものなのか」


 そう思いつつも、先程は拒否していた言葉がなんだか暖かく感じた。

 だが、不安がぬぐえたわけではない、そう思い恐る恐るクリエの方へと向くと……。


「やっぱり、キューラちゃんは良い人です」

「…………」


 ようやく微笑んでくれたクリエはそう言い、俺は……。


「だから、前に言ったろ? その良い人ってのは止めてくれって……」

「なら可愛くて優しい子です!」


 おいおい、なにが「なら」なんだか、そう思いつつも俺は思わず笑いをこぼす。

 すると、急にクリエに抱きしめられそうになり、気が付き慌てて避けようにも狭い馬車の中では逃げようもなく……。


「キューラちゃんはそのままでいてください、だから……」

「分ってる、だから……きっとクリエの事も助ける。俺はちゃんと約束をした」


 捕まってしまったものは仕方ない、そう思い何度目かになるそれを口にするとクリエは一瞬悲しそうな表情を浮かべるも再び笑みを浮かべ……。


「うへへ……」


 照れくさそうに笑った。

 ようやく見れた彼女の笑顔に何だかほっとした俺は……。


「クリエは笑ってる方が良い」


 思わずそんな事を口にすると、彼女は顔を真っ赤に変え、そっぽを向いてしまう。


「クリエ……?」


 もしかして、また怒らせてしまったのだろうか? そんな不安を感じ俺は彼女の名前を呼ぶ……すると、彼女はこっちへと顔をゆっくりと向け……。


「…………」


 黙りつつ、何処か寂しそうな目をしていた。

 ついさっき取り戻したばかりの笑顔を失わせてしまった。

 その事だけが、ショックだった俺は慌てて……。


「何があっても、俺は傍にいる……例え離れる事になっても絶対に迎えに行く……だから、そんな寂しそうにしないでくれって」


 今までの人生の中で一度も言ったことの無い……いや、言うとは思わなかった言葉を彼女へと告げる。

 すると……。


「うわぁ……まるでカッコつけた男が言うような言葉……」

「じょ、状況が状況なら……羨ましいです……」

「…………」


 3人の少女達所か他の子達にも注目され、セリフを口にした俺が恥ずかしい目に遭ってるが、し、仕方ないだろう!?

 これ以上クリエが寂しそうな顔とか、悲しそうだとかが嫌なだけだ!!

 というか、お礼を言って来た女の子は何故顔を赤らめて首をぶんぶんと振っているのだろうか!?


「やっぱり、女の子は女の子と……」


 そして、なんか言い始めたぞ!? と言うかお前もか!?


「キュ…………キュキュキュキュキュ、キュキュキュキュキューラちゃん!?」

「んぁ!?」


 俺が一人、心の中でそう叫んでいるとクリエは突然、俺を手放し……。


「そ、そそそそそそ、そその! こ、こここ、婚約は嬉しいですがっ!?」

「誰も言ってないって!? 守るって言ったんだ! 当然だろ!」


 何故そうなる!?

 そりゃ、俺が男に戻ったら考えなくも……ないって俺は何を考えているのか……。

 なんか悲しくなってきたな。


「キューラちゃん?」


 がっくりと項垂れた所、クリエはうわずった声で俺の名前を呼び……顔を覗き込んでくる。

 だから、それは反則だろ? そう思いつつも、なんとか心の内を表情に出すことは押しとどめ……。


「約束だ……」


 それだけを口にした。

 すると、彼女は……ぽかんとすると、先程とは違いちゃんとした笑みを浮かべ……。


「はいっ! うへへへ……なんだか物語のお姫様みたいですっ!」


 そんな事を口にし、首からかけていたペンダントを取り出し……。


「なんだそれ?」


 俺へとそれをつけさせてくれる。

 アクセサリーとかに興味はないんだけどな……とはいえ、拒否したらクリエが悲しむかもしれない。

 そう思うと大人しくしている他はなく……。


「私の家に伝わる物で、大切な人に渡すんです……本来は婚約者……にですが……うへ、うへへへへ」


 照れくさそうに言いながら笑っているが……なんというかうへへ笑いの所為で全てが台無しになっている気がするのは俺の気のせい……って婚約者!?


「だから、婚約は――!!」

「それでも、キューラちゃんが私にとっての特別ですから……」

「うぐ……」


 くそう、これじゃ断れない。

 はぁ……仕方ない、別クリエが嫌いって訳でもないし、この姿のまま生きていくとしたらあの両親に旦那を用意される可能性だってある。

 婚約指輪と同じと言われると嬉しさ半分、困惑半分と言った感じだが、クリエなら良いと自分でも納得は出来る。

 ましてや、ほっぽっておくと他の女の子に手を出さないか心配になるからな……。


「い、嫌……ですか?」


 俺が頭でうだうだと考えていると、クリエは再び不安そうになっており、だからそんな態度を取られたらこっちとしては断ることはできないって……。


「嫌じゃない、ありがたく貰っておくよ」

「はいっ! うへへ……」


 俺の答えに彼女は満足そうな笑みを浮かべるのだった。

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