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147 勇気と勇者

 馬車の中、襲ってくる魔物に対し何も出来ないキューラ。

 その事を悔やみ、彼は少女の一人につらく当たってしまう。

 ……何をやっているのだろうか? そう反省した彼だったが……。

 それから馬車に揺られつつも俺達は進む。

 その間、俺は一人孤立していた……いや、違うな。

 わざわざ皆から離れるように座っているのは俺自身がそうした事だ。

 理由は簡単、さっき女の子にあたってしまった……その事がずっと気がかりになってしまい、こうしている訳だ。

 あれは駄目だ、俺は……クリエを守る為に魔王になると言った。

 だけど、今の魔王の様な奴になる訳ではなく、仲間に信頼される人間でいないといけない。

 だって言うのに……あんな子供みたいに拗ねて……そりゃ、クリエに信じられていなかったとういうのはショックだった。

 だけど、俺自身……心のどこかではそう思っていたし、今回の事で嫌われるとすら思った。

 事実、泣かれて怒られてしまった……。

 あれからはまともに口をきいてないし、このままそうなるのかもしれないと思うだけで苦しくもなってくる。

 それでも彼女を助けたいのは俺のわがままだ。

 わがままを突き通すために子供の様な態度でいるという方法もあるが、今回はそうじゃない、認めてもらわなきゃいけないんだ。


「………………」


 先程、俺に感謝の言葉を伝えてきた女の子はチラチラとこちらへと目を向けて様子を窺っている。

 怖がらせてしまった事もあり、俺は若干その視線が痛いとも感じていた。

 だが、仕方がない……彼女は素直にありがとうと言って来たのに、俺はそっけなく……あのまま言葉を続けていたら、関係ないあの子にすべての不満と不安をぶつけていたかもしれない。

 そう思うと溜息しか出ず、俺は足を治療してくれているライムへと手を伸ばす。

 冷たく、柔らかいライムはそれを拒否する事無く受け入れてくれた。

 ゆっくりとライムを撫でてやると、気持ちが良いのかぷるぷると震えて喜んでいた。


「た、溜息は幸せを遠ざけるんですよ……」


 そんな言葉が聞こえ、俺はゆっくりと顔を上げる。

 声をかけてきたのはイールだ。


「そういうものなのか……はぁ……」


 そうは言われても溜息しか出てこないのだから仕方がない。

 焦っても意味はないが現状役立たずになっており、更には助けたはずの女の子にあたり、クリエには泣かれてしまった。

 これが溜息をつかずにいられるだろうか? いられないって……。


「ほらまた! 勇者様と話してた時のあの意気込みは何だったの!?」


 そう怒鳴る様に言って来るのはステラだ。

 彼女は彼女で回復魔法の使い手だ……チェル程ではなくともそれだけで今の俺達には助かる存在となっている。


「そうは言われてもな……」


 これと言って方法は見つからないし……現状役に立てるわけじゃ……。


「何かあんな啖呵切ったり、急になよなよしたり……女っぽい男みたいだよ! 女の子だけど!」

「――っ! 俺は――」


 俺は男だ! そう叫ぼうとしたが言われた通りで思わず口を閉じてしまった。

 女々しい、確かにそうだ。

 何時までもうじうじ、うじうじと情けない。

 でも、な……。


「あのね! 君が傷を負って一人で残った時は皆心配したし無謀だって言ってた! 私もそう……」


 それはそうだろう、実際運良く逃げ切れたんだ。

 いや、見逃してもらえたんだ……。


「だけど、戻って来て、それで……」


 ん?


「そ、その……無謀じゃなくて勇気があったんだって何人かは言ってました……これで私達も本当に助かるかもしれないって……」


 ステラに続きそう口にしたイールは後ろにいる少女達を見回すと……言葉を付け加える。


「希望が見えたんです……ううん、それだけじゃない勇気を貰えたって思いました……。意味が変わってしまうかもしれませんけど……キューラさんも勇者って呼んでも良いんじゃないかって……」

「勇……者……?」


 俺がそう口にすると、イールははっと表情を変え慌てて首をぶんぶんと左右に振る。


「ち、違うんです。その、その時は……あの、知らなかった……」

「そ、そうだよ! イールは別に悪気があって……」

「分ってる……」


 それは分かってる事だ。

 この二人は悪気があって勇者と言う今の言葉を言った訳ではない。

 だから俺は頷きながらそう答えると……。


「大丈夫だ」


 そう口にした。

 それにしても、勇者……勇者か……勇気があり、人にはできない事を成し遂げる人物それが俺の知る勇者だ。

 だが、この世界では世界を救う為に自らの命を絶つ宿命を持ったいわば人柱。


「…………」


 でも彼女達は俺を勇者と言った……勇気を分け与える者という意味で……。

 そう考えると確かにそれも勇者の役割だ。


「キューラちゃん……」


 二人に言われた事を考えていると、懐かしくも感じるその声が聞こえた。

 彼女は不安そうな顔を浮かべ……ていて、こっちまでそんな気持ちにさせられる。


「………………クリエ?」


 少しの間をおいて彼女の名前を呼ぶと……。


「キューラちゃんは変わってしまうんですか?」


 そんな事を言われた……。

 俺が、変わる? 人殺しにと言う事だろうか? それともさっきみたいに礼を告げてきた子にあんな態度を取る様にと言う意味だろうか?


「私は、私は……貴方が他の誰かを守る為に志願してきたのを知ってます……自分なら呪いが効かないからって! だけど、そんな優しいキューラちゃんは私の為に――!」


 ああ、そうか、口で何を言ってもこの子には伝わらない。

 ずっとずっと……誰かに騙されて来たんだろう……だから俺は……信用はされていても、容姿は気に入られていても、信頼はしてもらえてなかった。


「大丈夫だ、見ててくれクリエ、俺は……俺のまま俺として生きて行く何も変わらないよ」


 自分を見せるしかない、そう思い……口にすると、何か楽になった気分がした。

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