146 馬車
死した少女と別れを済ましたキューラ達。
彼らは残った少女達を安全な場所へと連れて行くために進む。
そんな中、キューラは魔法について調べるのだが……師から受け取った本にはどこにもあの魔法については書かれていないのだった。
あれから、暫くし……。
森の中に響き渡る銃声。
これまでに何度魔物に遭遇してきただろうか?
出てくる魔物との戦いに俺とクリエは参加していなかった。
理由は当然、万全じゃないからだ。
今出て行っても俺達は足手まといが良い所だ。
その点、トゥスさんならば遠距離からでも魔物を狙い撃つ事は出来た。
「……チッ!」
だけど、彼女が今舌打ちをしたように現状は良い状況ではない。
銃声を聞き、逃げる魔物は中には居るだろう……。
だが、逆も当然居る。
いや、寧ろその銃声と仲間の血の臭いに気付きこちらへと向かってくる魔物が殆どだった。
「トゥスさん! やっぱり俺も……」
剣を使って戦うならともかく馬車から降りて魔法で援護するぐらいなら出来るだろう。
そう思って申し出たのだが……。
「駄目だ……」
「あのな! このままじゃ俺達全員……!」
死ぬぞ! その言葉は飲み込みつつもトゥスさんを睨むと彼女は御者の席からこちらへと目を向け……。
「馬車の中からどうやって相手を見るんだい?」
「一回降りてだな……」
そう告げると彼女は溜息をつき……。
「走りながら魔物と戦ってるんだ、降ろせるわけないだろう?」
そ、そう言われると何も言えないな。
確かに立ち止まってたりしたらいつまで経っても魔物は集まってくる。
だが、現状だってそうだ。
どうにかしないと、銃声で位置を知らせているような物なんだし……。
「どうしても手伝いたいって言うなら、いざという時にケツを守ってくれないかい?」
「…………」
彼女の言葉に俺は答える事は出来なかった。
先程から集まってきている魔物はトゥスさんが倒してくれている。
それも彼女は器用に弾を込めながら戦っている訳ではない。
イールが以外にも教えられた事をこなせるようだったので、弾と火薬は彼女に任されている。
撃ち終えた銃を彼女へと渡し、新たに銃弾を込められたものを受け取ると再び轟音は鳴り響く……。
この二人は意外にも良いコンビだ。
いざという時なんて来るのだろうか? そう思ってしまうほどに……。
対して俺は現状ただの役立たずだ……最初は弾込めにも参加していた。
だが、火薬の量が違ったりで役に立てなかったのだ。
「返事は?」
「…………分かった」
そう答えるしかなく、俺は大人しく馬車の後方へと移った。
だが、魔物は現れてこない。
いや、正確には側面からくる魔物もトゥスさんが先に撃ち抜いているか、威嚇射撃をしているからそれで驚いて逃げているのか、偶々出てきたとしても撃ち抜かれている。
そんな事を続けていると魔物達も危険だと判断したのだろう襲い掛かってくるような魔物は数を減らしていった……。
ましてや馬と言うのは動物、魔物含めても相当速い、よほど大きな魔物でなければ速さで負けるという事は稀だろう。
「キューラ……」
「…………」
そんな事を考えていると声をかけてきたのはステラだ。
彼女は走らせ続けている馬車の中で気分が悪くなった子達を診ていたはずだが、俺と言えば役目が無くここで座ってるだけだ。
「大丈夫? 顔がすごく怖くなってる」
「……ああ」
なるほど、さっきから逃げていく魔物は俺の顔を見て逃げたのか? いや、そんな訳ない、単純に追いつけないと悟ったに違いないな。
「もうすぐこのクソッたれな森を抜けるよ!!」
到底エルフとは思えないそんな台詞を吐いたエルフであるトゥスさん。
その声に歓声を上げるのは捕らわれていた少女達。
彼女達はクリエやイール、ステラ……そして、馬車に乗りながら戦っていたトゥスさんを称賛しているのだろう、大きな歓声だ。
だが、俺はどうだ?
いや……何を卑屈になってるんだ。
今の俺は怪我人……でも、だけど……何も出来なくて、何もしていない。
そう思っていた時だった。
「ありがとう!」
そんな言葉が聞こえ、抱きつかれた事に俺は驚き思わず身体をびくりと震わす。
誰だ? クリエではない、そう思い視線を動かすと……。
この場に居る女の子の中で年上らしい女性がどうやら抱き着いて来ていたみたいだ。
「君達が来てくれなかったら、私達どうなっていたか……」
不安だったのか彼女の瞳からは大粒の涙が流れ……それでも笑みを浮かべている少女は何度もありがとうと言う言葉を繰り返してくれた。
だけど……。
「俺が何かをやった訳じゃない」
彼女に返した言葉は不愛想な言葉だけ……。
嬉しい言葉のはずだ、だけど……この時、俺の胸の中にあったのは……。
「…………え? で、でも……私達を……」
「君達を助けたのは偶々だ、俺が俺が助けたかったのは……」
クリエだけ……その言葉を飲み込み、俺は何をやっているんだっと自身を責めた。
なんでこんなただの女の子にあたってる……情けないにもほどがある!
そう心の中で自身を怒鳴りつけると……。
「ごめん、とにかく助けたからにはちゃんと安全な所までは送り届けるよ」
出来るだけ優しい声を出したつもりだった。
だけど、女の子は一瞬怯えるような顔を浮かべ――。
「キューラちゃん……」
それを見たクリエの責めるような声が聞こえ胸を突き刺した。
本当……………………何をやっているんだろうな。




