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145 木の実

 自分の為なら喜んで人を殺すのか?

 クリエはキューラに問う。

 だが、キューラはそうじゃないと言い、自身の気持ちを彼女へと伝えるのだった。

 あれから俺達はイール、ステラの手を借り、逃げた少女が魔物へと殺された事を他の少女たちに伝えた。

 なぜ逃げたのか……それは二人の機転のお蔭でなんとかなった。

 その機転とは……。


「まさかそんな物があるとはね」

「は、はい! この辺りの名産品だったんです」


 そう口にするイールの手にあるのは木の実だ。

 名前はチルツ……転生前は聞いた事も見た事もない果物だ。

 いや、正確には転生しても今までは見た事もない物だった……つい昨日までは……。

 そう、その木の身こそ俺がレムスへとあげた物。


「これは神の果物とも言われていて、不思議な触感と味で美味しいんです。ある魔物も好物なのですが、どういう訳か人の手に渡った物しか食べないんです」

「ん? どういう意味だ?」


 好物なのに食べない?

 なんか変な話だな……。


「言った通りだよ……その木に近づいて見る事はしても口にしない、人から奪って食べるんだ……」

「奪って食べる?」


 クリエも同じ疑問を浮かべたのだろう首を傾げつつ尋ねると二人は頷き……。


「は、はい、ニースクロウ……と言う魔物です。か、賢い事から取らないのには何か理由があるのでは? って言われてますけどよくわかってないんです」


 なるほど、だからレムスはこっちを見てたのか……。

 あの木の実……チルツを手に入れたいが、自分では取れない。

 一回人の手に渡る事でなにかが変わるのか? それは分からないけど、とにかく人の手にある。

 もしくは他の生き物の手にあることが重要なのか?

 うーん、でもそれなのに人は取ることも食べる事も出来る……。

 なんか変な実だな。


「それで、これを取ってきた事にしちまうとはね……」


 悲しむ少女達を横目にトゥスさんは木の実を口にし、それを暫く噛むと……。


「美味しい物じゃないね」

「……そ、そうですか!?」


 文句を言い始めイールは慌て始めた。


「いや、貰い物に失礼だろ?」


 俺はそう言うと口へと木の実を放り込む。

 すると……何とも言えない酸っぱさと甘さ……。

 絶妙な感じで美味しくないという事は無く、寧ろすごく美味しい……しかも歯ごたえだ。

 少し硬めでグミの用だが、噛むとガムの様に段々と柔らかくなり、溶けていくように消えていく……。


「美味しいです、よ?」

「ああ、美味いなコレ!」


 これは確かにレムスが欲しがるのも分かる。

 試しにライムへと渡してやるが……。


『………………』

「ラ、ライム?」


 ライムは俺の手の上にある木の実からぷいっと視線(?)を外し、そっぽを向いてしまった。


「美味しいぞ?」


 そう言っても反応が無いライムの目の前に林檎を見せてやると今度は喜び林檎に飛びついて来た。

 どうやらライムにはこっちよりも林檎の方が良さそうだ。

 レムスが帰ってきたら労いも込めてこれをあげよう……そう思いつつも、俺は少女達の方へと目を向ける。

 死んだ少女の事を悲しむ者、気にしない者……反応はそれぞれ違ったが、嫌われている様子ではない。

 だが、彼女が本当に死んだ理由は自分が貴族に戻る為にクリエの事をばらそうとした結果だ。

 …………これで良かったとは思えない、だが……それでも助かったとは言える。

 複雑な気持ちを抱えながら俺は口に残る甘酸っぱさと共に気持ち悪さも飲み込んだ。








 俺達はゆっくりと足を進める。

 足は相変わらず痛み、ライムが治してはくれているが歩くのがやっとだ。

 魔法が使えれば良いんだけど、残念ながら俺は古代魔法しか使えない……クリエの方は神聖魔法を使ったら倒れてしまう事から使わないでいてくれている様だ。


「参ったな……」


 俺は馬車の中で誰にも聞こえないように呟いた。

 傷の事ではない、少しでも修業を出来ない事かと先生にもらった本へと目を通していた事でだ。

 その理由はあの時に使った魔法。

 自分の思った場所から打ち出されるあれは使い勝手が良い。

 だからこそ、調べていたのだが……どこを調べてもそんな魔法の事は乗っていなかった。


 学校でも習ったことが無い事なので嫌な予感はしたんだが……もしかして、今まで使った人が居なかったのか?

 俺自身土壇場で一回、その後は出来なかった訳なんだし、単純に難しい技術なのかもしれない。

 だが、そうするとそれを平然と行っていたあいつは相当な腕だという事になる。

 いずれまた戦う事になるはずだ……出来れば同じ土俵には立てる実力が欲しかったんだが、そう上手くいかないか……。


「キューラちゃん……」


 俺が悩んでいるとクリエの声が聞こえ、そっちの方へと目を向ける。

 するとゆっくりと目を逸らされ、胸にナイフを刺されたような気分になった。

 あれから少し時間は経った……だけど、クリエは笑ってはくれないし、目も合わせてくれなくなってしまった……。

 辛いが、それでも俺は自分の言った事を撤回するつもりはない。

 こちらを見ようとしない彼女に微笑みを向けた俺は再び本へと目を移す……。


 あれが無理なら他の方法はないか、探すしかない……。

 それに一回は出来たんだ……地道に身に着ける方針で良いだろう……。

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