144 別れ
名も知らなかった少女。
元貴族のその少女はキューラ達の話を伝える為に逃げて行った。
しかし、彼女は死体となって帰って来る……。
アンデットになることを恐れたキューラ達は墓を建てる事にしたのだが……それは気分の良い物ではなかった……。
俺たちは残った骨を丁寧に地面へと埋めるとトゥスさんが作ってくれた墓標を立てる。
簡易的な物ではあるが、これでアンデット化は防げるだろう。
「…………皆には私達が説明する」
そう言ってくれたのはステラだ。
「ああ、助かる」
俺は素直にそう口にすると焼けた地面へと目を向ける。
今回俺は色々な体験をした。
いや、転生してからずっとそうだったが……今回は特別だ。
俺は自分の意思で人を殺し、クリエを助ける選択をした。
だけど、クリエは本当の意味で助けられるとは思っていなかった……。
俺が助けると言った事を喜んではくれたけど、期待はされてなかったんだ。
それはそうだよな……俺は、まだ弱い。
強くならなくちゃならない……命を奪う事でクリエが苦しむなら……余計な命を奪わない為にも……相手が圧倒するぐらいの力を仲間を得なくてはならない。
「………………」
その為には武器が必要だ。
イールからもらった武具店のチラシへと目を向けた俺だったが、いや違うと心の中で否定をした。
武器が強くとも俺自身が今のままじゃ駄目だ。
それじゃ力を得たけど使いこなせない魔拳と同じじゃないか!
やっぱり、強くなるしかない。
強くなるには……どうしたって時間が掛かる。
焦るな、今回は不幸ではあったが幸いでもあった……時間はまだ短くなってはいない。
焦っても何も結果は生み出さない。
「クリエ……」
俺は少し離れた場所に居た彼女の名を呼ぶ。
すると、少し、いや、かなり不安そうな女性は俺の方へと向き――。
「キューラちゃん……」
俺の名を呼ぶ。
「ど、どうした?」
その声に思わず、心臓が跳ねた俺は動揺し声がどもる。
「キューラちゃんは……私の為なら喜んで人を殺すんですか? それで良いって言うんですか?」
彼女は手に何かを大事そうに握りしめながら、泣きそうな声でそんな事を質問してきた。
話は終わりって言ったはずなんだが……彼女にとっては大事な質問なのか?
クリエの為なら? 確かに……俺は今回……。
いや、でも……だけど……。
「違う、クリエの為じゃない」
「……え?」
俺のその発言に反応したのはクリエだけじゃなかった。
だけど、これだけは伝えなくちゃならない……だってそうだろ? 彼女の言葉には頷ける部分はある。
でも、それを口にしたらいけないんだ。
「俺は、クリエを助けたい……俺の自身のわがままの為に戦う、そして……絶対に喜んで人を殺すなんて事はしない!!」
クリエの為になんて口にしたら、それこそ彼女を言い訳に使っているだけだ。
これは”俺が決めた事”で彼女を助けるという目標は”俺が勝手にそうしたかっただけ”だからな……。
「キューラちゃんのわがまま、の為……?」
驚いたような顔をして、クリエはそう口にした。
俺は黙って頷く……そうだ、俺は彼女を言い訳に使いたくはない。
例えそうじゃないとしても俺自身がそう思ってしまうから……。
「良いじゃないかい! 欲望のままに戦うなんざ魔王様に相応しんじゃないか?」
「茶化さないでくれ……」
トゥスさんは俺の今の言葉でご機嫌になったらしく笑みを浮かべていた。
だが、クリエは笑ってはくれない……そりゃそうか、彼女の為じゃないって言ったんだ。
それはそれで面白くないだろうからな……。
でも、それでも……彼女を守ることが出来るのならば俺はそれで良い……例え嫌われようとも、もう決めた事だ。
「わ、私の為に喜んで人を殺すんじゃないんですか?」
ようやく口を開いたクリエはもう一度そう口にした。
「俺だって人を殺したい訳じゃない、それがクリエの為だとしてもあんな気分が悪いのはごめんだ……だけど、君を傷つける何かがあるのなら、俺は歯を食いしばってでも吐き気を覚えて倒れそうになるぐらい気分が悪くても……戦う! そして、屈服させる」
そうだ、何も殺すことが手段じゃない!
屈服させるための力が欲しい……守る為に……その力が……。
「キューラちゃんは……キューラちゃんは……違うんですか?」
「ん?」
泣きそうな……いや、最早泣き声と言って良いクリエの声……違うってどういう事だ?
「私は……きっと! きっと……優しくしてくれるのは嘘だって……」
そうか、やっぱり信じてもらえなかったんだな……。
「だから、同じ事を言って……それで諦められるって思ってたんです……なのに、なんで! 貴方はいつも、助けようとして……おかしいって……」
同じ事……? どれがどういう意味だかは知らない。
だが、予想は出来るかつて居たのだろう……俺と同じ言葉を良い、彼女を傷つけた人が……。
でも、そんな事はどうでもいい! 俺は俺だ。
「悪いなクリエ、その人が何を言ったのかしたのかは知らないし、興味もない。だけどな例え従者でも俺はお前に従えない事はある……それはこんな狂った世界の為にお前の命を犠牲にするなんて事は絶対に嫌なんだよ……」
「へぇ……言うねぇ……まるで男だ」
いや、俺は男だよ!?
そう思いつつ溜息をついた俺は……クリエへと顔を向けると安心させるように笑みを浮かべる。
「俺は確かにクリエの従者だ……付き従う者で、君を守る存在だ……そうじゃなくても俺は君が居て、ライムが居て、トゥスさんが居て、ある意味親馬鹿な両親が居る。今の関係が良いんだよ! だからこれから俺がする事は君の所為じゃないし、俺のわがままだ!」
そうだ、その為に……見てろよアウク・フィアランス……。
お前の言った通り、俺はこの魔拳をも使いこなしてこのわがままを貫き通してやる。




