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143 悲鳴

 キューラ達の話は聞かれていた。 

 しかし、不運な事に話を聞いていた中に元貴族の少女が居たとの事だ。

 彼女はその場から逃げ出してしまった様だが……悲鳴が聞こえて来て……。

 シュター武具店……それはどうやら神大陸ではなく魔大陸の港町にある武器屋の様だ。

 だけど、なんだこのチラシ……購入には一つ依頼を受けてもらい、それから売るかどうかを決めます……だ?


「あの……私の親戚なんです。そ、その……気に入った人にだけ武器を作るって……」

「よ、よくそれで潰れないね……」


 ステラは苦笑いを浮かべるが、俺も同意見だ。

 するとイールは可愛らしくもやはり苦笑いを浮かべ……。


「そうおもう……」


 思っちゃうのか……。

 だけど、魔王を倒すには結局魔大陸に行かなきゃならないだろう……そして、奪う事が法律の様な大陸でのこの謳い文句。

 店主は相当な腕を持ってるのかもしれないし、武器も良い物だという自信がチラシを見ても分かる。

 クリエの剣を新調するのにも俺の剣を新調するにも一度は寄った方が良い。


「ありがとう、あっちに行く時は寄ってみるよ」


 礼を告げるとイールは恥ずかしそうにステラの裏へと隠れてしまった。

 そんな様子を見てだろうか? クリエはやけにうーうー唸り声を上げたかと思うと拘束をさらに強めてくる。


「ク、クリエさん? 少し苦しいんだが?」


 このままでは圧迫骨折させられそうだ。

 そんな恐怖を浮かべた俺はクリエへとそう告げるが、当の本人はそっぽを向いてしまい。


「知りません! 私の言う事を聞いてくれないキューラちゃんなんて知りません!」


 いや……うん……拗ねていらっしゃる。

 そんなに俺が本気だったのが嫌なのだろうか? いや……声は怒ってる感じはしないし、どこか可愛らしい感じで拗ねてるから違うのか?

 とにかく、流石に骨を折るまで締め付けるって事は無いだろうからな……大丈夫だろう。


「それで、どうすれば良いの? まだ、待ってる?」


 ステラはクリエと俺の間に視線を彷徨わせながらそう質問をしてきた。

 俺と言えば……森の奥へと目を向け……。


「ああ……、もうすぐ戻ってくる」


 そう告げる。

 確信はなかった……しかし、俺の言葉に応えるように、銃声は森の中へと響き渡った。







 それから暫くして、トゥスさんは一人の少女を抱きかかえ戻って来た。

 だが……。


「一人で勝手に出歩くからこうなる」


 森から戻ってきた彼女はそう呟いた。


「「……え?」」


 ステラとイールは声をそろえて驚いていたが、予想はしていた。

 いや、悲鳴が聞こえた時点でそうなる事は明らかだった。

 駆けつけたところで相手は少女と魔物、もしくは野生の動物だ。


「間に合わなかったよ」


 トゥスさんはそう口にするなり俺の前へと恐らくは腹を喰われている少女の死体を置く……。

 何故わかったのか? そんなのは簡単だ……トゥスさんは俺達を気遣ってくれてるのだろう、彼女の腹には布が掛けられている。

 だが、それは赤く染まっているし、なによりその表情だ……。

 苦痛、悲痛、とにかくそう言った顔で固まっていた。


「……そんな、酷い……」


 クリエはそう呟くなり、少女の傍らに座り込み祈りを捧げるように両手を合わす。

 彼女はこの子の所為で立場が危うくなるところだったというのに変わらない様だ。

 そんな事を思い浮かべていると、トゥスさんは俺の肩へと手を置き――。


「キューラ、このままじゃアンデットになるよ」


 っと口にした。


「分ってる……」


 生ける屍。

 ゲームなどではおなじみの魔物であるそれは生前に何か強い思いを残したりすると生まれてしまう。

 そして、生前に残していた強い思いだけに従う魔物と化し、最終的には脳まで腐り無差別に人を襲うようになる。

 つまりこの子の場合、貴族に戻る為にクリエの事を報告するというのは変わらないという訳だ。


 だが、トゥスさんのアンデットになるという忠告はそう言う事ではない。

 実はわずかだが、ごくまれに生前の記憶を保持したままアンデット化することがあるのだ。

 つまり、俺のような感じだが……そうなると自身が死んだことにショックを受け、また……醜い姿に発狂し、暴れる。

 普通のアンデットよりも手が付けられない状況になる訳だ。

 例え、それが子供であっても魔物化すると同時に人一人は容易く殺せる力を得るからたまったもんじゃない。


「クリエ……」


 俺は彼女の傍にいるクリエへと声をかける。

 すると、クリエは黙ったまま立ち上がり、少女から離れた。

 例え万能と謳われる神々でもアンデット化だけは防ぐことが出来ない。

 だからこそ、人の死体は残してはいけない……。


「フレイム……」


 俺は手のひらを死体へと向け、炎の魔法を放つ……イールとステラは先程まで話していた少女の末路を見たくないのだろう、お互いに抱き合い目を逸らしていた。


「………………」


 トゥスさんも暗い表情で……助けられなかった事を悔いているのだろうか?


「……今、キューラちゃんはどんな気分ですか?」


 俺が皆の事を気にしている中、傍へと来ていたクリエはそんな事を口にした。

 どんな、気分か……そんなの……。


「ひどく嫌な気分だ……吐きそうな位気持ち悪いし、こんな事はもう二度とごめんだ」


 そう言ってもまた死体を焼かなければいけない日は来るだろう……。

 そんな嫌な未来を思い浮かべ、俺は込み上げてくる吐き気を無理やり抑え込むのに必死だった……。

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