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14 可愛そうな少女

 沢山実がなっている木へと目を付けたキューラ。

 しかし、そこにはコボルトの爪痕が残っており、クリエの言う事では主ではないか? と言う事だった。

 キューラは話を聞き、泣く泣く林檎を諦めたのだが……その時、いつの間にか現れた二人組の少年と少女。

 少年はキューラ達が林檎を諦めたと知ると危険だと知りつつもなぜか意気揚々と木に向かって行ったのだった……

 現れたコボルト達を撃退するキューラとクリエ……二人のお蔭で事なきを得たのだが……?

 林檎を何とか手に入れた俺達は其処で休憩をする事にした。

 勿論、先程であった二人カインとチェルも一緒だ。


「それじゃ、貴方達はダイト村から来たんですね?」

「はい! カイン君が冒険者になるって聞かなくて……」


 彼女達の言葉に俺は首を傾げる。

 ダイトと言えばベントから近い村だ。

 森は確かに近くにあるし、入る事も出来る……だけど、ここまで来るだけなら別に街道を通ってくるだけで良い。

 態々魔物や獣が多い森を通る必要はないんだ。現に俺達も街道を通ってきた。

 そんな俺の視線に気が付いたのだろうカインはニッカリと笑い。


「俺達の冒険が気になるか?」

「なるか、ならないかで言われるとなる……どうしてそうなった?」


 嫌味も含まれている言葉のはずなのに彼は何故か喜び、何かを荷物の中から取り出した。


「街道を通れば目的地であるクリードに簡単に着くのは分かっていた」


 クリード……確かこの辺りを収める王様が居る街だな。

 俺達の最初の目的地も自然とそこになる訳だ……って何で街道通れば楽なのは知っててそうなってるんだ?

 そんな俺の疑問はすぐに解消され――それへと指を向けた俺は震える声で問う。


「ま、まさか……お前……」

「え? キューラちゃんあの意味が分かるんですか?」


 いや、分かるも何もソレを見た瞬間チェルがうんざりしたような顔になってるじゃないか……


「そう、冒険者には道を迷ったり、迷子になった時に道を決めるための手段があってだな?」


 彼は自信満々にソレ……木の枝を地面に立てると手を放し――


「倒れた方向に進む……ふむ、後ろか」

「待て待て待て!? 後ろってベントの方に戻るだろ!? クリードは逆方向だぞ!?」

「これの所為で森の中に止めたんですけど……本当にカイン君は」


 ああ、大変だったんだなチェル……可哀そうに……なんかチェルとは仲良くなれそうな気がするよ……

 お互いに厄介なパートナーを持ったもんだ……というか流石のあれにはウチの勇者様も驚いたようで口をポカリと開けている。


「でも、危険な目や強い魔物にはあって無いだろ?」


 いや、つい先ほどのコボルトはどうなんだ? そんな事を思い浮かべると横から物音がし、ふと目を向けるとチェルが(うつむ)いてぶつぶつ言い始めたかと思うと顔を上げ――


「確かに……強力なモンスターには会ったことがありません、でもこの三日間! 迷って食料が尽き、ひもじい思いをし、時には毒物を食べそうになり! 危険な目には十っっっっ分あってるよ!!」


 うわぁ……三日間も……というかチェルが泣きそうだ。


「え、えっと私達もそのクリードを目指してるから一緒に来ませんか?」


 彼の行動に呆然としていたクリエはチェルの叫びで復活をしたのか引きつりながらも提案する。

 するとカインは――


「いやぁ……でも勇者の手を借りるのはなぁ……」


 なんでそこで素直に手を借りないのか? このままじゃ良くてもチェルがストレスで爆発するぞ? というかそんな無茶な方法の旅じゃ最悪命にかかわる。


「ゆ、勇者?」


 そう言って此方を向き瞬きをするチェル。

 さっきは色々あって良く顔を見てなかったけど、この子可愛いな……などと考えていると彼女は見る見るうちにその顔を青ざめていかせ――


「あ、ああ? ああああ!?」


 クリエを指差しわなわなと震え始めた。


「なんだ? もしかして気が付かなかったのか? 俺でさえ気が付いたのにチェルは鈍いな!」


 はははははは! と笑うカインにキッと睨みつけたチェルはすぐにこちらを向くと頭を下げ――


「すみません! 勇者様だと気が付かず危険な目に……その――」

「え、えっと……そんな謝らなくても良いんですよ? 人々を助けるのが私の務めですし、それに放って置くことは出来ませんから」


 クリエは困った様な表情を浮かべそう言うとチェルは溜息を洩らした。

 もしかして……クリエが無茶な要求でもすると思ったのだろうか?


「まぁ、そう言う事で勇者の手を煩わせるのもなんだからな!」

「い、いえ……その……心配ですので一緒に行った方が良いですよ?」

「俺もクリエの意見に賛成だ……どうやらカインの進み方だと永遠にクリードに着かないぞ」


 枝を倒してそっちに進むなんて運に頼りすぎる……

 そもそも、何で道が分かってるのにわざわざ変な方法で進むのか問いたいが、帰ってくる言葉が予測できるし聞かないでおこう……


「それにしてもなんで道通りに進まなかったんですか?」


 と思ったんだが頭が痛い答えが返ってくる質問をクリエがしてしまった。


「それはあれだ! 冒険者は未知を求める物! そこに誇りと憧れがあるんだ!!」


 ……やっぱりロマンって事か、分からなくもないが分かりたくはない。

 命を張ってそのロマンに付き合うチェルの事も考えた方が良いと思うんだが……


「兎に角向かう場所は同じなんだ、クリエも一緒に行こうって言ってるし、な?」


 俺の言葉に首を傾げ、唸るカインには溜息しか出ない。

 しかし、このままじゃチェルが心配だ……どうにか説得させないとな。


「こういう言葉がある袖振り合うも他生の縁」

「何ですかそれ?」

「私でも聞いた事無いですね」


 この世界の人が知るはずもない言葉だ。

 クリエやチェルが首を傾げるのは仕方が無い。


「簡単な話、出会いって言うのは偶然じゃなく必然だ。大切にした方が良い」

「大切になぁ……」

「そうだ、此処で一緒に行けば魔物と出会った時に俺達も楽が出来る……お互いに特だ」


 俺の言葉にカインは考え込むも――


「……袖振り合うも他生の縁か……良い言葉だな気に入った! なら少し厄介になろう!」

「カイン君!」


 ようやく納得したカインに喜んだ様子のチェル。

 良かった良かった……これでチェル達は無事クリードに着ける。


「良し! それじゃ早速――!」

「へ?」


 カインが意気込みをし、何事かと見てみると先ほど取り出した枝を取り出し、立てるとゆっくりと手を放し……

 それは森の方へ指して倒れる……


「あっちだな……」


 クリエは予想外の行動にぽかんと口を開けチェルは頭が痛いのか抱えている。

 こ、こいつ――!?


「行くぞ皆!」


 そんな彼に対し俺はというと溜息をつき――


「フレイム」

「ああ!? 枝が!? 何をするんだ燃えちまったじゃないか!」

「今後! 一切! そんな枝なんかで道を決めるな!! 地図を使え地図をぉぉぉぉおおお!!」


 怒りを訴えて来るカインに俺は思わずそう怒号を投げるのだった。

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