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141 クリエを守る為に

 語彙の無い罵倒……。

 クリエはまるで子供用にキューラを責める。

 しかし、キューラは……もう決めた事だと決意を固めていた。

「…………………」


 俺の言葉を聞き、大きな瞳を丸めていた少女は大粒の涙を流しながらしばらくそのまま固まっていた。

 しかし、不意にそっぽを向くと……。


「馬鹿です……」


 また同じ言葉を繰り返した。

 だけど、今度はさっきの様に怒鳴るような事はしていない。

 落ち着いたという事なのだろうか? 俺は再び彼女へと近づくとクリエはおずおずとこちらへと向き、上目遣いをしてきた。

 うん、それをやられて助けないでくださいって言われたら迷ってたかもしれない。


「私の言う事は聞いてくれないんですね?」


 うぉ……だからそれはずるいって!?


「あ、ああ、こればっかりは聞けない!」


 俺は何とかそう言うとクリエは言葉を続ける。


「危険な目に遭うんですよ? 殺された人も居ます」


 それは今までの勇者の中でって事か?

 いや、なんだろうか……クリエの顔を見ると……どうも、彼女自身に関係があるんじゃないか? って気がするな。


「分かってる、でも俺は死なない……」


 無双が出来る訳じゃないし、俺は強いという訳でもない……だから、はっきり言ってこの言葉は信用すらない……だけど、俺は死なない、死ぬわけにはいかない。

 生き残って彼女を守る。

 これが俺が俺に課した目的であり、転生した理由だ。


「どうしても、ですか?」

「ああ、いざとなったら仲間を頼るさ……な?」


 俺はトゥスさん、そしてライムへと目を向ける。


「そうだね、アタシも手伝うって言ったんだ……異論はないよ」


 トゥスさんはそう言いながら煙草を咥え、俺はそれに火をつけてやる。

 ライムは相変わらずプルプルと震えているが、震え方が変わった事から恐らく頷いてくれてるんだろう。

 そうだ、俺には仲間がいる……一人じゃない! チェルやカイン、フェリスにレムス……着実に仲間は増えて来てるんだ!


「……本当に……そのつもりなんですか?」

「そのつもりだ! もう良いだろ、意見は変わらない……これで話終わり! 良いな?」


 俺がそう言ってクリエの頭を撫でると彼女は複雑そうな顔を浮かべたが「ぅぅ……」と唸るだけだった。

 てっきり「うへへへ……」と笑うかと思ったが、この状況じゃ無理か……。

 そんな事を考えていた時、辺りには草が擦れる大きな音が聞こえ――俺達は慌てて振り返る。

 魔物か!? そう思って目を凝らした所、飛び出して来たのは……。


「イ、イール? それにステラか? お前達何して……」


 彼女達は息を切らし、胸を押さえている。

 どうしたというのだろうか? と考えていると……。


「まさか今の話……」

「す、少しだけです……」


 トゥスさんの言葉に答えたのはイールだ……彼女は不安そうにステラの服を掴み、縮こまってしまった。

 するとステラがこちらへと顔を向け――。


「そ、それよりも……たい……へん!」

「た、大変? もしかして馬車が!? でも魔物に襲われた気配何て……」


 俺達は馬車が見える場所に居る……何かあればすぐに分かる場所だ。

 いや……待て、二人は何時の間に此処に来た? 話に夢中で気が付いてなかっただけなのか!?


「他の子達は無事なのか!?」


 俺が慌てて問うとステラは首を縦に振る。

 だが……彼女は近づいた俺の服へと手をかけ……。


「一人、居たの……」

「…………は?」


 一人、居た?

 何を意味するのか分からず固まっていると……。


「何が居たんだい?」


 トゥスさんがステラへと優しげな声を発する。

 するとステラは今度はトゥスさんへとしがみつき……。


「一人、貴族の娘が居たの! 正確には没落した貴族が!」


 貴族………だって!?


「い、いけないと思ってたんです。で、でも話が気になって…………これを領主に伝えれば……また、土地を貰えるかもって……走って行って……」


 逃げたって事か!? いや待て……領主うんぬんより、まず……。


「…………その子、戦えるのか?」


 俺の質問に二人は首を振る。

 いや、聞くまでもないだろう……もし戦えるのなら捕まる事は無い。

 わざと捕まったという事もあるかもしれないが、闇商人を捕まえ、娘達を救ったと言うだけでも報酬は貰えるはずだ、行動をしないはずがない。


「だから、危ないって追いかけたんだけど……」

「と、途中で見失って……どうしたら良いのかって……戻って来たんです……」


 まずい、これはまずい状況だ。

 見捨てるのは簡単だが、二人が初めて知ったという事は他の子達も貴族だと知らない可能性が高い。

 もし、見捨てたら不信感を抱くかもしれない……挙句、もし、今の話を二人に外に漏らされたりでもしたら……クリエが気にしていることが早まる。

 戦えないなら魔物に出会い殺されているかもしれないが、今から探せば助ける事は出来るかもしれない。

 どうする? どうすれば……。


「ごめんなさい……追いついてれば……」

「だって、だって……私達もその……そんな話初めて……」


 そんな話……勇者の犠牲についての事か……くそっ! どうすれば良い……いや、悩んでる暇はない!


「とにかくその子を探して助ける! 魔物に襲われて死なせるよりはましだ!!」


 いくら貴族とはいえ見捨てたら奴らと一緒だ。

 なら、俺が選ぶ選択肢はこれしかない!! そう思い、答えを叫ぶとイールとステラの表情は少し明るくなった。

 対し、トゥスさんは溜息をつき……クリエは何処かほっとした様子だ。


「そうと決まれば――」

「待ちなキューラ……!」


 二人に案内を頼もうとした所、トゥスさんに止められ……俺は彼女の方へと振り返った……その瞬間――っ!!


「キャアアアアアアアアアア!?」


 此処から遠く離れた場所だろうか? 少女の悲鳴が聞こえた……。

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