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140 決意

 異世界を渡り……死を知った少年は死を恐れる勇者を守ろうとする。

 だが、その思いはただの独りよがりに過ぎず……。

 彼の思い浮かべる言葉は果たして本当に正しいのかも分からない物だ。

 だが、ただ一つ確実と言えることは……少年は彼女を守りたいという事だ。

 クリエは相変わらず震えている。

 俺の言葉は聞き入れないつもりなんだな……確かに考えてみれば無茶な事だ。

 だが、それは俺一人でやるならって事だ。


「なぁ、クリエ……俺は君を守るって約束をした……」

「………………」


 不安と恐怖に涙を流したその時の彼女を見て俺はそう言った。

 その運命が本当の事だと知って憤りもした。


「それでも、勇者の運命は決まってます……逆らえば皆殺される……奇跡を使うしか……」


 勇者はただの犠牲者だ……。

 世界の為にずっとその身を犠牲にしてきた。

 愛するものが居ても、家族が居ても……仲間や親友が居ても誰一人として助からなかった……。

 そんなの、考えなくてもおかしいじゃないか!


「運命が決まってる? 笑わせるなよ……決まってるんじゃなくて諦めてるだけだろ!?」


 あっちでは死んだような目で仕事へと向かう父や街の人々。

 子供に関心が無く、ただ同じ毎日を過ごし笑わない母。

 遊ぶことを忘れ、将来の為と言い続け塾へと向かう痩せ細った友人。

 全員が全員そうだとは言わない。

 俺は見た人間しか判断できないからな……だけど、少なくとも俺の周りにはこういった人が溢れていた。


 だが、この世界では違った。

 生まれてくるのは女の子が良かったと何度も着せ替え人形にされはしたが笑顔の絶えない父や母。

 父は仕事に向かう時も笑顔で母は家事をしながら、次は俺に何を着せようかと服の事を考えていた。

 二人共生き生きとしていた。

 学校でもそうだった、ターグも皆そうだ。

 いつも心の底から笑っているのが何となくだが、分かったんだ。

 だからこそ、居心地が良いと思ったのだろう……。

 何故なら俺も向こうでは楽しい事が無いと思いつつネトゲで時間を潰していたからだ。

 あの時倒れてきた本もそう言った理由で集めたものだ。


「諦めてなんて!」


 クリエは良く笑う、その笑顔は少なくとも俺達と一緒の時は本物なのだろう……。

 だけど………………。


「なら、クリエは笑って死ねるのか?」

「へ……?」

「どういう意味だい?」


 これにはトゥスさんも流石に言葉を返して来た。


「言ったままだよ、本当に後悔しないなら、世界の為だというのなら笑って死ねるんじゃないか? だけどクリエは今も前も泣いてるだろ? 死ぬのが怖いって言ってたろ!」


 そう、だからこそ……俺は同じ理由で……。


「俺は笑って死ねない。例えそれがお前の為でも例え助けることが出来てもクリエは悲しむだろ? ずっとずっとだ……俺はクリエを助けるって言った、約束したんだ! 笑ってくれなきゃ意味がない。だから俺は自分を犠牲にしても笑って死ねない」


 これは大事な事だ……繰り返し口にした俺は……クリエの方へと目を向け……更に口をゆっくりと動かす。


「なぁ、クリエは笑って死ねるのか? お前が死んだことで後悔する俺達が居ても……お前を助けようとしてる人が居ても世界の為に笑えるのか?」


 運命は決まってる、一部の人間は良くそう言った言葉を使う。

 だが、実際には違う……運命は自分の生き方は自分で選ぶものだ。


「そんなの……無理です」


 そんなのは分かっていた。

 じゃなきゃ泣いて怖がる必要なんてない……自分は世界の為に死ぬ。

 そう、笑って言えるのだったら俺も疑問に何て思わなかったはずだ……。


「例え貴族が敵になっても……王が敵になっても……世界が敵になっても……俺はクリエを守る、そう決めたんだ」


 無謀だ。

 自分だってそう思う……更に言えばこの神大陸でまるで魔大陸の様な考え方だなっと自分で笑ってしまうぐらいにはおかしなことを言っていると思った。

 だが、気持ちに嘘はない。

 俺が非力なままこの世界に転生した理由なんて分からない。

 だけど、前世の記憶が残っていてよかったと思う事は一つだけある……それはクリエが死んで当然だという気持ちにはならなかったからだ。

 以前の世界での生活は思い出したくもないが……それでも、あの世界に居て、あの世界から来てよかった。

 じゃなきゃ、俺はこの子を見捨てていたかもしれない。


「そんなの無謀です……」

「分かってるさ、勇気と無謀は違う……俺が言ってるのは無謀の方だ」


 ただ一人なら……。


「……良い事言うじゃないかい、ならキューラは本当に魔王にでもなるつもりかい?」


 俺の言葉にそう返して来たトゥスさんはニヤリと口角を上げている。

 更には――。


「魔王の手下を手懐けてたのもその事を考えてってものだったら面白いね……」

「……ファリスはただなんでか助けなきゃって思っただけだ。だけど……もしかしたら、あの子はまた魔王の部下にはなるかもしれないな……」


 あの子の強さは俺自身、身をもって体験している。

 なら、手伝ってもらうことだってあるかもしれない……そう思って口にした言葉にトゥスさんはくくくくっと笑い。


「良いじゃないか、面白い賭けだ! なら、アタシは時が来たら魔王の幹部って所かい?」

「トゥスさん!? 自分で何を言ってるか分かってるんですか!?」


 彼女の言葉に反論を入れたのはクリエだ。

 彼女は涙目のまま辺りに響くような叫び声でそう告げると続けて……。


「キューラちゃんもです! いい加減にしてください! 助けてくれるって言ったのは嬉しいです! でもキューラちゃんがそんなに傷ついて……怖いんですっ! もうこれ以上、危険な事をしないでください!」


 クリエがその言葉を発すると首元がじんわりと温かくなり……頭がぼーっとしてきた。

 思わず首を縦に振ってしまいそうな気持になり、俺は慌てて首を振る。

 すると、クリエは顔を青くし……。


「なんで……なんで……」


 今のは一体なんなんだ?

 首元には確か従者の証があったはずだ……そのあたりが温かくなったと思ったら……。


「なんで言う事を聞いてくれないんですか……」

「クリエ?」


 がっくりと項垂れる彼女を見て俺は疑問に思う。

 従者の証はそのままの意味で勇者に仕える者の証のはずだ。

 だけど、今のは絶対別の効果があった……一体なにが起きたんだ? 俺は不安を抱えつつクリエとトゥスさんの二人に目を向ける。

 クリエも顔を上げ俺を見つめていたが……その顔は悲しそうなもので……対し、トゥスさんは笑みを浮かべていた。


 一体……彼女の言葉で何が起きようとして……俺は何をしたんだ?

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