133 満身創痍
キューラの一撃は見事に男にダメージを与えた。
しかし、男はその事に怒り狂うでもなく喜びをあらわにする。
まるで玩具を得た子供の様なその顔にキューラは恐怖し……彼が去るのをただただ見過ごすしかなかった。
無様だな。
何故かそんな言葉が思いうかんだ。
その時、同じ言葉が耳に聞こえた気がした。
この声は誰の物だろうか? 考えてみると……。
「アウク……フィアランス」
あの男の顔が頭に浮かぶ。
奴も同じことを言ってるだろう。
俺は無様で……情けないが弱い。
剣ではあの男に敵わなかった……魔法だってたまたま攻撃が通っただけで、死ぬ可能性は十分にあったんだ。
次に会った時に勝てる見込みはない。
アイツが言った通り、俺は……。
「クソっ!!」
そんな目にあってたまるか!! 俺は心の中で叫びながらも……それが避けようのない事実だという事も理解していた。
そして、同時に……。
「俺は本当にクリエを守れるのか?」
人を殺した時の感触はまだ手に残っている。
思い出すだけで気持ちが悪い……。
だが、これは必要な事だ……いずれ貴族と戦わなければならない時が来る。
その時に俺は後ろで安全な所で兵を動かす隊長にでもなるつもりか? いいや、違う……そうじゃない。
俺はクリード王に言っただろ? いざという時は魔王になるって……。
魔王と言えば悪の親玉。
世界を支配し、傍若無人の限りを尽くす……。
だが、この世界での魔王とは魔族の王というだけだ。
当然、俺が知る魔王もいれば賢王だっている。
俺が成ると言ったのは賢王だ。
じゃなければ意味はない……クリエを守る為の力を手に入れられない。
そう思って口にしたんだ……。
「だからこそ、前に立って……戦う必要もある」
王が後ろに居るのは兵達が王を守る為だ。
だが、王もまた民を護らなければならない……何故なら、国は人によって成り立つからだ。
それを知っていてなお、民を護らないとなればそれはただの独裁国家。
「…………」
俺はクリエを守る。
だからこそ、仲間を集める……俺に、俺やトゥスさんに賛同してくれる仲間を……。
その俺が自分のわがままで動いてはいけない。
弱くてはいけない……強くならなきゃいけない……今はいずれ来るだろう戦いの前に……。
「行こうライム……多分、トゥスさんが痺れを切らしてる」
……どこぞの戦闘民族みたいに死にかけたら強くなるなんて能力は俺にはない。
ましてやチート能力だって無い。
魔力に優れ、人よりも少しだけ特別な魔法が使えるだけだ。
それも、諸刃の剣であり、今回は全く使えなかった……それどころか俺の十八番である無詠唱魔法だって奴には負けていた。
世界を救いたいだとか、英雄になりたいとは思わない。
だけど、それでも力は欲しい。
じゃなきゃ……近くに居る人でさえ守れない。
今の俺じゃ……クリュエル、いや今はファリスだったな。
本気のあの子にさえ俺は敵わないんだ……。
「だからと言って、仕方ないで済ませられないよな……」
だから俺は自分自身を鍛えなくちゃならない……あの夢で魔拳を習う事は出来るのだろうか?
それだけではなく、現実で実際に魔拳を振るうために体術も鍛えなきゃならないな……。
トゥスさんに折角加工してもらった軽くなった剣。
こいつだって今のままじゃ駄目だ……魔拳は切り札だ。
それまでは剣術、体術、魔法……欲張りかもしれないが、この三つが俺が鍛えるべきものだ……。
「……更に欲を言えば武器は全部使いたいけどな…………」
と呟いたが勿論無理な事は理解している。
持てる荷物には限りがあるし、なによりそれを学んでる時間はない。
学校でさえ体術、座学は基本、それとあと二つ選択ができるって位だったからな……そう考えると欲張りではないのか?
ともかく、当分の目標は決まった。
剣術に関してはクリエが元気になったら聞いて見よう。
「……問題は」
たった一人でしかも傷ついた身体で……馬車まで追いつけるか、なんだが……。
奴も言っていたがきっとどこかで馬が疲れ、休んでいるだろう……その事に賭けつつ俺はゆっくりと足を進める。
「鳥……どうするかな」
俺はふとここに来た目的をぼそりと呟く……。
村は確認するまでもない。
どこかに鳥小屋だけでもあれば良いんだが、それを知っていたら村長もそこを口にするはずだ。
どうしたものか……そんな事を考えていると茂みが揺れ、俺は先程の犬を思い出す。
もしかして、見逃したのは嘘で仲間の元へと案内をさせているのではないか? そんな不安がよぎり出てきたのは――。
『カァァァ!! カァァァァ!!』
日本で見慣れた烏……よりも一回りデカい魔物だった。
「っ!?」
確か名前はニースクロウ、烏の魔物はエマークロウが多く見かけられる。
だが、実はもう一種類この世界には烏の魔物が居る……それがニースクロウだ……こいつは更に賢い上にエマークロウよりも大きい、そして鋭いくちばしと爪が特徴だ。
人の肉など容易く噛み千切り、爪で裂くことが出来る。
猛禽類といっても過言ではない、いや恐らくはそれ以上だろう。
だが、魔族や混血には人気の魔物……何故なら賢いため教えた事をすぐに覚える。
しかも、自分で考え危険だとしたら無理をしないでその事を主人へと伝えてくれる……つまり、狩りや偵察に向いている魔物だ。
「……おいおい」
だが、勿論敵として出会えば最悪の存在だ。
ましてやこちらはまともに動けない……。
「ど、どうする?」
手懐けるにも、使い魔を二匹連れている人なんて見たことが無い。
一応できない事は無いとは聞いた事はある気がするが……餌が無ければ……。
「た、戦うしか……無いよな!!」
俺は魔物から目を離さないよう睨み……剣を引き抜いた。




