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13 ベントを離れて

 キューラは勇者の従者としてベントの街を旅立った。

 目指すは魔王討伐……

 その度の始まりの日、彼らの冒険と伝説は此処から始まったのだった……

 ベントの街から旅立ち早数時間位。

 旅は順調だ……それにしても少し腹が空いてきたな……

 そう思い、俺は辺りを見回す。

 さっき何時も狩りをしていた場所にある木があったから……多分この辺りにも……


「おっ!」

「キューラちゃん?」


 俺は目的の物を見つけ、笑みを浮かべた。

 そう、探してたものは木の実……林檎だ。

 ベント周辺には林檎の木が何本かあり、狩りの途中に食べるおやつだった。

 こっちの世界でも林檎は同じ味で美味しいし、疲れた時に食べるのが楽しみだったんだ。

 運が良い事に沢山実ってるみたいだし、いくつか貰って行こう……


「ちょ!? ちょっとキューラちゃん待って、待ってください!?」

「な、なんだよ?」


 いきなり腕を掴まないでくれ……引っ張られることは無かったから良いが、いきなりだから襲われると勘違いをしかけた。


「何を取りに行こうとしてるんですか?」

「林檎……」


 他に何があるんだ? と考えつつ俺は木の実を指差す。

 するとクリエは引きつった笑みを浮かべ――


「そ、それは見れば分かります」


 なら何故聞いて来た?


「でも、この辺りには他にも林檎の木があるはずです別のを探しましょう?」

「別のをってあんだけなってるのはあの木ぐらいだろ?」


 他のはまだ実が赤くなってないのが多いし、何個か持っていくなら一度に一杯採れるあの木が良い。

 それに何よりあの林檎は美味しそうだ。


「いえ、そうですけど……あれを見てください」

「あれ?」


 何の事だ? そう思いながらも俺はクリエの指差す方向へと目を向ける。

 すると林檎の木の周りにはここからでも見える程大きな傷跡があり――俺は何であれに気が付かなかったのか‥‥…


「なんだ……あれ……」

「コボルトの爪痕ですね、それもかなり大きい……恐らくはここら辺の主でしょう」

「コ、コボルトォォ!?」


 いや、本で見た限りではゴブリン程度の大きさ……つまり俺より背が低い魔物だぞ!?

 でも待てよ? コボルトって言ったらゴブリンと並ぶザコ魔物と言っても良いはずだ。

 因みにスライムは違う、決して弱いザコ魔物ではない。

 しかし、コボルトなら――


「だったら退治してあの林檎を……」

「コボルト一匹一匹は大したことありません。でも彼らは群れで行動しますし、ゴブリンの様に大人しくはないので縄張りに入ったら最後喰い殺されますよ?」

「…………」


 確かに群れで行動し、凶暴でありゴブリンより危険とは本に書いてあった。

 だが、喰い殺されるってなんだよ!? コボルトってそんなに怖いのか!?


「ク、クリエは勇者だろ? 何とか……」

「出来ますけど、流石に群れが相手ですとキューラちゃんを守り切れるかどうかは……」


 ああ、なるほどそう言えば俺は魔物との戦闘は一回もしてない。

 ここまで魔物に遭遇もしてないからな……つまり、俺は今完璧な足手まといって事か……


「お、落ち込まなくても他に林檎は一杯ありますから、ね?」

「あ、ああ……うん、そうだな……」


 諦めるしかないか……肩をがっくりと落としつつ、俺は渋々林檎の木から目を離す。

 すると――


「あれ? 取らないのか?」

「……え?」


 誰の声だろうか? 振り返ると……何時から居たのか分からないが少年と少女がおり、二人は驚いたような顔をしている。

 何故驚いているのか? 急に話しかけられたこっちの方がその顔を浮かべるはずなんだが……


「じゃぁあれ貰って良いよな!」


 少年は目を輝かせているが、少女の方が表情を曇らせ疲れと呆れが含まれたような視線を少年へと向ける。

 見れば二人共泥だらけで所々葉っぱなんかもついていて……こいつら一体どこから出てきたんだ?

 この近くでこんなに汚れる場所あったか? いや、狩りをしている森ですらここまで汚れないぞ……

 そんな疑問を感じていると少年は答えを聞かずに――


「よし、じゃぁ取りに行くぞ! チェル!」

「いや、カイン君? 話を聞いてたの? 今ここらの主ってそっちのお姉さんが言ってたよね!? 言ってたよね!!」

「大丈夫だ、コボルトなら何度も倒して来ただろ!」


 ああ、うん……女の子が疲れてる理由と驚いてた理由が分かった。

 というか女の子は何故か俺達に目を向けて来て助けを求めているのだろうか? 仕方が無いな……


「あ、あの……あんだけデカい爪痕だし、林檎なら……ほらこれからまた探す所だからさ……一緒に」

「そうですね、キューラちゃんの言う通りです。まだ青いのが多いですが、探せばきっと見つかりますよ」

「そうだな!」


 カインと呼ばれた少年は笑顔で頷き、俺とクリエはほっとする。

 だが、チェルと呼ばれた少女は何処かまだ不安なようで――


「コボルトは俺達に任せておけ!」


 は?


「ちょ、ちょっと待て――」


 なんでそうなる!? そう言おうとしたのも束の間少年は林檎の木向けて走って行く――猪か!? 猪なのか!?


「ああああ、もうカイン君!? 話聞いてよ!!」


 チェルは両手を軽く握り、地面へと向けると叫ぶ――だが、少年はどこ吹く風で林檎の木を目掛け走って行き――

 遠目にも見える程大きなコボルトが出てきたところで彼は流れる様に剣を抜くと、それをコボルトへと振り下ろす。

 あれだけ自信満々にコボルトは任せて置けと言っただけはある。

 見た所無駄な動きが一つもないんだが……その剣は簡単にコボルトに掴まれどうやら抜けなくなったみたいだ。


「カ、カイン君!?」

「はははははは、参った! チェル見てくれ! 剣を掴まれた!!」


 この状況で笑うなんてただの馬鹿なのかそれとも大物なのか?

 とにかく……助けないとまずいよな? 俺はそう思いクリエの方へと目を向ける……ってクリエ?


「あれ? 何処に行ったクリエ!?」


 アイツまさか逃げたのか!? いや、そんなはずは……


「お、お連れさんなら……あそこに――」

「え?」


 一瞬でも疑った俺が馬鹿だった……クリエの奴はすでに剣を抜きコボルトへと向かって行っている。

 勇猛果敢まさにその言葉が似合う女勇者は剣を捨て逃げる少年とコボルトの間に滑り込むと盾を構え、少年を魔物の爪から救う。

 出会って間もない俺は彼女がただの変態という考えを改めないといけないな。

 アイツはちゃんと勇者だ……とは言え……


「キューラちゃん! その子達を連れて逃げてください!!」


 先程クリエが言った通り、コボルトは群れで行動をしていた……

 ここからでも見えるがその数は2~3匹なんて甘い数じゃない。

 クリエが勇者だとしても、限度がある。

 それに死んでしまったら勇者も一般人も冒険者も皆同じだ……命は一つだけ、俺はまぁ……運が良かっただけなんだからな。


「に、逃げましょう!」


 チェルと言う子に腕を掴まれそうになった俺は慌ててそれを避ける。


「ちょ、ちょっと君!?」


 彼女は驚き声を上げるがそんなのは無視だ。

 俺は勇者の従者となったんだ……こんな所で勇者を見捨てて逃げるようで彼女を守ることは出来ないだろう。

 それに俺達が倒すべきは魔王……たかだか犬人に怯えている暇はない!!

 運が良い事にクリエを警戒してコボルト達は森から出てきていない。

 今なら距離さえ詰めれば、戦闘未経験の俺だって役に立てる。


「距離は――よしっ!! シャドウブレード!!」


 魔法を唱えると森の中から獣の悲鳴が飛び交う――

 俺達が離れているから何も出来ないと思っていたんだろうけど……生憎森から出てこないのが悪い。

 燃え移る可能性があるから火を使う訳にはいかないが、影があるならこの手に限る。


「う、うそ……一度に群れをなんなの……この人達」

「ん?」


 なんで俺はチェルと言う子に信じられないようなモノを見るような目で見られているのだろうか?

 疑問に思いつつそちらへ目を向けると――


「キューラちゃん、危ない!!」

「へ? うわぁ!?」


 討ち漏らしてしまったようで一匹のコボルトが俺へと向かって来ていて……

 クソッ!! 避けられない!! なら――


「このまま倒すだけだ! フレイム!!」


 木から離れてくれたなら火を使っても問題は無いだろう……コボルトは火だるまへと変えられるともがき始め、俺へと迫るその勢いを無くしていく……

 俺は何とかコボルトから遠ざかるとクリエがこちらへと駆けつけてくれて――


「だ、大丈夫でしたか!? 怪我は?」

「大丈夫だ……何とか倒せたからな」

「何とかって……無茶はしないでくださいキューラちゃん!」


 た、助けに入ったつもりだったのに注意をされてしまった……

 まぁ、予想外の事は起きたが良い手だとは思ったんだけど、クリエには逃げろと言われていたんだ仕方が無い。


「でも、助かりました。ありがとうござ――」

「うわぁ!?」


 そう言いつつ抱きつこうとするのは止めて欲しいぞクリエ……


「…………」

「そんな残念そうな顔するなよ……」


 俺はがっくりと項垂れたクリエにそう告げた。

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