131 ライムの危機
格上の相手に対し、策で戦う事を決意したキューラ。
しかし、渾身の策はあっけなく破られてしまう……死を覚悟した時、彼は窮地を使い魔であるライムに救われる。
だが、それはライムの命を危機にさらす行為でもあった……。
氷の魔法の弱点、それは炎の魔法で溶かすという事だ。
水になれば魔族と混血には操れない。
だからこそ、俺は炎の魔法で溶かそうとした。
しかし、今の距離では同時に火傷を負うというリスクがある。
いや、事実……焼かれている。
だというのに、氷の矢は溶けてくれず。
「ライム、逃げろ!!」
俺は無理だと判断し、使い魔に命を下す。
これまで色々と助けてくれた使い魔だ。
見捨てる訳にはいかない。
そう思ったんだが……。
「ライム!!」
ライムは一向にそこから動こうとしない。
命令が聞こえないのか? それとも聞く気が無いのか分からないが、ライムは馬鹿ではない。
氷の魔法が来ることは分かっているだろう。
なのに、なんで……。
「飼い主が愚かなら、ペットも愚かだな」
そんな声が聞こえ、氷の矢はついに炎の膜を破りライムへと向かう。
勿論、当たらない様に足を動かすが、相手も魔法の軌道を修正してきやがった。
これじゃ意味がない……。
悔しいが、魔法の実力、剣の実力全てにおいて相手の方が上。
少しぐらい動かしてもすぐに狙いを定められる。
もう手段はないのか? このままライムは殺されるのか?
「――っ!!」
――――――駄目だ。
ここで見捨てたら……理由は違うにしろファリス……いや、クリュエルを切った魔王と変わらないんじゃないか?
王と名乗ると啖呵を切った癖にそれじゃ……格好がつかない。
それに何より……相手が強いからと自分の使い魔すら守れない奴にクリエを守れるのか?
守れる訳がない。
その答えが頭に浮かんだ瞬間――心臓はドクンと跳ねる。
迷っている暇なんてない、手段があるならそれを使ってやる!!
氷を溶かせないのならば……!!
「グレイブ!!」
壊せば良いじゃないか!!
放った魔法は氷の矢を撃ち抜き砕いて行く……岩の破片が飛び散るが、それはライムがなんとかしてくれた。
上手く、ライムに傷を傷をつけないで済んだ事にホッとしていると男は意外そうな表情を浮かべ……。
「ほう……」
と口にする。
「意外と頭は回るのか? いや偶然だろう」
「どうかな? 俺は俺なりに考えてるかもしれないぞ?」
だが、形勢逆転をした訳じゃない……油断が出来ないこの状況をどうやって切り抜けるか? そこは変わっていないんだ。
さて、状況を整理しよう……現状使えるのは魔法だけ、剣を使おうにも足は使えない。
つまり、魔拳も無理だという事だ。
空中からでなら踏み込みはいらないが、隙が多すぎる却下だ。
第一空を自由に飛び回れるなんて混血である俺にはできない。
やっぱり、こいつは魔法でどうにかしないといけないという訳だな。
最後にライムには頼れない……氷の魔法がある限り、現状でもかなり無理をしてもらっている状況なんだからな。
「来ないのか?」
男はワザと手を広げ問う。
余裕と言う奴だろうか? いや、違う……アイツには隙が無い。
ああやって隙がある様に見せ飛び込んで来たところを狙うつもりなんだろう。
俺は足の痛みに顔を歪めつつ、距離を取る。
すると、男は感心したような顔を見せた……。
「やはり、その程度には頭が回るか……だが、どうする? 実力は俺の方が上だ」
「格下の魔物相手に死ぬ冒険者は星の数ほどいるんじゃないか?」
俺が男にそう答えると彼は頷き……。
「そうだな、だがそれは格下だと安心しきっているからだ、あの情けない連中の様に……な!!」
男は会話の最後で距離を詰めてくる……さっきの方法は使えない。
どうする? いや……まてよ……もしかして、まだ手はあるんじゃないか?
俺は地面へと目を向け叫ぶ。
「アイス!!」
そう、地面を凍らせる。
流石にスケート会場の様な大きな氷は作れない。
だが……。
「ん? なんだこれは!?」
しゃり……という音を立てたのと足元の違和感を感じ、男は一瞬だが止まった。
そう、俺が放った魔法の周りには霜柱が出来ている。
いつもと違う感覚でなら隙が出来るとは思ったが思惑通りだ……今しかない!!
後はぶっつけ本番だ!!
「グレイブ!!」
俺が手を伸ばし魔法を唱えると、男は咄嗟にその場から飛びのく……が、俺の魔法は手を向けた場所からは出ていない……。
上手くいったが、相手も先程と違う事に気が付いたようで周りを見渡した。
そして、気が付かれてしまった……だが、問題はない!
今更気が付かれた所でもう時間は作らせてやるものか!! これを逃したら死ぬしかないんだ!!
「アイス!!」
今度は着地地点に霜柱を作り、男は慣れないそれに足を取られ……僅かに反応が遅れた。
そして、手とは真逆の方向から放たれた魔法は見事に男へと直撃した。




