130 混血の剣士
キューラ達の目の前に現れた敵。
それはキューラと同じ混血の剣士……。
仲間を逃がすことに成功したキューラだったが……どう、立ち向かう気なのだろうか?
「足手まといを逃がす……いい判断だ。ただし……」
男は顔に一切の笑みを浮かべず剣を振るうと一歩、また一歩と向かって来る。
どうする? さっき考えた様に弱点がある以上ライムの力は頼れない。
むしろ、今回はどうやって守りつつ戦うかが重要だ。
「それが出来るのは一人でも戦える奴だけだ……魔力は優れているようだが、実力が無いお前が残った所で追いつくのにはさほど時間はいらない」
「相手は馬車だぞ? あんたが追いつけるとは思えないな」
俺は思考する中、そう答えると彼は鼻で笑い。
「馬車も、馬という生き物が必要だ……そして、生き物である以上、疲労というものがある。あれは俺の馬だろう? ここまで来る際に休憩をさせたか? そろそろ限界のはずだぞ……」
「………………」
……確かにそうだ。
生き物である以上、疲れがある。
それにあれだけの人を乗せてるんだ……遅くもなる。
そして、言っている通り、あれはこいつらから頂いた馬車に間違いがない。
どの位のスタミナがあり、どの位進めるか……それを俺は知らないが、相手は知っている。
こいつをここで倒さない限り状況が有利に傾く事は無い。
「更に言おう、スライムを連れている事には驚いたが、そいつは足手まといにしかならないな」
「いや、居てくれなきゃこうして立つ事すらできない」
ライムを足手まといと言われ、俺は頭に来たが飛び掛かるのは我慢した。
相手には隙が無いのだから、下手に出るのは悪手だ。
「どうした? かかってこないのか? それともそれ位は理解できるか……まぁ、俺の飼い犬に気が付く程度の勘はあったから当然か」
「………………」
やっぱり、あの犬はこいつらと関係があったのか……だが、それが分かっても悔しいが何も出来ない。
どう飛び込んでも切り返される未来しかない。
普段ならライムと一緒に戦えば済む、しかしそれも封じられた今残された手は…………。
――――魔拳。
その言葉が思い浮かぶが、俺はすぐに現状を見て無理だと判断した。
理由は足だ。
体術も剣術も踏み込みが必要だが、現状では満足に力が籠められない。
まして体術……打撃とは体当たりをするように行うと学校では習った。
事実、体重が乗っているのと乗っていないのでは威力が違う……。
「ふん……その顔、打つ手がないと言った所か? 仲間を逃がして、出来たことが対話だけか?」
「…………いや」
だが、此処で大人しく捕まるつもりはない。
相手は無詠唱だが、こっちだって同じだ。
魔法の使い方も向こうの方が上手だが……諦める訳にはいかない。
「俺はクリエの元に戻らなきゃらないんでな……せいぜい足掻かしてもらう!!」
脚がこうなってる以上、腹をくくって魔法で勝負するしかない、いや……元々そっちの方が俺には都合が良い!!
勝つことを考えるな! 足止めをすることが重要だ。
きっとトゥスさんなら女の子達を安全な場所へと運んだら戻って来てくれる。
だから、それまでの間……いや、それは考えるな。
人に頼っていても意味はない、特にこいつ相手だとたとえトゥスさんが戻って来ても犠牲者が増えるだけだ。
なら……!
「行くぞ!!」
俺は先程作った氷の壁に向け手を突き出す。
「業火よ! 我が身を守る盾と成れ! ファイアーウォール!!」
そして、魔法を唱えそれを溶かしていく……目的は勿論、湯気だ。
攻撃手段としては意味のないソレも視界を奪うには良い。
だが、恐らくこれは相手にとって……。
「馬鹿か? 自分で自分の視界を防いでどうなる」
「――っ!!」
何かが動く気配がしたと思ったら、男の影が真っ直ぐへとこっちに近づいて来る。
やはり効果はない。
だが、予想通り速さ! なら、その速さ利用させてもらう!!
「余程頭が回らないか……」
「そうでもないさ! アースウォール!!」
俺はすぐに魔法をもう一つ唱える。
岩の壁はあっという間に俺の目の前を塞ぎ、男はこれにぶち当たるはずだ。
速すぎたからこそ、使える手……それにそれだけの速さなら当たった時の衝撃も――。
「それ位、思いつかないとでも思ったか?」
「……は?」
右側から聞こえた声。
それに俺は慌てて顔をそちらへと向け、左目で見る。
「う、嘘だろ?」
タイミングは完璧、どうやったって間に合わないはずだ。
やはりもう一人仲間がいたのか? だが、同じ声だ……もしかして、双子って落ちは無いよな? だったら何で馬車を追わない?
様々な疑問が浮かぶ中……男は表情を変えずに剣を俺へと向けて振り抜く……。
死………………。
たったそれだけが理解出来たが、声すらあげることが出来なかった。
恐怖も何も無い、ただ、その事実だけが突き付けられたのだ。
はず……だった。
「がっはっ!?」
だが、俺は地面へと叩きつけられ肺の中の空気を吐く。
生きている? その事に驚きつつ、俺はなぜ生きていたのかを理解した。
「ライム!」
そう、脚にくっ付いていたライムは俺の危機を感じ取り、転ばせ助けてくれた。
だが……それは相手にも見られており……。
「邪魔だな……アイスアロー……」
男はライムから始末をしようと決めたのだろう、恐れていた氷の魔法を唱える。
「っ! フレイム!!」
対し、俺は火傷をすることを構わず炎の魔法を唱えたのだった。




