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128 村へと向かう馬車

 娘達を助けたキューラ達。

 彼らが向かう先の村は無事なのだろうか? 果たして鳥は見つかり手紙を渡せるのか?

 そして、村へと少女達を戻して大丈夫なのだろうか?

 がたがたと揺れる馬車。

 先程まで会話をしていたステラとイールは黙っている。

 いや、正確には疲れて寝てしまったというのが正しいだろう……他の子達もちらほらと寝ている子が多く見れた。

 もしかしたら、なんとか信用されたのだろうか?

 いや、それは無いか……などと考えながらも俺はクリエの方へと目を向けた。

 顔色は良い、表情もどこか安らかで寝息も規則だたしい物へとなっている。

 窮地は越えた。

 しかし、彼女は目を覚まさない。

 ただそれだけだというのに……不安でたまらなくなってしまった。


「全く、この目の所為で……」


 俺は彼女が倒れる原因となった右目を擦る。

 瞳はまだ見えない……恐らくは今日の夜辺りにアウクと会えるのだろうが……文句の一言でも言ってやろうか?

 会うために一々こんな事されたらクリエが心配し、今日みたいにならないとは限らないからな。

 彼女に目が見えなくなる原因を言っても意味はないだろう。

 夢の中で死んだ人間と会う、そんな馬鹿げた話誰が信じる? そしてその合図が右目の不調なんて……。


「……村が見えてきたよ」


 トゥスさんの声が聞こえ、俺はそちらへと目を向ける。


「……は?」


 そこで出てきた言葉はただそれだけだった。


「なんだよこれ……」

「まぁ、予想はしてたけどね」


 トゥスさんは此方を一切振り向かずにそう言い、村へと近づいて行く……。

 そんな彼女に俺は慌てて声をかける。


「ま、待ってくれ、な? このままじゃ!」


 俺が焦った理由……それは……。


「仕方がないだろ? 相手は闇商人、奪えるものなら何でも奪うさ」


 村は、その形を成してはおらず。

 家は崩壊し、焼き払われ……近づかずともその惨状は見て取れた。

 村の傍には黒い塊があり、それが何だったのかは形だけで理解することが出来てしまった。


「こんなの……」

「ひどすぎるって言う気かい? でもね、こんな小さな村にも蓄えはある。女を渡したら助けてくれるなんて甘い言葉を言ってもね、それを見逃すほど馬鹿じゃないってことさ」


 彼女はそう言うと馬を止め、此方へと目を向けた。

 その真剣な顔に俺は困惑していると……。


「キューラ、構えておきな……この様子だとまだ敵はいるはずだよ」

「え?」


 トゥスさんに名前を呼ばれたのは初めてだ。

 一体どういう事だろうか?


「ぼさっとしてるんじゃないよ! もしかしたら、さっき逃がした奴が報告に向かってるはずだ。何かあった時の為の連絡手段はあるはずだからね、敵がいるなら情報は伝わってると考えな! 逃げても追って来る先に叩くよ」

「――ッ!! わ、分かった」


 俺は頷き、剣を構え……深呼吸をする。

 女の子達に向いてみると起きていた子達には今の会話は聞こえており、身を寄せ合って震えていた。

 そうだ、守る人はいる……ここまでやって助けられませんでした。なんてそんな事は言えないんだ。

 やってやるさ……。

 俺は口に出さずに心の中で呟くと武器を手にし、ライムと共に馬車から降りる。

 トゥスさんは前を確認することが出来るが、後ろは無理だからだ。

 狙うなら後ろや横……可能であれば馬だ。

 足を奪うのは当然だ……俺達がそうしなかったのは徒歩で彼女達を連れて行く訳にはいかないし……何より元々の狙いがクリエを助けるために魔力をいただくことにあったからだ。


 俺が降りたところで馬車はゆっくりと進み始め、俺は辺りを警戒する。

 まだ火が残っているのだろうか? パチパチという音も聞こえ……。


「チッ!! 言う事を聞かない馬だね、これだから動物は……」


 トゥスさんは何かを呟いたようだが、聞こえてきた微かな声はエルフが言うような物じゃない気がした。

 だが、今は気にしている場合ではない。

 辺りに何者かが潜んでいないか、警戒をしていると……。


「っ!?」


 物音がし剣を構えつつ俺はそちらの方へと向く。

 しかし、そこから出てきたのは……。


「……は?」


 出てきたのはただの犬。

 尻尾をバタバタと振り、何回か吼えるとこちらの方へと向かって来る人懐っこい犬だ。

 この村の誰かが飼っていたのか? なんとも可愛らしい……。

 普通ならそう思うだろう、なにせ犬が尻尾を振って敵意を見せる事無く寄ってくるんだからな。

 だが……。


「っ!!」


 嫌な予感がし、背中にゾクリとしたものを感じた俺は慌てて手を犬へと向ける。


「穿て氷の矢! アイスアロー!!」


 詠唱をして速度を上げた魔法を犬の手前へと放つ。

 すると驚いたのか尻尾を撒いて逃げる犬……。

 悪い事をしたな、そう思いつつも犬が去って行く方へと目を向ける。

 何もない。

 だが、嫌な汗はだらだらと流れ、背中に服が張り付き気持ちが悪い……。

 犬が出てきただけだというのに何故、ここまで警戒をするのか? その理由はあの犬に傷一つないからだ……。

 もし、村の誰かのペットなら傷があるはず……なのに無傷なのはおかしいそう思っていた時だ。


「チッ!! キューラ、前だ!!」


 トゥスさんの声が聞こえたのは……。

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