127 村へと……
娘達を救った二人は馬車に乗り移動をしていた。
目的地は襲われたという村……まだ危険かとは思われるが、無事娘達を送り届けられるのだろうか? そして、そこには鳥小屋はまだ残っているのだろうか?
「なんで勇者様が……」
そう馬車の中で呟いているのは先程俺を睨んでいた少女。
名前はステラと言うらしい。
どうやら気の弱いドワーフの少女イールとは幼馴染で虐められがちな彼女を守る騎士の様な事をしてたとの事だ。
だが、そんな彼女は目的を忘れ、ただ俺の方へと困惑した表情を向けてくる。
「アンタ! 本当に従者なの!?」
「あ……ああ」
本当も何もそうなのだから否定もしないが、何故この子は此処まで信用をしないのだろうか?
因みに従者の証はちゃんと見せたが効果は無かった。
「さっきからそう言ってるだろ?」
「…………」
俺が続けてそう言うと不機嫌そうなのを隠すことなく俺を睨むステラ。
うん、俺この手の子は苦手だ。
そう言えばアイシャにも同じような対応をされたな。
この短い数日間でなんでこう似たような人に会うのだろうか?
だが、いくら失礼な事を言われたとしてもこの子を投げ捨てるような事はしない。
「トゥスさん! 後どの位だ?」
俺は馬車の御者を買って出てくれたトゥスさんに尋ねる。
流石……いや、一応エルフなだけあって動物の扱いは上手かったのだ。
すると、彼女は此方へと振り向き……。
「この調子でいけば、日が落ちる前には行けるはずだよ、お嬢ちゃんは喧嘩しない様に話してな!」
いや、喧嘩はしないっての……。
そう思いつつステラの方を向くと、彼女は相変わらずイアーナを守る様にしている。
うん、俺ってそんなに信用無いのか?
そんな風に思いつつ、溜息をつくとクリエの方へと目を向けた。
馬車の中、一人だけ横になっている彼女は先程よりも顔の色は良く……どうやら落ち着いている様だ。
その様子に安心した俺は彼女の頭の上に居座っているライムの方へと目を向けた。
勿論心配して乗っかているライムだが、傍から見れば捕食するのではないか? とも思える。
だからなのか、周りの少女たちは一歩引きつつもどうやらクリエが心配なようでじっと見つめていた。
そして……。
「あのスライムは本当に安全なの?」
「問題ない、ライムは俺の使い魔だしクリエを傷つけるなんて事はしないよ」
そう言っても話は平行線だろう。
だが、言うのと言わないのでは違う……ちゃんと口に出して説明をした俺は――。
「ライム!」
使い魔であるライムの名を呼び、鞄の中から林檎を取り出すとそれ見せてみる。
すると、嬉しいのだろうかぷるぷるとしたライムはすぐによって来て、林檎を取ると再びクリエの元へと戻っていった。
なんか……誰が主人だか分らなくなってきたぞ? とは言え、ライムはきっとクリエを守る為にあそこにいるんだろう……。
つまり、主人である俺の願いを叶えようとはしてるって考えて良いんだよな?
俺はそんな疑問を感じつつも、林檎を徐々に食していく可愛らしい使い魔を見つめる。
「あのスライム……勇者様を食べる気なんじゃ……気持ち悪い」
「な、なんか可愛い?」
ステラとイールの声はほぼ同時だったが、感想は真逆だった。
それにしてもステラは気持ち悪いって失礼過ぎじゃなかろうか?
「ス、ステラちゃん、あのこ可愛いと思うよ?」
おずおずとどこか小動物の様にきょろきょろとしながらステラへとそう言うイール。
しかし、ステラは驚いたような顔をし……。
「どこが!? あの小ささで人一人は軽々食べる魔物だよ!?」
なんともまぁ……反論が一切できない。
事実スライムはこの世界では強敵に分類される。
下手したらドラゴンとか、それ並みの魔物だ。
だが……。
「ライムはそんな事しない。させないって」
「どうだか……」
ステラにはそっぽを向かれてしまったが、普通の反応としては仕方がないか……。
そう思いつつイールの方を向いてみると……彼女は何処か目を輝かせてライムを見つめていた。
「えっと……イール、どうしたんだ?」
俺が訪ねてみると彼女はびくりと肩を震わせるが、すぐにぎこちなくも笑みを浮かべた。
そして、ライムを指差して……。
「ス、スライムってプルプルしててなんかかわいいですね、それに美味しそうで……」
「お、美味しそう!?」
いや、ライムは食べ物じゃないぞ!?
そもそもこの世界にはゼリーなんてないだろ!? プリンも! なのになぜ、美味しそう何て言い始めたのだろうか?
俺がそう思っていると、彼女の近くに居るステラは慌て始め。
「スライムは食べれないからね!」
「食べないよ!?」
叫んでるはずなのに小さな声だな。
まぁ、周りの女の子たちは黙り込んでしまってるし、この子達は喋っている分、こっちの気も紛れるしな。
だが……ライムを食べないか少し心配だな。
「その、林檎を食べてたのでつい……」
「おお……そうか」
そう恥ずかしそうにして言われ俺はどう反応して良いのか困ってしまった。
仕方がないので俺はクリエとライムの方へとズリズリと身体を動かしながら寄る。
勿論、美味しそうと言われてちょっと警戒した訳ではない。
「た、食べないですよ?」
「わ、分かってる大丈夫だ」
うん、とりあえず……イールはそういう子じゃない。
それは分かってる。
だが、どうしてもクリエが心配なだけなんだ……早く目を覚ましてほしい、俺はそう願いながら彼女の寝顔を見つめていた。




