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126 囚われた娘達

 罪を犯したキューラ。

 しかし、それは誰かに裁かれるものではなく、彼自身が抱えて行くものだ。

 そんな彼は苦悩を浮かべながらも少女達を助けるため扉を開いたのだった。

 小屋の中にはこれ以上、敵は見当たらない。

 だが……。


「な、なんだこれ……」

「ひどい扱いだね、間違いなく闇奴隷だ……」


 そこにあったのは頑丈な鉄格子がある牢、外は木製だったが、二重の壁にしてあるのだろう、石が積み上げられている。

 勿論、下も木製ではなく石……そんな場所にすし詰めの様に女の子達は入れられていた。

 彼女達は俺達を見るなり、びくりと身体を震わせる。

 当然だろう、服はボロボロ、見れば傷がある子もいる。

 この世界の奴隷……普通ならば商品として丁寧に扱われ、貴族や騎士、王族や裕福な商人に買われていく……。

 その目的はあくまで戦力だったり、家事手伝いだったり、雑用を任せる為だったりするが……衣食住を代わりに提供される訳だから奴隷になったとしてもここまでではないはずだ。

 しかし、目の前の彼女達……闇奴隷は違う。

 実験に使われたりすることもあるが主な理由は男女問わず主人の趣向に付き合わされるという事だ。

 その為闇奴隷は消耗品として扱われる。

 更に闇奴隷は彼女達の様に無理矢理連れてこられた者達が殆どだ。

 当然、正規な手続きをしない分かかる費用が少なくなりそれだけ安上がり、売る側はどんどん儲かるっていう話だ。


「さてと、敵はいない様だね、アタシはクリエお嬢ちゃんの手当てをするから、お嬢ちゃんが助けてあげな」

「あ、ああ……」


 そうは言っても、頑丈そうな扉だよな。

 仕方がない……。

 俺は牢屋の前まで歩み寄ると彼女達は再びびくりと震え怯えた瞳を俺へと向けてきた。


「少し離れててくれ」


 俺が人を殺したことを彼女達は知らない。

 だけど、それを責められている様で心にずきりとした何かを感じながらそう呟いた。

 俺の言葉のお蔭なのかそれとも、俺が単純に怖いのか女の子達は奥の方へと移動をし身を寄り添い合っている。


「…………」


 俺はもう近くに人が居ないことを確認してから、牢の鍵へと狙いを定め。


「フレイム」


 炎の魔法を飛ばす。

 鍵だけを壊すために注意して放った魔法は音を立て鉄を溶かしていく……。

 そして注意をしながら扉を開け……警戒する彼女達に自分でも分かる位ぎこちない笑みを浮かべた俺は――。


「に、逃げるぞ」


 と伝えると、彼女達は互いに目を合わせ、恐る恐ると扉の方へと向かって来た。

 どうやら一応は信用してくれてるのか? とはいえ、どうやって村へと連れて行くかが問題だ。


「だ、誰かに依頼をされたんですか?」

「ん?」


 俺がどうしたものかと考えていると一人の女性に声をかけられた。

 彼女は背が低く、褐色肌で人間や魔族と同じような耳だが先っぽだけがエルフの様にとんがっている。

 ドワーフだ……。


「あの……」


 おずおずと言った彼女の態度に驚きつつ俺は慌てて手と頭を振る。


「い、いや偶々通りかかっただけだ!」


 何故ならドワーフと言ったら性格は豪快。

 酒を好物とし、鍛冶等を得意としその関係か大きな鎚を好んで武器にする種族だ。

 つまり、彼女は小さいとはいえその身にはこの鉄格子ぐらいは壊せる力はあるはずなのだ。

 そもそも、捕まるはずがないっとすると……。


「もしかして、わざと捕まって皆を逃がそうとしたのか?」


 ドワーフの女の子に言うと彼女はぶんぶんと頭を振る。


「そ、そんな事怖くてできませんっ!!」


 言葉は強調されているが、ものすごく小さい声だ。

 この子は何というかその姿も相まって小動物みたいな感じだな。


「イール! 早く逃げよう!」


 その声にビクリと身体を震わせた少女は慌てて声の方へと振り返る。

 すると、声の主らしき少女に目の前のドワーフの少女は腕を掴まれ……。


「きゃあ!?」


 なんとも可愛らしい悲鳴を上げる。

 そして、危うくこけそうになった少女を後ろへと隠した声の主はきっと俺を睨み。


「今度は何処に連れて行く気なの?」


 敵意をむき出しにしている。

 そりゃ当然か、こんな所で偶々通りかかったなんて信じてもらえる訳がない。

 だが……。


「……村だよ」

「は?」

「君たちの村だ……闇商人に襲われたみたいだけど、村は無事なのか?」


 俺がそう尋ねると彼女達は首を振る。


「逆らった男達は殺した。あんた達がそうしたんでしょ!?」

「ま、まって……この人……助けに来てくれたって……」


 おずおずとイールと呼ばれた少女はそう言うが……もう一人の少女は髪を振り乱し、ぶんぶんと頭を左右に振る。


「そんな都合のいいことある訳ないでしょ!」

「うるさいね! 仲間がいないとも限らないさっさっと去るよ!」


 彼女の怒鳴り声とほぼ同時に聞こえたのはトゥスさんの声だ。

 彼女はクリエを背負ったまま、俺の方へと近づいて来た。


「トゥスさん! クリエは?」


 俺はすぐに背中に乗っかっている女性へと目を向ける。

 すると、トゥスさんは首を縦に振り……。


「やれることはやったさ、2人分の魔力だ……後は意識を取り戻すのを待つしかない……それよりも馬車がまだ使える。それに乗ってさっさと村まで行くよ」

「ああ、そうだな……」


 俺は彼女の言葉にほっとしつつ、頷くと二人の少女へと目を向ける。


「とにかく、信じてもらえなくてもいい! 無理矢理でも連れて行くからな!」


 折角助けたのだ。

 ここで見捨てる事は出来ない、たとえそれが1人だろうが関係はない。

 そう思ったのだが、先程まで声を荒げていた少女はクリエへと指を向けるとその指はプルプルと震えており……。


「「も、ももももしかして……ゆ……勇者様ぁ!?」」


 もう一人の少女と一緒に素っ頓狂な声を発するのだった。

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