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125 不快感と疑問

 初めて己の手で人を殺めたキューラ。

 その罪悪感は一言で言い表せるものではなかった。

 しかし、彼は自身で決めた事の為……前へと進むのだった。

 人間は不思議な物だ。

 俺はクリエを背に乗せるトゥスさんの後ろを歩きながらそう思った。

 何故なら人は生きるために命を奪う。

 これ自体は他の生物も同じだ……だが、その奪った命を見ても俺は食料としか思っていなかった。

 クリエが作ってくれた食事を美味しそうだとしか考えていなかった。

 勿論、それでも親が持ってきた獲物を最初に見た時は気持ち悪いとか、かわいそうだとか、いろんな気持ちがあった。

 しかし、人を殺めた今はそんな簡単な言葉では表せない何かが胸の所でつっかえていた。


「隠れな」


 俺が考えごとをしていると急に腕を引かれ物陰へと導かれる。

 どうやらトゥスさんは闇奴隷商を撃ち抜くために物陰に隠れたようだ。

 彼女は平気なのだろうか? そんな事を思い浮かべていると……。


「あまり無理はしない方が良い、アタシはあまりの気持ち悪さに3日は寝込んだしね」


 そう口にし、引き金を引いた。


「トゥスさんがか?」


 俺はたった今撃ち抜かれた男から目を逸らしつつ尋ねる。

 すると、彼女から異様な雰囲気を感じとりそちらの方へと視線を向けると……。


「これでもそう言った時期はあった。まぁ、アタシの場合、それが仕事だって強制されたけどね」

「……悪かった、ごめん」


 軽率な発言に俺は反省し、それだけ伝える。

 しかし、強制か……彼女は元々勇者の従者の家系だったか、恐らくそれの関係でそうなったのだろう。

 俺も寝て良いと言われるのなら、もうベッドの中に潜り込んでしまいたいぐらいだ。


「さ、行くよ。あの娘達を助けるんだろ?」


 トゥスさんは一つ溜息をつくと目の前の小屋へと指を向ける。

 そうだ……俺は、いや、俺達はこのままあの娘達を見捨ててされる訳がない。


「ああ、行こう」


 俺は受け取った水の残りを胃の中に入れると頷き、歩き始めた。


「……慣れろとは言わないさ、だけど……必要な事だ」


 そんな呟きが後ろから聞こえ、俺は敢えて聞こえないふりをした。

 だけど、彼女の言っている事は理解出来た。

 勇者を生かすという事はいずれ貴族とも戦わなければいけない。

 いや、実際戦ったんだ。

 命のやり取りをすることもあるという事だろう……。

 慣れろと言わないのは彼女の優しさか、それとも今の俺の様子を見て言っているのかは分からなかった。

 だが……俺は引くつもりはない。

 クリード王に言った通り、必要なら俺が魔王にだってなってやる。

 だが……俺達を襲った魔王の様に意味もなく人を傷つけるのではなく、王という名に恥じることの無い様にしないとな。

 じゃないとついて来てくれる人なんて稀だ……。


「トゥスさん、頼む」

「分ってるよ」


 外にはもう敵はいない。

 だが、小屋の中に居るかもしれない……俺達はそう考えながらも小屋へと近づく……。

 そして、ゆっくりと扉へと手をかけると……俺が明けるよりも早く、轟音と共に扉は大きくしなり、やがて更なる音を立て蹴破られた。


「――――っ!!」


 蹴破って来たのは一人の男だ。

 外の騒ぎを聞いて俺達が近づくまで待っていたのだろうか、とにかくこのままじゃ不味い! そう判断した俺は――。


「ファイアーウォール!!」


 魔法を唱え、目の前に迫った扉を焼き払う。

 炎の壁……良くネットゲームなどでも使われるあの魔法だ。

 これの便利な所は燃えやすい物が迫って来た時や何かが襲い掛かって来た時……まさに今みたいな時に身を守れるところにある。

 そして、今なら同時に――敵も!!


「クソ!! こんな仕事で死んでたまるか!!」

「さぁ!! 覚悟しろって、え? ……は?」


 俺が思わず呆けてしまったのには理由がある。

 出てきた男はそのまま炎の壁を抜け、俺を突き飛ばすと目もくれず走っていく……そっか、一瞬だったら炎だって燃え移らない、だといっても思いっきりの良い奴だな!?


「っ!! お嬢ちゃん!!」


 受け身を取ろうにも予想外の行動に気を取られた俺はそのまま尻を打ってしまい。


「っぅ~~!?」


 悶える結果になり、俺の事を呼んだトゥスさんは銃を構え――引き金を引く!!


「逃げるな! 撃つよ!!」


 いや、撃ってから言うなよ!? という突込みは入れられそうもない。

 何とか男を目で追うと、馬車とは正反対の方向へと走っていき、迫る弾丸は転びかけた時に奇跡的に避けた様だ。


「チッ!!」


 トゥスさんは外したことに舌打ちをしながら次の弾を込め……すぐにその手を止めた。


「範囲外だ逃がした……」

「み、みたいだな……」


 俺は痛みを訴える尻を擦りつつ、立ち上がると今度は腰に痛みが走り、そちらを擦る。


「と、とにかく中に入ってみよう、今ので最後のはずだ」


 中からはもう誰も来る様子はない。

 その事を確認してからトゥスさんにそう告げると彼女は険しい顔で……。


「そうだね、取りあえずそうしよう……」


 逃がしたことがそんなに気にくわないのだろうか? 疑問に思いつつも俺は小屋の中へと足を踏み入れた。

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