12 別れを告げて
勇者の特権を使いキューラと同じ部屋へとまんまと泊まる事にしたクリエ。
キューラはうんざりとしつつも知り合いに別れを告げるべく彼女と共に挨拶へと向かう……。
まずは友人であり、同室だったターグの元へと向かい、その後ミアラの元へと向かう事にしたのだった……。
「ミアラちゃんもキューラちゃんも綺麗な髪ですよねっ!」
先輩の部屋に尋ねに行ったら、どうやらシス先生達と一緒だとの事で場所を教えてもらい。
俺達は其処へと辿り着いた。
そしてあいさつを済ませたクリエはにっこりと微笑みながらミアラ先輩の横に座り、俺を自身の隣へと座らせた。
これはあれか? 両手に花って奴か……残念な事に両手に花なのは俺ではなくその花の一人は俺なんだが……。
「そ、そうですか? でもキューラちゃんの方が艶やかでさらさらですよ?」
「ううん、二人共どっちの方がなんて言えない位綺麗ですよ」
うわぁ、なんてイケメンな台詞。
今の言葉にはミアラ先輩も顔を赤くしてる。
まぁ、髪を褒められたんだ嬉しいに決まっている。
魔力の質がどうとかって言うのも髪や瞳に関係するらしいし、それを知った今俺も嬉しいしな。
「所で……勇者様? 何故私は手を握られてるんですか?」
まさかとは思ったが、やっぱりミアラ先輩も手を握られてたか……。
先輩はクリエの行動に若干戸惑っているみたいで可愛らしくも引きつった笑みを浮かべている。
だが、それには答えずクリエは鼻歌交じりで笑顔だ。
「では……その書類には目を通しましたが、彼で良いんですか?」
「はい! 彼女にします」
こいつ……今彼女って、思いっきり彼女って言いやがった……。
「儀式も済ませましたし、装備も揃えましたので明日には旅立つ予定です」
「そ、そうですか……」
シス先生は顔を引きつらせ、心配そうに俺を見つめて来る。
そりゃそうだろう……俺はこれからの旅に不安しかない……主に自分の身の事で……。
「大丈夫です、キューラちゃんは責任をもって私が守ります!」
いや、そう言っているクリエが一番心配なんだよなぁ……というか急に真面目になったりと正直このクリエと言う女性は良く分からない。
本当に魔物と戦えるのか? あの儀式の魔法といい勇者である事は間違いないはずだ。
だが、同時にこの子は女の子、魔王討伐何て頼んでおいてなんだけど、無理をさせてないか?
何より気になるのは魔王の話をした時の表情だ……。
恐らく先生達にも心配なのだろう、事実クリエを目にした時先生達は彼女が女性だと知っていたにも関わらず驚いていた。
「そ、そうですか……くれぐれもお願いしますね?」
でも……ああ、シス先生……助けてくれ。
そう思いつつ先生達へと視線を向けると、シェート先生が何やら取り出し始めた。
「キューラ君、現状魔王の魔力とやらに対抗できるのは君だけだ……しかし、まだ教えていない事が山ほどある……これに記しておいた旅の途中で学ぶと良い」
「し、記しておいたって」
シェート先生に手渡されたのは手作りの本、まさかこれを俺の為に?
しかも短時間で……流石は先生だ。
「ありがとうございます! シェート先生」
その後、俺達は何気ない言葉を交わし夜は更け――部屋へと戻った。
クリエは疲れたのかすぐに寝てしまい、俺も眠気には勝てず床へと着いた……。
明日からは魔王討伐の旅が始まる……ゲームや小説では何度も体験してきた事だ。
しかし、まぁ……それが現実になるとは思わなかったな……なんて事を考えながら――。
翌日、初めて生まれ故郷であるベントの街を離れる事になった俺は門の外で体を伸ばす。
街にはクリエ特製の結界を張ってもらったから、敵意のある魔物や人がこの街に入って来ることは出来ないらしい。
腐っても勇者って所か……。
「キューラちゃんは魔物と会ったことはありますか?」
そんな事を考えている中、何気ない質問が俺へと向けられ――。
「ここら辺は平和だし、魔物もあまり見ない……狩りには出かけたことがあるけど魔物を見たら逃げる様にしてたよ」
ここら辺に居る魔物はゴブリン……そうRPGなどによく出て来る魔物だ。
しかし、ゴブリンは賢く人間同様武器を始めとした道具の扱いに長けている……。
あっちもこっちにあまり関わりたくないのだろう手を出さなければ襲ってくることは極めて稀である魔物だ。
だから、見かけたら逃げれば絶対安全とは言い切れないまでもそれなりに安全な対処が出来る。
「そうですか、では――魔物にあったらまずは下がってくださいね」
「なんでだ? 実戦経験はあった方が良いだろ」
これから色んな魔物を見ていく事になる。
学校の本で知識だけは身に着けたし、それなりに戦えると思うんだが――。
「冒険者学校を卒業した人の中で死因として多いのはやはり魔物との初めての戦いです」
「へ?」
「学校には書物があるでしょう? それに書かれている事は確かに間違いではないです……ですが相手も考えを持ち行動します。それに自身の死を悟った魔物は……いえ、動物は未知の力を発揮します。それは本に書かれている事だけでは対処できない事も多いんですよ」
そ、そうなのか? 確かに追い詰められた手負いの獣は危険だと言うのは聞いた事があるし、体験もした。
いや、でも考えて見れば当然だ。
殺されそうなのに暢気にしている奴なんてよっぽどだろう……。
「ふふふ」
俺がクリエの話に驚いていると彼女は笑い始めた。
何がおかしいんだ?
「大丈夫ですよ、キューラちゃんには髪一本傷をつけさせません」
「あ、ああ……」
その自信は何なのだろうか? 気になる所だが、現状魔物との戦いの経験値はクリエの方が高いだろう。
言われた通り、まずは下がってよく観察をする方が良いだろう……その後は習うより慣れろだ……実際に戦って深追いはしない。
慎重に戦えばきっと生き残れるはずだ。
「よし!」
俺が一人意気込むとクリエは頷き――。
「では、行きましょうか」
「ああ! 頼むぞ勇者様」
俺達は魔王討伐への第一歩を踏み出した。