120 葛藤
クリエを救う方法、それは人の命を奪う事だった。
キューラはその言葉を聞き、迷うがとにかく歩を進める事にした。
倒れたクリエを運ぶのは俺だ。
その理由はこの一行の中唯一の男だから……と言いたい所だが……。
「じゃ、お嬢ちゃんは魔物が出てきたら魔法で対処、良いね?」
「お、おう……」
そう、俺は背も小さいし力もない。
クリエはトゥスさんが背負う事になった。
まぁ、戦力としても仕方がないよな、トゥスさんが戦うには弾を込めないといけないし、俺なら魔法が使えるからな。
「さて、行こうか」
「そ、そうだな……」
とは言ってもなんか情けない気分にもなってくる。
いや、今はそんな事言っている場合ではないか、今はクリエをどうやって助けるかが問題なのだから……。
運良く次の村で処刑が決定された人が居て、俺達がどうにかしてその権利を得られればまだ気が楽だが、そんな幸運は起きないだろう。
「……気が重いな」
俺は思わずそう呟く……だってそうだろ? このままでは俺達は人を殺す羽目になる。
クリエを見捨てるという選択肢は選びたくない。
だが、それが意味するのはつまり……そういう事なんだからな。
笑えないな、魔王にだってなってやるなんて言ったもののまさか本当に人に仇名すことになるとは思わなかった。
いや、まだそうなるとは決まってないが、そうなるかもしれないと考えるだけで憂鬱だ。
「お嬢ちゃん、いい加減にしな……」
「いい加減って……そう簡単に割り切れるかよ!!」
「騒ぐな、クリエお嬢ちゃんに響くだろう? それに、アタシ達が狙うとしたら悪人だ……」
その言葉に安心した俺だが……彼女が小さく「居れば、の話だけどね」と言ったのは聞き逃さなかった。
もし居なかったらどうするつもりなのだろうか?
その時の事は聞きたくもないな……。
そんな事を考えながら、俺は……前へと進む。
どの位歩いただろうか、トゥスさんの額には汗が目立ちそれは地面へと落ちる。
鎧を外したとはいえ、完全に力の抜けた人を運んでいるんだ……そりゃ疲れるよな。
かと言って俺が変わってあげることはできない。
修業をしているとはいえクリエを背負って運ぶのは無理だ。
もう少し背丈があって力があれば良いんだが……。
「少し休憩をしよう」
俺はトゥスさんに提案をすると彼女は首を横に振った。
「駄目だ、さっさと行くよ」
そう断った彼女には申し訳ないが、俺はもう一度休むことを告げ……。
「このまま倒れたら、俺は二人を運べない……どうやって進むんだ」
「そうは言ってもね、急ぐ必要があるんだよ……このままでクリエお嬢ちゃんが持つとしたら2日……長くても4日だ」
時間が無い事は分かっている。
だが、事があってからでは遅すぎる。
「倒れたらそれこそ時間が掛かるだろう?」
「大丈夫だ、村ならもう少しで付くはずだよ……」
嘘だ……最低でもあと半日はかかる。
クリエを抱えながらじゃ一日掛かってもおかしくはない。
しかし、早く着いてもそれはそれで問題だ。
俺の心の準備は全くと言っていいほど出来ていないからだ。
クリエの為に誰かを犠牲にする?
それじゃ、世界の為にクリエを犠牲にしろと言っている連中と変わらない。
「………………」
そんな俺の葛藤はばれているのだろう、トゥスさんは難しい顔をして俺の方へと目を向けていた。
空気が重い……俺が黙っているせいもあるが、トゥスさんとしても罪もない人を殺めるのは嫌なのかもしれない。
「なぁ……トゥスさん」
そんな空気に耐え切れず俺が彼女の名前を呼ぶとトゥスさんは小さく忠告をする。
「しっ! 声を出さない方が良いよ」
そう言うと彼女は木の裏へと隠れるように動き、俺もそれについて行く。
すると――。
「…………?」
こんな所を馬車が通ってる? いや、こっちより開けているから通れるのか……。
あれ? でもそれならなんで馬車でここに来なかったんだ?
「知らない内に整備されてるね、恐らく連中がやったんだろう」
小声でそう言う彼女の視線を辿ると馬車の周りでなにかを警戒する数人の冒険者らしき人達が見えた。
向こうも小声で話しているのか、此方には会話が聞こえないが、何を運んでいるのだろうか? 随分警戒しているようにも見える。
「なぁ、隠れる必要はあるのか?」
俺は気になり訊ねてみる。
勿論小声でだ……。
「この先には村がある、それも魔物があまり出ない所だ。冒険者が行く理由なんてあるかい? そもそもアタシ達だって理由が無ければここに来る必要だって無かった」
確かにそうだな。
でも、村による理由なんてそれこそなんでも良いだろうに……。
「何より、その村の先に街はないし、良い素材が取れるような洞窟とかもない」
「……ん?」
確かにそれじゃ何故寄るのかが分からないな。
だが、向こうから来たという事は間違いなく用があったんだろう。
「依頼かなにかで寄ったんじゃないのか?」
「それもあるけど、それにしては警戒し過ぎじゃないかい?」
確かに、さっきも気になったがそう見える。
俺が頷くとトゥスさんは笑みを浮かべ……。
「アタシは金が絡むと賭けに弱いが、こういった賭けには強い方なのさ……どうだい、つけてみないかい?」
彼女の言いたい事は彼らが悪人で……その魔力をいただこうという事だろう。
少し迷ったが俺は首を縦に振った。




