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119 倒れし勇者

 クリエはキューラの治療を試みたが、魔力が減るという本来ありえない事が起き倒れてしまった。

 このままでは危険だ。

 そうトゥスは伝え、キューラは更に信じたくない現実を知る事となる。

「このままだと死ぬよ」


 このままだとクリエが死ぬ……? どうにかして魔力を得なければならない?

 色々と初めて聞く事で俺は戸惑った。

 しかし、このまま固まっている訳にもいかない。


「何か方法はないのか!?」

「……魔力さえ、戻れば良い……」


 そんな事なのか……これが予断を許さない状況でなければそう口にしていただろう。

 だが――。


「それをどうやれば良いんだよ!?」

「…………」


 俺が思わず叫ぶとトゥスさんは眉を寄せ黙り込んだ。

 方法が無いって事か? だが、そんな事は分かっていた。

 この世界の魔法とは魔力があれば使える物だが、実際に減るのは体力だ。

 だから体力と魔力、そのどちらも気にしなければならないゲームとは違う。

 要するに剣等の武器を使って戦うのと殆ど変わらない。

 それ故に魔力切れと言う言葉が無い。

 しかし、クリエの今の状況は間違いなく魔力切れ……減ることの無い物が減ったのだ。

 それを得る方法なんて分からないと言われても仕方がない。


「一つだけある……」

「何だって!?」


 だから、その言葉に俺は驚いた。


「魔力を精霊石に込める。そして、その精霊石に入った魔力をクリエお嬢ちゃんに入れるんだ」

「……魔力を込めるなんて出来るのか? それにどうやってクリエへ入れる?」

「残念だけど、出来るかもしれないって言うだけだよ……魔法はともかく魔力自体を込めるなんてやった者は居ない、入れるのも同様だ」


 それじゃ、解決策にはなってない! そう口まで出かかったものを飲み込み……。


「分かった、石を……」


 と手を伸ばす。

 しかしトゥスさんは首を振って石を渡してくれなかった。


「クリエが大変なんだぞ!?」

「分ってる! だが、落ち着きなお嬢ちゃん! 魔族や混血と人間では魔力の性質が違う!」


 そうだった……その事をすっかりと忘れていた。

 魔力ではないが……聞いた事がある血液型が違う人に輸血をすると固まるって……もしかしたら、今よりも状況が悪くなるかもしれない。

 そう考えたら、俺の魔力を分けるのは無しだ、危険すぎる。


「だが、どうやって人間の魔力を手に入れるんだ? 協力者を得るのか?」

「…………それが問題だね、恐らく……魔力を提供したものは死ぬ」

「――――は?」


 死ぬ? どういう意味だ?


「魔族や混血には関係のない事だけどね、精霊石に魔法を込める時少なからず人間の魔力は搔き乱される。本人も気が付かない程度だけどね……」


 つまり、元々道具を作るにあたって人に害があるって事か?

 そんなものを使ってるっていうのか!?


「驚くのは無理もない、だけど大抵は長くて1日しっかり休めば元に戻る。だけどクリエお嬢ちゃんを助ける程の魔力を込めるとなると話が変わってくるはずだ。普通の方法では出来ないね……」

「どういうことだ? 普通じゃない方法なら出来るって事か?」


 俺の問いにトゥスさんは首を縦に振る。

 方法はあるんだ……!


「精霊銃は弾を込める手間はあるけど強力な武器だ。さらに魔力を搔き乱す事で人間に特攻性を持っている」


 それは聞いた。

 その所為でクリエが死にかけたんだ、忘れるわけがない。

 だけど、その話が今何の関係がある?


「だが、おかしな事に殺した人間から取り出した弾には魔力が宿っているらしい」

「らしいって……」

「アタシも聞いた話だ。態々殺した奴から弾を取り出すなんて狂気じみた事をした事は無いからね、実態に見ても無い物をはっきりとは言えないよ……ただ、さっき言ったように殺した人間だ……それに魔力を込めると言ってもどうやって込めれば良いのか分からない」


 そ、それは確かにそうだな。

 例えば俺達魔族の血が流れる混血は詠唱を長くすることにより魔力を練り、魔法の威力を向上させる。

 人間にはそれが無く、その人の才能という差はあるがほぼ一定の威力だ。

 つまり、魔法は魔力を込めたりしてどうこうする訳ではないっというか今トゥスさんが言ったようにどうやって魔力を込めるのかなんて分からないのだ。

 だが、精霊石を使う方法では……。


「人を殺せって言うのか? 他に方法は――」

「ないね」


 きっぱりと言われてしまった。

 しかし――。


「魔力をクリエに移すって事は出来るのか?」

「それは可能さ……魔力ってのは不思議でね、性質が同じなら与えてやることが出来るし、実際に枯れかけた木々や死にかけた動物に魔力を与え助けた事があると聞いてる」


 また、聞いた事があるってトゥスさんは実際には見たことが無いみたいだ。

 だけど……それしか方法が無い。

 でも……その為に、クリエの為に別の誰かを殺す? 駄目だ! そんなことが許される訳がない!!

 ましてやクリエがそれを知ったらどうなる? 彼女の事だ酷いショックを覚えるだろう。


「時間はあまりないよ」


 そう言われ、俺はクリエの顔を見る。

 そこには血の気が引き……青くなった顔の女性の姿。

 身体には力が無くだらりとしており、呼吸は辛うじてしているがどこかおかしい。

 このままでは死んでしまう……そんなのは駄目だ。

 そう思いつつも俺は他者の命を奪うという選択は出来ない。


「……とにかく、前に進もう。どっちにしても話はそれからだ」


 ここには人が居ない、だからとにかく次の村に行かなくちゃならない。

 引き返す方が時間がかかるはずだ。


「そうだね、よく考えておきな」

「………………」


 トゥスさんは人を殺すことを何とも思っていないのか?

 そんな風に考えながら俺は……自分が何をすべきか分からなくなっていた。

 クリエを助けるために他者を犠牲にする? それとも他者の犠牲を避けクリエを見殺しにする?

 せめて俺が人間だったら自分の命という選択もあった。

 だが、それではクリエが後々悲しむだろう……くそ……どうしたら良いんだ。

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