116 エルフとは?
村へと向かう為、馬車に乗って移動していた一行は森の前でベルグ達とは別々に行動する事となった。
鳥を使いアメルーの事をを伝える役目があるキューラ達は先を急ぐために森へと入るのだが……。
真っ先に森へと入ったエルフはどうみてもやはり、エルフらしくないのだった……。
森を愛し、動物を愛し……優しく、汚れを知らない種族。
弓と魔法を駆使し、人々と共に戦う種族。
これは俺がこの世界に来る前に想像していたエルフ像だ。
しかし、目の前に居るのは……。
「ああ! 木が鬱陶しい!!」
と言いながら鉈の様な物で枝を落としていくエルフの姿。
決して褐色肌が特徴のダークエルフではない。
普通のエルフだ。
「あ、キューラちゃん! リスですよ?」
そんなエルフから明後日の咆哮に目をそらしている勇者様は木の枝の上に居るリスに指を向けていた。
俺もそちらの方へと目を向けるが……。
「可愛いな」
そう感想を残した所。
「そう思っても触ったりしたら駄目だよ、あれでも自然の動物だ。噛まれでもして変な病気をもらうことだってあるんだからね」
うん、正論だ。
だけどさ、エルフって動物を愛し、好かれる種族じゃないのか!?
精霊とか動物と会話できる種族じゃないのか!?
俺の心の中の突込みと同じ事をクリエも考えていたのだろうか、苦笑いをしながら……。
「トゥスさんってエルフですよね?」
「ああ? そうだけど……?」
遠慮がちに発された声にトゥスさんは呆れた顔で答える。
「そんな分かり切ってることをなんで今さら」
自身の指を耳の方へと向けてそんな事を言う女性だけど、ゴメン……全くそうは見えないんだよ。
「その、木の枝を斬ったり、動物をそんな風に言ったりして良いんですか?」
「アタシは変わり者……里だって追い出されてる身だ。そうじゃなくてもエルフ全部が森と動物好きなんてある訳ないだろ? 皆我慢してるのさ、まっ! 中にはさっきの子供みたいにそれが当然だっていう堅物も居るけどね」
さっきの子供……? もしかしてカウラの事か?
「カウラは俺よりも年上じゃないか? 子供って歳でも……」
「お嬢ちゃんよりは上だろうけど、50も生きてないだろうね、子供さ」
ああ、そういう事……それだけ聞くとエルフっぽいな。
「とにかく、他の種族が思ってるほどエルフは優しく清楚な種族じゃないって事さ……」
「いや、うん……」
「信じられないなら今度紹介してやるよ、男漁りと女漁りが大好物のエルフをね」
………………なんだろう、絶対に遭いたくねぇ……。
「え、遠慮しておきます」
これには百合勇者様も思わず断っている。
「あ、でもキューラちゃんに紹介するのも無しです!」
おお、救いの手が来た……って思いたい所だが恐らく……。
「あげませんから!!」
「いつから、俺はクリエのものになったんだ……」
「――? キューラちゃんは物じゃないですよ?」
いや、そういう意味じゃないんだけどな?
「本人が紹介されたいって言うならそう言うのはどうかと思うけどね」
「いや、いい、やめてくれ……」
これ以上エルフのイメージが壊れるのは勘弁してほしい。
それに今の俺が紹介されると言ったら男の方だろう、そんなの尚更ご勘弁いただきたい。
現状でも相当俺達はエルフ像という物がガラガラと壊れて行ってるんだからな。
「さて、お嬢ちゃん達、おしゃべりは此処までのようだね」
トゥスさんはそんな事を言い森の奥へと目を向ける。
それに続きクリエもそちらへと顔を向け、険しい表情を作る。
「……魔物、ですね」
目の前に現れたのは猪の魔物だ。
魔物とは言われているが、地球に居た猪と同様の動物で気性が荒く、危険なためそう呼ばれているだけだ。
勿論食用としても知られており、毛皮や牙は素材にもなる為、駆け出しの冒険者がよく相手にする魔物でもある。
コボルトと同様ザコと呼ばれても間違いはない魔物だ。
しかし、魔物は魔物……被害が出て実際に人が死んでいる、油断はできない。
「お嬢ちゃん調味料って何があった?」
「え?」
突然なにを言い出すのか? そう思い俺は荷物の中に入っている調味料を思い出してみる。
確か、塩、ハーブ、ニンニクそれに胡椒が少しあったはずだ。
俺はその事をトゥスさんに伝えると……。
「胡椒か、いいねぇ……」
なんともまぁ、悪人と言った方がぴったりくる表情。
この世界では調味料と言ったらハーブや塩、ニンニクが家庭でも使われる物だ。
高価な物といったら胡椒、そう言えば地球でも昔は胡椒で一儲けできるほど高価な物だったらしいな。
「よし、クリエお嬢ちゃんあれを仕留める」
「あ、はい……食べるんですね?」
うん、食べるつもりなのは間違いない……というよりか恐らく、つまみにするつもりだろう。
まぁ、トゥスさんは酒に強いみたいだし、エルフのイメージが崩れるが下手に禁酒させて不機嫌にさせる必要はない。
「程々にな……」
「言われなくても分かってるよ……」
そう口にした彼女は銃に弾を込め……。
「下手に傷つけると肉質が悪くなる、一撃で仕留める」
おおう……かっこいいけど、かっこいいんだけど……ここまでやる気を見せてるのが酒のつまみの為と言うのが悲しいな。
しかし、猪も殺気を感じたのだろう、此方へと顔を向け威嚇どころか蹄で地面を何度も蹴り走ってくる準備をしている。
「キューラちゃん、下がってください!!」
クリエは俺を守る様に前へと立つ、その様子は本当に勇者の様でかっこいいが俺だって守られているだけじゃない。
「大丈夫だ」
「…………無理はしないでくださいよ?」
クリエの視線は俺の腕へと向かっている。
当然だ治してもらったとは言え、完治には程遠い……俺は頷き答えた。
「ああ、分かった」
それを聞いたクリエはようやくほっとしたような顔を浮かべ再び猪へと向き直った。




