115 試練は続くよ
馬車に乗り込んだ一行……しかし、そこには思わぬ試練があった。
そう、それは座る場所が無くクリエの膝の上に座るという事だ。
身の危険を感じつつキューラは馬車に揺られるのだった。
試練と言う物は長く険しい物だ。
そう思ったのは今日が初めてだ。
いや、そうじゃないな……風呂でも思ったことがある。
しかし、何故俺はこんな試練を受けているのだろうか?
「キューラちゃん、シャロちゃんみたいな服着て見たくないですか?」
うきうきとしたような声で言うのは勿論クリエだ。
どうしても俺にあの服を着せたいらしい。
確かに変に露出が多い服ではないから、まだ良い……何て言えるか!!
ああいった服は珍しい方だがこの世界で着られていないという訳でもない。
確かに普通の服と言えば普通の服だ。
しかし、ひらひらが多く、可愛らしいあの服装。
あれを着たら俺は男として大事な何かをまた一つ失う。
そう思うと絶対に来たくない俺は――。
「着たくない」
これだけは断固拒否するのだった。
しかし、俺を公然とした理由で抱きしめる権利を得たクリエは引くつもりはないのだろう。
「着ましょう? 次の街で買ってあげます」
「いや、いい……」
「似合うと思うよ?」
俺が拒否をしていると自分の服装を拒否されているのが気に入らないのかシャロは複雑な顔をしながらそんな事を言って来る。
確かに、俺が女の子だったらちょっと着てみたいとか……いや、無いな……。
ひらひらしすぎて戦いにくそうだし、どっちにしても着ることはないだろうが……別にシャロの格好をどうこう言ってるつもりはない。
ただ、似合うと思うよと言うのはやめてほしかった。
「ほら! 似合いますよ! 絶対!」
ほら、やけに鼻息荒い勇者様が後ろにいらっしゃる。
というか似合ったら困るんだよ!? それこそ落ち込まないといけないだろ!?
「俺はこれで良い」
「そんなにこの服装嫌?」
「そうじゃなくてだな、俺は――」
いよいよ不機嫌になったシャロを見て慌てた俺はもっともらしい理由で魔拳を使うと服の一部が燃え、高いだろうその服は買えないと言いかけて言葉を飲み込んだ。
それを言ったら今度はトゥスさんが不機嫌になりそうだからだ。
それにクリエも余計に服を着せたがるかもしれない。
さて、なら他に断る理由……そう思いつつ俺は今着ている服へと目を通す。
「この服、クリエと一緒に買いに行ったものだしな……これで良い」
俺がそう言うと後ろで呻き声が聞こえた。
その声を聞き俺はしまった……と心の中で呟く……もっと別の理由にすべきだった。
しかし、シャロは納得させる事は出来た様だ。
だが――。
「キューラちゃんっ……うへへへへへへ……」
「だ、だから抱きしめるな!? って何をしてる!?」
俺の頭に自身の顔を擦りつける勇者に俺はこの時ばかりは身の危険を感じた。
「では勇者様、従者様、私達は此処までです」
それから暫く進んだ所でベルグはそう切り出して来た。
早いな、そう思いつつ外を見てみるとつり橋の向こうには森があった。
確かにこの馬車で森を超えるのは無理だ。
「助かったよ、ベルグ」
俺は礼を言うとようやくクリエの膝の上から解放されることに色んな意味でほっとした。
うん、恐怖もあったが他にも色々あった。
俺だって健康な男だというのにクリエは全く配慮してくれないからな。
馬車から降り、伸びをしていると明らかに残念そうなクリエは……。
「一生あのままで良かったんですけど……」
「クリエお嬢ちゃん……」
クリエらしい発言だが、流石にこれにはトゥスさんも頭を抱えていた。
と、とにかく気を取り直して……。
「じゃぁランディ達はベルグをクリードまで頼んだぞ」
「任せて置け!」
頼もしい返事を受け、俺達はベルグと別れを告げる。
さて……村に向かうとするんだが……。
「また森か……ここら辺多いな」
「はい、こっちの地方は大と森に囲まれていますから……」
そう言われて地図を思い出してみるが確かにそうだった。
あまり気にはしてなかったが、いざ移動するとなると自然ってものはやっかいだ。
森や林は馬車が抜けれないし……っと文句を思い浮かべても仕方がない。
「ほら、何してるんだい?」
俺が入るのを躊躇っている中、トゥスさんは先へと歩いてしまっていた様だ。
流石腐ってもエルフ……森などには抵抗が無いのだろう……
「ああ、うっとうしい虫に刺された」
いや、あれはさっさと入ってさっさと抜けたいだけだな。
邪魔な葉っぱとかを乱暴に避けてるし、というか……鉈? の様な物で小さな枝を切り落として進んでる。
「エルフって一体……」
いや、この光景カウラが見たら頭を抱えるどころか、トゥスさんを抱えて止めかねないんじゃないか?
いよいよ彼女は……。
「エルフ……ですよね?」
クリエが今言ったようにエルフではない可能性も思い浮かぶほどエルフっぽくない……。
森の民であるはずのトゥスさんは俺達の呟きは聞こえてなかったのだろう、前へ前へと進み振り返る。
「何してるんだい! ほら、こんな森さっさと抜けるよ!!」
「あ、ああ……今行く!」
ま、まぁ森を抜ける分には頼もしい、よな?




