114 出発! 新たなる試練!?
キューラ達は新たなる仲間ランディ達を迎え、村へと向かう事にした。
途中までは商人ベルグの馬車に乗せてもらう予定なのだが……。
果たして、彼らに……いや、彼に待ち受ける苦難? とは?
その日俺達は村へ向けて出発した。
馬車で行けるのは途中までだ。
何故なら彼の馬車では渡れないつり橋がある……渡る距離自体は短く、落ちたとしても怪我位で済むらしいのだが馬車ではそうはいかないだろうし、そんな危険を冒して渡る必要はない。
安全な道があればそっちに行きたかったが、そっちでは時間が余計にかかってしまうし、急ぎでないならそっちから言っても良かったんだが、今回はベルグにもやってもらう事があるからつり橋の前で別れる事に決めた。
「でも良いのか? 俺達まで乗って……」
「歩いてたら、馬が人の足に合わせなきゃいけないだろ?」
シスの言葉に俺はそうやって答える。
幸いベルグの馬車は広い荷物と人を一緒に運べたぐらいだからな。
荷物の少ない今なら、乗って来た時よりも広く感じる。
そのお陰もあって、歩くよりも早く進むわけで……恐らくこれならば1日以上は短縮できるだろう。
しかし、あれだな……こう思うと……1時間其処らで遠出できる現代って凄いな。
現代人があまり動かないってのも頷ける。
だってこっちには電車も飛行機もエスカレーターなんてものもない。
ましてや機械技術とう言う物があるのかすら怪しい。
もしかしたら、超古代文明に精霊石を使って動かす古代兵器なんてのもあるかもしれないが……。
少なくとも今のところそう言ったものが出てきたなんて事は聞いた事が無い。
「おお~! あたし馬車なんて初めて乗ったし!」
俺がぼんやりと考えているとシャロは嬉しそうに騒いでいる。
それにしても馬車ってそうそう乗る機会が無い物なのか? いや、でも乗合馬車とかなら貧乏な冒険者でも……。
「乗った事はあるでしょうに……」
「いや、こうやって豪華なのにのんびりってのは無いよ?」
俺の予想は当たっていたらしく、カウラに突込みを受けたシャロは頬を膨らましている。
そんな様子をニコニコと見守っているのがヴァニラで余り前に出てこないそんな彼女からは何処か母性っぽい物を感じる。
「ま、とにかく……村に行くまでは俺達も居るんだ。それまではゆっくりしててくれ」
俺がそう言うと4人は嬉しそうにしていたのだが、ランディは「ところで」と呟き俺の方へと向いて来た。
「クリエさんだっけ? 膝疲れないのか? シャロだったら貸すぞ?」
心配そうに言って来る。
だがクリエは首を振ったのだろう……。
「いいえ、全然平気です! うへへへへへへ」
その笑い声の理由は……俺だ。
そう、いくらある程度の広さがあるとはいえ馬車は馬車。
座る場所には限りがある。
一番身体が小さい……というにはドワーフのヴァニラが居る為語弊があるが、次に小さいのは俺だ。
そうじゃなくてもクリエは俺を膝の上に乗せようとするだろう。
因みにもしクリエの膝の上から動いたら必然的に別の人の膝の上に座らなくてはならない。
つまり、俺に逃げ道は無いし最初から用意はされていなかった。
その事に気が付いたのは馬車に乗り始めた時だ。
「キューラちゃん……どうやら座れる場所がギリギリみたいですよ?」
「……は? だって荷物は降ろしたろ?」
そう、荷物は降ろされていた。
しかし、馬車を覗き込んでみると減ってはいるものの荷が積み込まれていた。
どういう事だ? と首を傾げていると……。
「これから王と交渉するんです。実物があった方が良いでしょう」
ああ、なるほど……俺が王に頼んでもこの村の村長はともかく商人であるベルグは頼まれた商人だ。
王様と直接、それも専属として話をするのだからちゃんとアメルーを見せた方が良いという訳だろうか?
「まず、このアメルーを王へ土産として持っていきたいと思っています」
「土産ってまた豪勢だね」
トゥスさんが答えてくれたが、彼の言葉には俺は耳を疑った。
土産って事は売らないって事だよな? なんでそんな事…………。
そんな俺の考えは顔に出ていたのかベルグは微笑むと……。
「貴女方は信頼をされているでしょうが私は違う、私個人ただの雇われではないと信用してもらわないといけません。商売とは信用があるから成り立つのです」
あーなるほど……確かにそうだ。
とは言え、俺の紹介なら信用してくれそうだが、彼自身がそれでは納得できないのかもしれない。
好きにさせよう……と思ったんだが……。
「一人確実に座れないな……」
無理に座れば、座れる。
しかしそれでは無理な体勢にもなるし、身体も痛くなりそうだ。
「ええ、ですから従者様は誰かの膝の上に……」
「………………」
俺は確かに小さいけどさ!? それでもその扱いは無いんじゃないか!?
そう心の中で突っ込んでいると悪寒が走り、俺は後ろを振り向く……そこには当然満面の笑みを浮かべた勇者が居り。
「キューラちゃん?」
「絶対に嫌だぞ」
「あーでも、アタシの膝の上は勘弁してくれよ? 酒が飲めなくなる」
トゥスさん……断った瞬間それを言って拒否してますが、俺は貴女の膝の上に座りたいとは言ってないですよ?
というか、カウラが頭を抱えてる。
しかし、どうしたものか、歩く訳にもいかず……かといって誰かの膝の上? 冗談じゃない。
確かに俺は体が小さい……小さい?
「なら、ヴァニラが誰かの上に乗れば良いんじゃないか?」
「その、斧があるから……」
その斧をどこかに置いておきなさい、そう言いたかった俺だったが彼女のその後の言葉にそれを言うのは諦めた。
「えっと……これちゃんと持ってないと置く場所ないし、立てかけてたら倒れた時に危ない」
「そうだな……」
「うへへへ……」
俺が諦めると同時に笑う勇者……しかし、馬車に乗らない訳にはいかない……。
かと言って男の膝の上は勘弁を願いたいっと言ってもまさかシャロの上に乗る訳にはいかない。
彼女は知らないが俺は元々男なんだからな……そうなると……。
「変な事を絶対にするなよ?」
「………………は、はい」
今の間がすごく不安だが……俺は覚悟を決めた。
これが、俺がクリエの膝の上に居る理由だ。
辛うじて今のところは変な目には合っていないが気が気じゃない。
全く、今度からこういう事があるのなら全員が座れるように言っておこう……。




