110 提案
名もなき村、キールでの依頼。
それを解決する為にキューラ達が考えた案は単純な物であった。
それはクリードの王カヴァリの力を借りるという事だったのだが……果たして村長は首を縦に振るのだろうか?
なんか俺達って一旦戻ってからすぐに依頼主の元へと戻る事が多い気がするな。
そんな事を考えながら村長宅へと向かった俺達。
すると、顔を出した村長は驚いた表情を浮かべていた。
「つい先ほど戻ったはずだが? もしや寝床が良くなかったか?」
「あ、いや……そうじゃなくて」
そりゃそうだよな、今出て行った人物がまた訪ねて来た訳でしかもその人は忘れ物をした訳でもない。
なにせ俺は身に着けている物ぐらいしか持って行ってないし、金属のような物ばかりだから落としたら音で分かる。
しかも今度は全員だ。
何かあって言いに来たと考えるのも頷ける。
「その、キューラちゃんが受けた依頼の件です……」
クリエはおずおずとその事を告げる。
すると村長はますます表情を驚いた物へと変えた。
「ほう、もう思いついたのか……」
「いや、思いついたっていうか、偶々知っていたって言った方が良いかもしれないね」
トゥスさんの言葉に興味を持ったのだろう、村長は再び家へと招き入れてくれた。
「……どうぞ」
俺が酒場へと戻っている間に出かけていたアイシャも戻って来ていたのだろう。
不機嫌そうな顔のまま目の前へとお茶を出された。
うん、俺達がクリエをどうこうする訳じゃないってのは分かってもらえたはずなんだが、どうやら全く信用されてないみたいだな。
「それで、方法と言うのは?」
そして、村長はその事を分かりつつも話を進めてきた。
まぁ、早くて助かる。
「ああ、ここで採れるアメルー……こいつを村、商人で協力してもらってクリードの王カヴァリと取引をしてほしい」
「……なに?」
優しそうな笑みを浮かべていた村長だったが、王の名前を出すと途端に険しい表情へと変わる。
当然だ……貴族や王は勇者を見捨てる側なんだからな。
「まぁ、そう怒った顔をしないでくれ……実は俺は魔王を倒せって依頼も受けてる。その依頼をしたのが王カヴァリだ」
俺はあくまで俺個人が受けたと強調するように村長へと伝えた。
「…………」
うわぁ、さっきとは違って睨まれてるし、めちゃくちゃ疑われてるな。
「事実、クリード王はクリエの犠牲を良しとしてない。実際に話してもらえれば分かるはずだ」
多分……勇者の事に関しては王カヴァリは嘘を言っていないはずだ。
だから、大丈夫……だと思うんだが……。
「お前達が騙されているっという事は?」
うん、そう言うだろうと思ったよ。
「全くのゼロって訳ではないね、だけど……他にどうするんだい? 貴族相手じゃいくら腕があると言っても時間の問題だ。ならより強い協力者を得るべきなんじゃないかい?」
ト、トゥスさん……まさか、手を貸してくれるとは思わなかったな。
だが、これはありがたい。
「しかし、王が取引の相手では同じだろう」
「ああ、普通の王……ならな、だが俺が取引をするように頼んでるのはクリードの王カヴァリだ」
そう言うと何が違う? とでもいうような顔を浮かべた村長。
慌てるな……今説明するんだからな。
「クリードの王は俺に魔王を倒すように依頼をした……その時紹介されたのがトゥスさんともう一人の女の子だ。二人共クリエの事を一人の人間として扱っているし、王もそうしてくれた。それに俺の名前を出せば話を無視されるって事もない」
「……にわかには信じがたいな」
うーん、まだ押しが弱いか……。
だが、此処で王様の力を借りれば俺達にもメリットはある。
まずアメルーを使った武器、防具の入手だ。
現状この村のアメルーは商人の手により運ばれている、それが降ろされる場所は様々な場所だろう、勿論クリードにも送ってはくれるはずだがゾルグとかにも運ばれてしまっているはずだ。
しかし、それがクリードだけに集まったら? 騎士王なんて呼ばれるカヴァリならば此方から頼めば武器や防具を用意してくれるだろう。
「クリードは此処からそう遠くはありませんし、キューラちゃんの言う通り私は王様から何も言われてません」
「しかしな」
「だが、他にどうする? さっきもトゥスさんが言ってたがいずれ潰されるのが目に見えているんだぞ?」
相手は貴族だ。
暗殺者を雇うなんてお手の物、最悪盗賊等の賊を雇う事だってできる。
「王様相手じゃ奴らもそうそう手が出せない、それに……何かあったら俺達がまた手を貸す」
「……分かった。では王と話がつくまで暫くこの村に滞在をすることを条件に呑もう」
「ああ、勿論だ。俺の名前を出す以上ここに居た方が良いだろうからな」
何とか納得……はしてもらえてないが、条件は聞いてもらえた。
後は……貴族の手が回る前に王様に手を回してもらうだけだ。




