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108 石碑

 一人だけ再び村長の元を訪れるように告げられたキューラは伝言通り、一人村長の家へと向かった。

 そこで見せられたのは一つの石碑……それには信じられないモノが描かれているのだった。

 果たして、キューラの見たモノとは……!?

「これは昔から我が家に伝わっていたモノだ。運ぶのは少々骨が折れたが此処へと移動させた。」


 そう告げる村長。

 俺はその石碑の絵に目を奪われた。

 それもそうだ……そこに描かれていたのは花畑の中にある墓、その前に立つ恐らくは男性。

 彼の前にはフードを被った人……その人は墓の前の男から火を受け継いでいるように見える。


「これは……」


 まさか、英雄と言うのはアウクの事なのか? それにあの火は……魔拳、なのか……?

 疑問を感じつつ俺は村長へと目を向ける。

 いや、まさか……彼は混血や魔族ではない、アイシャだってそうだ。

 待てよ……でも、チェルだって混血ではないのにアウクの子孫……フィアランスだ。

 もしかして血が薄まると人間になるのか? そんな馬鹿な聞いた事が無い。

 混血の子は混血。

 神聖魔法が使えるようなことはない。


「どうだ? いや、聞くまでもないな……」

「………………」


 彼は微笑んだまま、その場にあった椅子に座るよう手で勧めてくる。

 俺はゆっくりとそこへ腰かけると目の前に座った村長は語り始めた。


「実はなアイシャがお告げを告げたその前はこの石碑は歴代の神の子……勇者が次の勇者に希望を託す絵だと思っていた」


 確かに、そうも見える。

 墓の前で火を渡しているんだからな。


「でもなんで急に勇者を神の子と呼び、奇跡を使えって強制しない? 魔王が居るのは知ってるんだろ?」

「……それはな、遠い昔ワシらは何処か別の貴族の分家だったらしい、その時に受け継いだのがこの石碑だ」


 ん? いや、それは答えじゃないだろ?


「そう、変な顔をするな……時が経ち、この石碑は忘れ去られていた。本来の意味も知らずワシがこれを初めて見た時は最初に言ったように神の子に関するものだと思ったよ。哀れな運命だともな……」

「……で?」


 俺は次の言葉を促すと村長は頷き――。


「だが、アイシャに勇者が犠牲になるのはおかしいと言われ、よく考えてみればこの石碑もおかしい事に気が付いた……神の子が眠る墓などない、彼らは人知れず死に去る。今もどこかでその子孫が生きていると信じられているが、彼らが住む町や村の情報はない」

「そうだな……」


 それは俺も思っていた事だ。

 しかし、それも当然だ……犠牲になった勇者達を貴族達はそれが定めであり勇者の生きてきた理由だと考えているからだ。

 彼ら、彼女達の死は悲しむ物でも讃えるものでもないって考えてるんだからな。


「なら、この墓は誰のだ? そしてこの二人は? 疑問を抱えた時アイシャのお告げがあった……そして、先程は語らなかったがもう一つ――」

「もう一つ?」

「アイシャがこのお告げをした時は幼かった。あの子が最後に告げた言葉が――英雄の弟子はまだ幼く力もない、しかしやがて剣を受け継ぎ尊きものの横に立つと告げた」


 なんだそれ? それは変だな……だって勇者は……。


「勇者は最初から奇跡っていう無茶苦茶な力を持ってるだろ?」

「そうだ……だからこそ、まだ幼い子が誰かから剣、恐らくは力を受け継いでいるその時の事をこの石碑は語っているのではないか? とワシは考えたのだ。そして、それを受け継ぐものは脅威となる可能性がある勇者ではないのではないか? とも街の領主に告げてしまった」


 おいおい、それじゃ……この人達がここに居るのって……。


「その結果、ワシの考えに賛同した家族や部下共々街を追い出され、アイシャのお告げのお蔭でここに住み込んだという訳だ」


 なるほどな、でも、それは……。


「奇跡を使えと言わない理由じゃないよな?」

「いいや、理由だ……神の子はいずれ脅威になる。しかし、鍵となる者が隣に居る時、もしそれが過去の英雄からなにかを受け継いだ者なら? 脅威とはならず……いや、その脅威を振り払う者なのではないか?」


 ああ、そういう事か……俺は村長を睨んだ。

 つまり、彼はこう言いたいのだろう、勇者はいずれ世界を滅ぼすという選択をするかもしれない。

 そして、その鍵となるのは俺……俺は過去の英雄アウクから魔拳を受け継いだ。

 その魔拳で脅威……つまりクリエを倒せと――。


「悪いが、俺は――」

「そう怖い顔をするな、ワシは何も神の子を殺せと言っている訳ではない」


 ん?


「もし、今代の神の子が脅威となるならあの様に笑みを浮かべないだろう、君を見る時優し気な瞳をむけないだろう……安心しているのではないか?」


 え? そうだったのか? 笑顔はまぁ、いつも通りだったが……クリエはそこまで安心しているとは思わない。

 いつも不安そうだし、だからこそ彼女を助けないといけないと思う。

 彼女が安心して生きていける世界、その為に俺とトゥスさんは魔王を倒す。

 まぁ、どっちにしてもクリエはもう奇跡を起こせないんだけどな。


「恐らくは鍵と言うのは”神の子を倒す鍵”ではなく”神の子がその選択をしない鍵”ではないか? ワシは少なくとも君達を見てそう思った」

「へぇ……」


 何処までが本当なのか分からない。

 俺は失礼かとは思ったが疑う様な声を出してしまった。

 本当、何時からこうなったのだろうか?


「……そして、その鍵は英雄から受け継いだ何かがある……そう、なにかが……」


 村長は特に気にする訳でもなく俺を見つめ、そんな事を口にすると笑みを浮かべた。

 胡散臭い笑顔って訳ではない。

 どこか親し気な笑みだ……クリードの王にも似たそれが本当か嘘か……。


「キューラとか言ったな?」

「ああ……で、俺を呼び出した用件は結局なんだ? そんな話をするためだったのか?」


 長々と続く話に嫌気も覚えた俺は嫌味ったらしく尋ねる。

 すると、帰ってきた言葉は……。


「これは失礼したな。単刀直入に言おう……”勇者殿”」

「……は?」

「魔王を討ち世界を救うその前に……どうか、この村を救ってはくれないか?」


 いや、待て……村の手伝いをするのは別に良い。

 だが――。


「今なんて言った?」


 この村長は俺を勇者だって言ったのか?

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