106 温泉っ!
キューラにとって試練が待ち受けている……。
それは温泉だ……クリエと一緒に入る事になったキューラ。
だが、温泉でクリエが特権を行使しようとした所、何故か使えなかった。
代わりに何故かキューラとトゥスが優遇されているようだが……?
中に入ると其処は広い温泉だった。
一体何人入れるんだ? そう疑問を浮かべているが、俺の視線は明後日の方向へと向いている……その理由は勿論クリエだ。
布を巻きつけて入るものの裸な訳だから意識を別の所にもっていかなければまた慌てて倒れそうだ。
「キューラちゃん……そんな、よそ見してると危ないですよ?」
「あ、ああ……」
そうはいっても俺は男なんだよ! クリエは平気そうだけど俺はそうじゃないんだ!
というかなんで平気なんだ? 前も思ったけどなんで平気なんだよっ!?
「も、もしかして怒ってますか?」
「怒ってはいないよ」
ただ色んな意味で困ってるだけだ。
クリエは美人だし、可愛いし……って何を考えているんだ俺は……。
「そうですか、良かった背中流しますよ」
「へぁ!?」
思わず頷きかけた所、クリエが言っている事を理解した俺は変な声を上げてしまった。
「うへへ……きれいな肌です」
「あ、あのなぁ……」
前と言われないマシなのか? 確かに背中は洗ってもらえると助かると言えば助かるんだが……。
「それにしても、何で私じゃなくてキューラちゃんが特別扱いされてるんでしょう?」
そして急に真面目になるクリエは一体なんなんだろうか?
とはいえ、確かに気になる。
「それだよな……クリエは勇者だ、最初の勇者が違うと言っても今はそうなんだからな……」
特権を行使出来ないというのはどういう意味なのか……いや、彼らはもしかしたら現在の勇者つまり神の子と言うのは人と変わらない。
寧ろ、人に利用される者であり庇護の対象だとしたら?
勇者として扱わないかもしれない、だが……そうなると逆に気になる事はやっぱり……。
「何で、俺とトゥスさんは特別視されているかって事か……」
さっきの店員さんは俺だけじゃなくトゥスさんの事も言っていた。
つまり、彼女もまた一人で温泉に浸かれるという訳だ。
恐らくここだけじゃない、この村では他の事も優遇されている可能性がある。
あとで調べてみるか……そう思いながら俺は体を洗おうと腰を掛けた。
すると――。
「うひゃぁ!?」
背中に何か冷たいモノがあたり、思わず声を上げてしまった。
「な、なんな……なん!?」
慌てて振り返ると其処にはプルプルと震える魔物の姿が見え……。
「ライムちゃん?」
クリエは俺の使い魔を両手で抱えると首を傾げながら名前を呼んだ。
なんでここに居るんだ? 確か脱衣所で待ってもらってたはずなんだが……。
と、とにかく……脱衣所に戻してやらないと!
「ライムほら、あっちで大人しく……」
クリエが抱えるライムを抱き寄せ俺は脱衣所の方へと向かう。
するとライムはするりと抜け出し、クリエの頭の上へと昇り始めた。
一体なにをしてるんだ?
「もしかして、キューラちゃんが倒れたら冷ましてあげるつもりなのかもしれませんね?」
クリエがそう言うとライムはぴょんぴょんと跳ね始めた。
な、なるほど……それは助かる。
ライムは冷たくて気持ちが良いからな……ってそうじゃない!
「もし落ちたら大変だぞ?」
ライムはきっと熱い所なんかは苦手だ。
そう思った俺は忠告をするのだが、ライムはまるで顔を逸らすように動いた。
お、俺の言う事を聞いてくれるはずの使い魔なのにこう変に頑固な所は誰に似たんだ?
「これで安心してお風呂に入れますね!」
そしてクリエは嬉しそうにしているし、仕方ない。
とにかく今度は倒れない様にしよう。
と思ったんだが……。
「キュ、キューラちゃん!? 顔が真っ赤ですよ!?」
クリエは天然なのか、なんなのか……タオルを身に着けたまま温泉へと浸かった所為でまたもや透けている。
逆にこう……なんか言い辛いが、目を向けづらくなってしまった俺は壁の方へと顔を向けひたすら耐えることになってしまい。
またもや倒れかけた時にライムに救われたのは言うまでもない。
ただ、この時俺は心の中で強く誓った。
「風呂は今度から一人で入るからな?」
「え!?」
なんで当然の事を言ったら世界の終わりの様な顔をするんだクリエは……。
「俺の心臓が持たないんだよ、頼むからな?」
「でも、ここはともかく他の街では私の特権が無いと別の人も居ますよ? まさかその身体で男性の方に入るつもりですか?」
クリエにそう言われ、俺はその事を思い出しがっくりと項垂れた。
「そうだった……」
彼女に頼まなければ、結局そうなってしまう。
「戻ろう……」
「は、はい、でもなんでそんなこの世の終わりの様な顔をしてるんですか?」
と言われましても……そうならざるを得ないんだ。
そんな事を言う気力もなく俺はトボトボと歩き始める。
するとクリエは俺の目の前に回り込み……。
「ほら、キューラちゃん戻りましょう?」
笑みを浮かべて手を差し出して来た。




