105 変な村
最初の勇者。
それはキューラも納得する理由で生まれた物語だった。
本当か嘘か……それは分からない、だが、勇者の在り方として正しい者……。
疑問を感じつつキューラ達は村長の紹介してくれた宿に泊まる事となった。
それから俺達は村長の計らいで村の宿を紹介され、無料で泊めてもらう事が出来た。
だが、どういう訳だ? あの村長が言っている事は……まるで、今の勇者はただの巫女かなにかで本物の勇者は別に居るとでも言いたそうだった。
なんというか、言っていた意味は分かる。
誰かを守る為に剣を握る勇気を持つ者、立ち向かう勇気がある者、それが勇者だという事は……な。
「聞いたら宿が殆ど埋まってたみたいでしたので、一部屋とはいえ取れて良かったです。村長さんのお蔭ですねっ!」
「……まぁ、信用は出来ないけどね」
喜ぶクリエとは別に警戒しているのだろうトゥスさんは俺の方へと目を向けてくる。
分かっている……安易に信頼はしない。
裏切られる可能性もあるからな……だが完全に疑う事も出来ない。
だから、トゥスさんの言っている通り信用すらしないという事は俺には考えられないな。
それに今までの事を考えるとクリエに奇跡を使えと言わなかったことも気になる。
「とにかく、今は此処でしっかり休もう」
ゾルグでの一件でクリエも疲れているはずだ。
そう思った俺は休息を提案するとクリエはにっこりと微笑み……。
「な、なんだ? どうした?」
俺へと詰め寄ってきた。
良く分からない恐怖に俺は思わず警戒するのだが――。
「キューラちゃん、お風呂に行きましょう?」
「ちょっと待て! なんでそうなる!?」
いや、確かに行きたそうにはしてたし、俺も行きたいが……クリエと入ったらまた気絶するに決まってるだろ!?
以前の事を覚えていないのだろうか?
「大丈夫です! 転びそうになったらすぐに支えますから! うへへへへ」
ああ、覚えているのか……そう言えばあの時気絶したんだからもしかしたら俺はもうクリエに何かされているのかもしれない。
そんな恐怖感に駆られながらも、助けを求めるためにトゥスさんへと目を向ける。
だが、肝心のトゥスさんは俺の末路には興味が無いのだろう……ゾルグで買った酒をうきうきとしながら用意をしていた。
「ト、トゥスサン……」
俺は彼女の名を何とか呼ぶのだが、彼女は此方へと目を向けるなり片手を上げると――。
「行ってきな、アタシは酒を飲みたい」
「え? トゥスさんは来ないのですか? 一緒に行きたかったんですけど……」
残念そうにするクリエだが、なんというか彼女がそう言うと何か裏があるんじゃないか? と思えるのは何故だろうか?
いや、多分と言うか絶対……トゥスさんの裸体が目当て何だろうが……って思ったが、そう言えばトゥスさんにはあまり色目を向けてないような気がするな。
「流石に女好きの勇者様と一緒の風呂は怖いからね」
トゥスさんは俺の考えた事と同じ事を思い浮かべたのか、そういう事を言い始めたのだが――。
「え? あの……すみません私にも好みというものが……」
「…………」
振られてしまった事に彼女は複雑そうな表情を浮かべた……というか、あったのか……好み。
しかも、俺はその好みにどんぴしゃなのか? こっちはこっちで複雑だぞ!?
「お嬢ちゃん頑張りな」
暫く黙っていたトゥスさんは心底ほっとしたような満面の笑みを浮かべて酒を煽ると俺へと労い? の言葉を投げてくる。
おい、待て……そう言いたいが何も言えない俺は――。
「さぁ行きましょうかキューラちゃん?」
「ちょ……待ってくれぇぇぇ!?」
クリエに引きずられて温泉に連行されていくのだった。
温泉は俺達が泊る宿からすぐの場所にあった。
覚悟を……決めるしかないのか……と思っていると、クリエが何やら話している。
「あの、温泉を利用したいのですが――その、恥ずかしいもので人がいるとゆっくりつかれないんです」
もしかして、この前もクリエはあくまで自分の理由にしてくれていたのか……。
そんな事を考えつつ彼女が人払いをしてくれているのを見ていると店員は困った様な笑みを浮かべた。
「えっと、その勇者様……この村では貴女の特権は使えません、村長の言葉で勇者を特別扱いしない様に言われているんです」
「「え……」」
俺達二人は同時に驚いた。
事実おかしい、勇者の特権は勇者が人を救うために作られた制度。
悪く言えばわがままを許すかわりに世界の危機には命を捧げるように……それはこの神大陸だけではない魔大陸でも同じ事だ。
どういう事だ? そう思っていた所、店員さんは俺の方へと目を向け――。
「ですが、貴女とエルフの女性が来た時は人払いをするように言われております」
「――――は? なんで俺が来た時に?」
意味が分からない……何で”勇者”であるクリエではなく俺とトゥスさんなんだ?
「そう村長に言伝を受けたんです……ただそれだけ、では少々お待ちください」
そう言うと店員さんは笑みを浮かべて去って行く……俺達を残して笑みを浮かべたまま去って行った。
「ど、どういうこと……何ですか?」
「わ、分からないって俺に聞かれても……」
クリエは呆然としつつ俺に問い、俺はそう答えるしかない……。
事実、何故俺とトゥスさんが優遇されたんだ?
そんな事を考えつつ待っていると暫くしてから温泉から人が出て来て……クリエへと目を向けた後、すぐに俺の方へと視線を向けると頭を下げ。
「ここの温泉は気持ちいいからな、ゆっくりどうぞ」
「羨ましいな、一度言いで良いからアタシも貸し切り状態で入りたいもんだよ」
などと笑みを浮かべて去って行く……。
クリエに言うのではなく、俺に対してだ。
しかし、皮肉と言った感じではない、その証拠に中には――。
「おお、貴女がアイシャ様がお告げをした」
などと言う老人に握手まで求められた。
「ああ……そう、らしいな……」
「あ、あの……勇者は私……」
流石にそこはプライドというものがあるのだろう、クリエは遠慮しながらもそう言うが、老人は彼女の方へと目を向け微笑むと何度も頷き、すぐに俺の方へと向いて拝むように頭を下げ始めた。
なんなんだ……この村は……。
俺はそう思いつつも仕方なしに握手に応じた。




