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104 夢のお告げ

 村長の家へと招かれたキューラ達。

 彼らは魔王をどうするのかと言う質問を受ける。

 しかし、正直に答える訳にもいかず言葉を選んでいるとどうやら、キール村の村長の話では勇者は神の子と呼ばれている様だ……。

 そして、世界を救うカギとなる者がキューラだという……果たしてその意味とは……?

「お告げの中にキューラちゃんが……? え、えっとその鍵と言うのがキューラちゃん?」

「ああ、恐らく彼女の事だろう」


 村長は頷き答えるが、俺はにわかには信じられない。

 だが……勇者が魔王になる。この言葉には共感が出来た。

 そう遠くない未来、世界を見捨てる勇者が現れるって事なんだろう……当然だ、今までずっと勇者は世界を守って来たのにひどい扱いを受けたんだからな。


「って待ってくれ……ならあんた達は勇者を犠牲にするつもりはないって言うのか?」


 これは大事な事だ。

 確認しないといけない……そう思い口にするとアイシャと言う少女は此方へと詰め寄ってくる。


「犠牲!? そんな酷い事平然としてるのがおかしいのに!」


 声を荒げ、怒っている。

 怒っているふりではない……この子は純粋に勇者を犠牲にするという事に疑問を感じ、怒りさえ覚えているんだ。


「……ワシ達も元は貴族、犠牲は当然だと思っていた。しかし、この子は小さい頃からそれがおかしいと訴えていた」

「なんだって?」


 トゥスさんは村長の言葉を聞くなり警戒するそぶりを見せた。

 しかし、俺は彼女の方へと目を向け首を横に振った……元はということは話には続きがある。


「最初は何を言っているんだと思ったよ、しかし……彼女の夢見は何度となくワシらを救い、そして世界の滅亡を口にした。その時は勇者を探し亡き者にしようとも考えた」


 当然だな……彼らからすれば色々目を瞑っていた部分もあるのだろうから……。

 だが、それにしたって行き過ぎだ。


「しかし、改めてよく考えてみると勇者とは何なのか……よく分からなくなったのだ」

「ん? どういう事だ?」


 俺が訪ねると村長は深く頷き言葉を続ける。


「最古の勇者の伝説を知っているか? 人々がまだ強固な壁を築くことが出来ず、武器もまた粗悪な物だった頃の話だ」

「……いや、知らない」


 トゥスさんの方へと目を向け確かめてみるが、彼女もまた首を横に振った。


「エルフにはまだ本は浸透していない」


 なるほど、つまり知るためには聞くか人間の本を見るしかないのか……。


「たしか、魔物から身を守る為に色々な物を奪い始める事から始まった戦争を止めた人でしたっけ?」


 クリエが訪ねると村長は首を振り否定した。


「それは最初の神の子だ……ワシが言っているのは最初の勇者……本にはなっておらず、各地に口伝で伝えられている伝承」


 ん? じゃぁ他に勇者が居たって事か? というか勇者って神の子供と言われるクリエ達以外に居たのか?

 俺が首を傾げると優し気な笑みを浮かべた村長は言葉を続ける。


「その伝承はこうだ……魔物は人々を襲い、喰らう……人だけではなく人が作った作物もだ……時として村そのものを奪われることもあった。恐ろしい魔物に対抗しようにもその当時の武器は粗悪……」

「つまり、まともに戦えないというのか?」


 俺の言葉に頷く村長。


「当時は数回振れば刃こぼれを起こす、狩りの度2、3本は新しい物が必要だった……だが、ある時ドワーフと共に一人の少年が一本の剣を作り出した」

「一本の剣ですか?」


 クリエは問う、もしかして、その剣が伝説の剣として今もどこかに伝わっているとか? いや待て、この世界にマジックアイテムは精霊石だけだ。

 いくら手入れが行き届いていてその剣が残っているとしても使える訳がない。


「ああ、当時では最高の一振りだった。それ持って魔物から身を護る様に少年は言った、しかし……相手は魔物、皆怖がっていた。だが、たった一人だけその剣を握ったのだ」

「命知らずか?」


 トゥスさん……確かにそうだけど、俺の方を向きながら言うのは勘弁していただきたい。


「剣を握ったものはその少年だ……両親を早くに無くした為、残された兄妹を守る為に幼いころから狩りの為に剣を振っていた者だ。彼はその剣で魔物と戦い、傷を負いながらも勝利を収めた……そんな少年の勇士を見て、人々は武器を握り戦い始めた。これが最初の勇者だ」

「え……?」


 俺は言葉を失った。

 だってそうだろ?


「それじゃ、何でクリエが……神の子供って言われてる人達が勇者って決められてる!? その伝承が本当なら誰だって勇者になれるじゃないか!!」


 それこそ、俺が知る勇者だ。

 勇者は最初から勇者な訳じゃない……英雄は誰だって俺達と同じ何の変哲もない人から始まる。

 ただ、偶々英雄と言われるようなことを成したから勇者や英雄ともてはやされる。

 例えば見ず知らずのお姫様の為に剣を握るとそれこそ、今の話の様に大切な誰かの為に戦うとかさ……。


「現在の勇者が勇者と言われる理由は神の子が言った通り、戦争を奇跡の力で止めた事から始まった……勇者ともてはやしいざという時に助けてもらうためにな」


 助けてもらう……だって?


「とにかく、最初の勇者は彼女達、神の子ではない……それでお嬢ちゃん、君は何故勇者の従者をしている? 言葉を選んでいるその様子から見ても奇跡の意味を知っているのではないか?」

「…………」


 俺は黙り込んだ……相手が何を考えているか分からないからだ。

 もしかしたら、此処でクリエを守る為と言う本当の答えを言った瞬間本性を現すって事も十分あり得る。


「沈黙が答え……という事か」


 村長はそう言うと話は終わりとばかりに口を閉ざした。

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