103 キール村の村長
キューラ達が辿り着いた場所はボロボロな家だった。
そこは村長の家だというが信じられない彼らは入るのを躊躇っていると一人の少女が家から現れる。
彼女は話をしていくと不機嫌になっていき……しばらくすると村長が家の中から顔を出すのだった。
さて、疑問が一つある。
「さて、どのような件でこの村へ?」
まず一つ、目の前に居る村長は何故かクリエに対し畏まった様子が無い。
勿論、蔑むような瞳を向ける事もない。
「何も無い村だ、貴女達の様な可愛らしい客人が来る理由が知りたいのだが」
そして、何故か俺にその問いを向けた。
普通なら勇者であるクリエに問うだろう……しかし、村長は違った。
何故か勇者が座るべきだろう真ん中の席に案内をされたのは俺だ……断ったのだが、押し切られてしまった。
どういう訳だ? そんな疑問を感じつつ俺は何と言った物かと考える。
俺達の旅の目的は魔王を倒す事……それは変わらない、だが条件付きだ。
クリエの……勇者の奇跡を一切使わずに魔王を倒すんだからな。
「あの、私達はですね」
クリエが沈黙に耐えられずそう口にすると村長は手を前に出し、言葉を止めた。
「神の子に聞いてはいない、ワシは其処のお嬢ちゃんに聞いているんだ」
だからなんで俺なんだ……それも気になるが、今何って言った?
「……神の子?」
トゥスさんが村長へと鋭い視線を向けながら呟いた言葉。
そうだ、今目の前の老人は勇者ではなく神の子と言っていた。
「勇者とも言う、だが……ワシ達は神の子と呼んでいる」
「待ってくれ、アンタ達はっておかしい! その子は勇者と呼んでたぞ!!」
俺はその場に居るもう一人の村民。
つまり、この家の前で出会った少女……確か名前はアイシャだったか? その子へと目を向けた。
「アイシャ……」
「勇者様は勇者様! お爺ちゃん達は神の子って言ってるけど、そこは変わらないでしょ!」
少女の言葉に老人は溜息をついた。
しかし、彼はすぐにこちらへと視線を向けると――。
「とにかく、ワシらは神の子……勇者には話を聞いていない、ここに来た理由は?」
「………………」
なんか、良く分からないことになってるな?
その瞳は優し気だ。
しかし、どこか値踏みをされている様でもある。
「……魔王を倒す旅の途中だ」
俺はそれだけを答えた。
アイシャという少女が魔王が居るという事を知っているなら、村長も知っているはずだ。
「ほう……」
老人は頷き、顎の髭を触る。
そして――。
「では、どうやって倒す? 奇跡を使うのか?」
この問いが来た時、トゥスさんは舌打ちをしクリエはその身を震わせた。
勿論、奇跡なんて使う気はない。
だが……ここではそう答えた方が良いのだろう、でも――何度もそう言って良いのか?
クリエは怯えている……奇跡が使えなくなった事を知らないし、そうじゃなくてもそれを言われる事をずっと怖がっていたんだ。
「答える必要はないだろ? 俺達は俺達で決める」
「俺達が……か、つまり貴女達は奇跡を使わないという事か?」
この村長はたったあれだけの言葉で分かるのか? いや、違う。
きっとこれは俺達の真意を確かめて何か企んでいるのかもしれない。
そこまで考えて、俺ははっとした……何を考えてるんだ。俺達はこの人を知らない、だってのに……初めから敵だと決めつけている。
何時から俺はこんなに疑り深くなった? クリエの為とはいえちょっと行き過ぎだ。
「なるほど……」
村長は俺の態度でなにかを察したのか、何度も頷く――それを見て俺は再び眉をひそめ、慌てて表情を戻す。
たった今、気を付けようと考えた所だろう、もし本当に敵だとしたら今ので気がつかれてしまう可能性だってある。
もっと慎重に行くべきだ。
「なるほどってなんだい?」
トゥスさんは俺に呆れた様な視線を向けて来ると村長へと問う。
だが、貴女には俺も同じ視線を向けたいぞ? トゥスさんは疑っているという態度を隠してないからな。
「いえ、実はこの村には夢見の巫女と呼ばれる少女が居る……その者の言う事ではかつての英雄の弟子がこの村に来るとの事だった」
「かつての英雄?」
クリエの師匠の事だろうか? 俺はぼんやりと考えつつ首を傾げた。
「それが、クリエの奇跡と何の関係があるんだ?」
「勇者は奇跡を起こし世界を救う……しかし、それは犠牲の元に成り立っていた……これは夢見の巫女が六年前に実際に見聞きした事だ……」
ん?
「そして、そう遠くない未来……勇者は魔王となり、世界の敵となる」
待て待て待て待て……ちょっと待て! 何を言っている!?
「その夢見の巫女がどんな力を持ってるか分からないが、夢の話だろ!?」
俺が言うのもなんだが、夢は夢、現実は現実だ。
不確かな物に頼っているのは奇跡も夢も変わらないだろうに……。
「しかしな、それまでもずっとこの子はワシ達を夢のお告げで助けてくれた」
「この子? この子って……そこに居るアイシャちゃん……ですか?」
クリエが目を丸くし少女の方へと目を向ける。
すると村長は頷き――。
「ああ、そうだ。この子はこの村を作った当初、アメルーの事もお告げで聞いた。そしてその時に勇者の事もな」
そう言うと村長は――俺へと再び目を向け……。
「その時に気を失ってな。呟いた言葉がある……勇者の傍らに立つ混血の少女は鍵となるとな」
「え?」
本人は知らなかったのだろう……驚いていたが、それを聞き俺達の方が驚いた――。
鍵ってなんだ? それにその少女ってまさかというか俺の事だよな……一体そのお告げとは誰が告げているんだ?




