102 村長宅へ
名もなき村キールへと着いたキューラ達は村長の家へと商人ベルグに案内をされる。
彼に感謝をしつつ別れを告げたのだが、そこにあったのは……。
商人ベルグのお蔭で早々と村長宅に着くことが出来た。
貴族とはあまり仲が宜しくない様だが……勇者をどう思っているかが問題だな。
しかし……。
「なんだか、村長の家……とは思えないな」
俺達から見えるのは他の家と何ら変わらない……いや、寧ろ辺りを見回してみると一番ぼろいかもしれない。
「これが、村長さんの……お家ですか?」
「普通は一番大きな家を建てるもんだが……」
クリエもトゥスさんも俺と同じ意見なんだろうっと言うか、これで納得しろというのが無理だ。
俺達が家の前でどうしたものかと立ち止まっていると中から若い女性が出てきた。
彼女は俺達が居る事に気が付くと駆け寄ってくる。
そして、クリエへと目を向けた彼女は――。
「ゆ、勇者様!? なんでこんな所に!? もしかして、お爺ちゃんに何か御用ですか? それとも宿を探しておられるのですか?」
丁度、歳は俺と同じぐらい、それよりもちょっと上か? 素朴な可愛さがある女性で肩の所で切りそろえられた赤っぽい髪の毛が特徴的だ。
この辺りじゃ見ないな……そんな事を考えつつクリエの方へと向くと――。
「うへへ……」
うわぁ、うちの勇者様は目の前の村娘に釘付けだ。
なんか、ムカッとするが……恐らくそう感じるのはあの笑いと共に何度か襲われたからだろう。
「え、えっと……」
当然、村娘は彼女の笑みを見てどこか不安そうに俺達へと視線を向けてきた。
俺は溜息をつきつつクリエの服を引っ張ると頭に乗っていたライムがクリエの頭へと移動をした。
もしかして、頭を冷やせとでも言ってくれているのだろうか? そうだとしたらありがたい。
なんてことを思っていると、クリエはゆっくりとこちらへと向き直り、慌てた様子で両手を振り始める。
「ち、違いますよ? 私はキューラちゃんが一番ですからね!?」
「なんの話だ!? えっと……」
俺は彼女の言葉に突っ込みを入れた後に村娘の方へと目を向け、ここに来た理由を告げた。
「村長と話がしたいんだ。その……勇者が訪ねてきたって言ってくれれば良い」
「なんのためにですか?」
なんの? なんでそんな事を聞かれないといけないのだろうか? 警備の人にはここに来いと言われただけなんだが……。
「なんのためって、勇者の旅の途中なんだ。その村のお偉いさんには挨拶するのがおかしいかい?」
「……それはそうですけど、この村には勇者様を頼る様な事はありません、皆自分の力で生きています……」
うーん……そうは言われてもな……。
「警備の人? あの人に顔を見せるようにと言われただけだ。挨拶が済んだら宿を探して休むことにする」
「そうですか、それで……魔王が攻めてきたというのは本当なんですか? それでどうするおつもりなんですか?」
魔王という言葉を聞き、俺とトゥスさんは目を合わせた。
個々の村は貴族とは仲が悪いと聞いていた。
だけど、恐らく魔王の情報は既にゾルグの領主から世界中に流されているのかもしれない。……もし、最悪の状況を考えるならクリード王だ……。
「それで、本当だとしたらどうするんだ?」
俺はクリエの前に立ち、村娘を睨む。
魔王の事を知っている上にどうすると聞かれた以上、この村が安全とは限らない……魔王を倒す為に奇跡を使え! そういう連中が居てもおかしくはない。
ましてや目の前に居るこの人が……そして村長がそう言うかもしれないんだからな。
「それは私が聞いているんです」
確かにそうだ。
俺は質問に質問で返したんだからな。
しかも、そのまま同じ事を聞いた訳だ、相手が苛ついても仕方がない。
「魔王をどうするつもりなんですか!!」
「…………」
やれやれ、俺達は村長に会って来いと言われたから此処に来ただけだ。
貴族達と仲が悪い村とは聞いてはいたが、出来るだけ長との接触は避けたかったのだけど、言われたのに会いに行かなかったのでは……もし貴族との仲が悪いというのが嘘で報告されてしまったら後々面倒なことになりそうだと思ったが……。
「面倒だね……」
トゥスさんがポツリと呟いたとおり、結局面倒なことになってしまった。
そして今の言葉が聞こえたのだろう……村長の孫らしき少女はトゥスさんの方を睨み始めた。
にしてもこのまま睨み愛している訳にもいかないだろう。
クリエもずっとおろおろしているし――仕方がないと俺は溜息をつきつつ答える。
「魔王は倒すよ」
どうやってとは言わない、相手がクリエを犠牲にしても良いと思うなら相容れない仲な訳だしな。
「――」
俺の答えに口を開きかける少女、すると後ろの扉が開き……。
「おや、アイシャまだ居たのかい?」
「お、お爺ちゃん」
中からは長い髭が目立つ老人が現れた。
彼は俺達を……いや、クリエを見ると目を細め……次にトゥスさんを見て興味を無さげにし、最後に俺の方を見るとしわくちゃな顔に笑みを浮かべた。
なんで俺の時に笑ったのだろうか? そう疑問を感じた俺だったが……。
「これはこれは可愛らしい客人だ」
彼は俺を見たままそんな事を言う、何故だ? 意味が分からないが彼はクリエではなく俺を客人と呼んだのか?
「お爺ちゃんこの人達は!」
「アイシャ暇なら飲み物を用意してくれないか? この者達はワシに用があるのだろう? 案内はワシがしよう」
「だから話を――」
老人は孫の話を聞かず、俺達に手招きをすると家の中へと戻っていく……突然の事に俺達は呆然としていると彼は振り返り……。
「何をしておられる? さぁ、どうぞ」
その優し気な双眸でしっかりと俺を見つめ口にした。




