100 馬車に揺られて
キューラ達の目の前に現れた男。
彼は商人だと言い、どうやら馬車が魔物に襲われたらしい。
烏の魔物を撃退したキューラ達はそのお礼に馬車へと乗せてもらうのだった。
がたがたと馬車に揺られ、俺達は進む。
「なぁこの先にある村は何て名前なんだ?」
ふと俺は気になった事を商人ベルグへと尋ねた。
すると彼は巧みに馬を操りながら答えてくれる。
「名もなき村とよく呼ばれてはいますが、本来はキールと言う村ですよ従者様……最近領主に追い出された者達が作った村でその所為で支援を受けられなかった村ですよ」
支援を受けられなかった? つまり、常駐している騎士や貴族が居ないということか? ってそれよりも……。
「何でそんな所に商売に行くんだい? 他で売った方が良いだろ?」
俺が浮かべた疑問をトゥスさんも思ったのだろう……ベルグへと問いを向ける。
すると彼は大笑いをし――。
「普通は行きませんよ、ですがその村は武器や防具に必要な素材アメルーが多いんです。それと等価交換するんですよ」
「それなら、領主さんが支援を送るって事も……」
確かにそう思う。
武器等に使う素材が集まるならなおさらだ。
この世界には魔物も居るし、当然盗賊等の悪人だって居る。
決して安全じゃないからこそ、素材は余るほどあっても困らない訳だが――。
「それが、慌てて何度か褒美をぶら下げて交渉をしたらしいんですが、今度は貴族達が追い出されたとかで……武力で奪おうにも貴重かつ繊細なアメルーがある為、土地を傷つけられない、なので手が出せないという状況になっているみたいですね」
「ああ……なるほど」
つまり、その素材は相当貴重って事か?
土地が傷つけられないって事はかなりデリケートな素材なのかもしれないって――。
「そんな素材……誰が使えるんだ?」
そんだけ貴重で壊れやすい物だとしたら、誰も使えないんじゃないか?
それこそ衝撃や熱に弱いダイヤを武器にするような物だ……ゲームとかではよくあるけど、普通はそんな事できっこない。
まぁ、精霊石で強化の魔法を施せばあるいは……とは思うが、この世界でもダイヤは高価な品物だ。
コストを考えると現実的じゃない。
「ははははは! 私達には扱えませんよ」
「……は?」
使えない? じゃぁなんでそんな素材と等価交換なんか?
「ドワーフか……」
俺が疑問を浮かべているとトゥスさんがそう呟いた。
ドワーフ? ドワーフと言えばこの世界に居る種族で魔法が使えない代わりに錬金術や鍛冶に特化した種族だ。
「ドワーフの錬金術でその素材を使って別の素材を作り出すのですか?」
「ええ、その通りです勇者様、実際に重宝されるのは村で交換してもらう素材を媒体にして出来る金属の方ですが、ドワーフには関係ありませんし他の素材からその金属が作れない為、高く売れるんです」
なるほど、それならこの人がこれからその村に行くのも納得がいく……。
「さて、村に着くまではもう少しあります、ゆっくり休んでいてください」
「ああ、そうするよ」
俺達は彼の言葉に甘えることにし、馬車の中で休息を得る。
それから暫く、馬車で揺られているとどうやら俺は眠ってしまった様だ。
目を覚ますといつの間にかクリエの顔が近くにあり――。
「――っ!?」
俺は慌てて跳ね起きた。
「って、あれ?」
しかし、クリエは動かず。
彼女もまた眠ってしまっていたみたいだ。
「起きたかい?」
「トゥスさん……」
近くから聞こえた声に俺は視線を向けると其処にはエルフの女性が座り込んでいた。
流石に売り物がある馬車の中では煙草は吸う気が無いらしいが……。
「酒を飲んでるのか?」
「一杯だけだよ」
空になったコップを見つけ俺は呆れた様な声を出す。
いや、この商人は貴族ではないらしいが油断はどうかと思うぞ? そう思っていると――。
「一応見張りなんだ、酔うまでは飲まないさ」
だから、酒を一滴でも飲んだらそれは酔っぱらいなのでは? という俺の疑問は置いておいた方が良いのだろうか?
流石に厳しすぎるのか? そんな事を頭でぐるぐると試行していると、まるで俺の頭を冷やすかのようにライムが乗りかかってきた。
「そっか、お前が居てくれたなライム」
俺がそう言うとライムはまるで気を抜いたかのだろうか? 頭の上にライムが広がっていく感覚がした。
いや、だろうか? ではなく気を抜いたんだなこれ……。
「お疲れ様、ありがとうな」
ねぎらいの言葉と共に鞄の中から林檎を取り出してやると嬉しそうに林檎へと飛びつくライム。
うん、可愛いなライムは……。
「ライムとはスライムの事ですか? 流石は従者様まさかとは思いましたが――手懐けておいででしたか」
「あ、ああ」
こちらを向かず問う商人ベルグには驚いたが、ライムの存在は最初から気がついてはいただろう。
俺は今さっきの会話を聞かれてないだろうか? そう思いつつ商人の方へと目を向けると――その奥には小さな村が見えてきた。
「着きましたよ、皆様!」
馬車は速度を緩めることなく、村へと近づき入っていく……。
しかし、大きな街ではないとは言っても検問はある。
だが、この商人は何度も来ていたのだろう手形のような物を見せ――。
「お客人が来ています、その方々は私を助けてくれました。勿論貴族などではありません」
っと彼が一言を言うと、門兵らしき男は頷き――。
「そうですか、ですが一応馬車の中は見せてもらいます」
「ええ、どうぞ……魔物に襲われてしまっていつもよりは少ないですが」
ベルグの返答の後、馬車の中を覗き込んだその門兵は俺達を目にするなり、目を丸め――。
「か、かか……!? も、問題なしです! ただ中のお方達は村長の元へと顔をお出しください!」
俺達へとそう告げた。
か? とは何の事だろうか? 勇者が居る事に驚いたのなら「ゆ」と言う言葉が出てくると思うんだけどな……疑問に思いつつも俺達は無事キール……名もなき村へと辿り着くことが出来た。




