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97 野営

 ゾルグから出発し、キューラ達の旅は順調に進む。

 しかし、日が傾き始めた事に気が付いたキューラはその場で野営をすることを提案する。

 まだ日があるうちに準備を進めようと考えたのだ。

 あれからすぐに野営の準備を始めた俺達。


「よしっと……」


 と言っても、枯れ木を集めたりテントを張る位だ。

 食料は非常食である干し肉を含め十分買ってきているし、迷わない限り気にしないで問題はない。

 それにしても――。


「うへへへへ」


 笑みを浮かべつつ料理を始めたクリエだが、やっぱりうへへ笑いか……いや、そこは分かっていた。

 しかし、それよりも気になったのは楽しそうに料理をする姿だ。

 彼女はどうやら料理が好きらしい。

 でも、以前の時は此処まで笑みを浮かべていただろうか? 怒ったりはしてなかったが、ここまで楽しそうではなかったはずだ。


「――? どうしたんですか?」


 俺がぼーっと見ている事に気が付いたクリエは笑みのまま尋ねてきた。


「い、いや……」


 何故かしどろもどろになってしまった俺を見て吹き出すトゥスさん。

 クリエはというと何かに気が付いた様子ではっとすると――。


「もうすぐ出来上がりますからちょっと待っててくださいね?」

「お……おう」


 どうやら俺が空腹を訴えていると思われた様だ。

 ま、まぁ別に良いんだが――なんか腑に落ちないな。

 だが、クリエの料理は美味しいから、楽しみなのは間違いない。


「楽しみにして待ってるよ」


 だから、そう伝えたのだが、クリエは一瞬目を丸めたかと思うとすぐにその顔を歪め――。


「はい! うへへへ」


 良く分からないが、喜んでくれたみたいだ。






 それから暫くして出来上がった料理は肉や野菜が入ったスープ。

 そしてパン、まだ食材がある為見栄えは悪くないっと言ってもクリエの作る料理だ。

 見栄えが良かろうと悪かろうと味は格別だろう。


「いただきます」


 俺は美味しそうなスープへと木のスプーンにすくうと口へと運ぶ。


「――っ!?」


 だが、あまりの熱さに悶絶してしまう、幸い手に持っていたスープはこぼさないで済んだ。

 せっかく作ってもらった物を地面へとぶちまけてしまうのは勿体ないじゃ済まないからな。


「あっつ……」

「そりゃ、さっきまで火にかけてたんだからね」


 それはそうだけど、そんな呆れた目で見ないでくれトゥスさん……。


「キュ、キューラちゃん!? 大丈夫ですか? 焦って食べるからですよ!?」

「わ、分かってる今度はゆっくり食べるよ」


 そう言ったものの火傷の所為で味が分かるか心配だ。

 そんな事をぼんやりと考えている……。


「火傷大丈夫ですか? 舐めて治しましょうか?」


 一瞬何を言っているのか分からなかった俺は思わず固まってしまった。

 しかし、すぐにはっとすると――。


「口の中を火傷して普通舐めてもらわないからな?」


 と言うとクリエは視線をずらす。


「………………」


 そして、不満そうな顔を浮かべた。

 わざとか、わざと言ったのか……というかお願いしたら困るのはクリエじゃないか?


「好機を逃しました……」


 チャンスって何のチャンスだよ!? という突込みはなんだか怖いので入れないことにしつつ。

 俺はスープを口へと運ぶ、今度はしっかりと冷ましてからだ。

 すると、先程までそっぽを向いていた勇者様は此方へと向き、じっと俺の顔を見つめ始めた。

 そう見られると食べにくいが……何を聞きたいのかは何となく分かった。


「美味しいよ、前も食べたけどクリエの料理は凄く美味しいな!」


 火傷はしていたが幸い味はなんとか分かったし嘘ではない。

 塩加減は丁度良く、野菜も肉もほどよい硬さで噛みほぐすとしっかりとスープの味が染み込んでいた。

 これをまずいというのはただの味音痴ぐらいだ。


「うへへへ……」


 俺の答えに満足そうに笑みを浮かべたクリエ。

 彼女の笑みを見て少し俺は顔が熱くなるのを感じた。

 そりゃそうだろ、前の世界ではこんな事なんて無かった。

 料理を作ってくれる人と言ったら子供に関心が無い母ぐらいで作られるものも特別美味い訳でもない、他に女の子が作ってくれたなんて事は無かったわけだしな。


「いちゃつくのは結構だけどね、スライムが腹をすかしてるようだよ」

「そ、そうだった。ライムの飯だ!」


 そう言えばライムにまだ食事を用意してなかった。

 俺が慌てて器を置き、荷物へと手を伸ばすと横から林檎を差し出された。


「あの、用意しておきましたよ?」

「あ、ああ……ありがとう」


 クリエは此処までしてくれてたのか、なんだか悪い気がしてきたと思いつつも感謝の言葉を伝え、林檎を受け取るとそれをライムへと渡す。

 すると――。


「うわぁ!?」


 食事が遅かったことを怒っていたのだろうか? ライムは俺の腕を包む様に飛びつくと林檎を奪う様に取り、クリエの膝の上へと向かって行ってしまった。


「ライムちゃん……?」

「ラ、ライム?」


 俺が名前を呼ぶと顔もないのにプイっと顔を逸らされた。

 完全に拗ねてるな……コレ……。


「早く餌をあげないからだろ」

「それは悪かったって……」


 トゥスさんの言う通りだが、まさか拗ねるとは……スライムだけどライムは本当に表情豊かだな……。


「あはは……なんだか私が懐かれたみたいで面白いですね?」


 膝の上に乗られてしまったクリエはまんざらでもない様子で笑みを浮かべ続けていた。

 なんだか、俺はショックだよ……今度からちゃんとご飯を上げるようにしないとだな。

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