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96 ゾルグからの出発

 魔王の存在がゾルグの領主にばれてしまった。

 その事でキューラ達は再び領主の元へと向かう……そこではこれからどうするのかと話をされ……。

 キューラは不本意ながらもクリエに奇跡を使うと言ってもらう。

 それが嘘か真か判断が出来たのか出来ないのか、その場凌ぎにはなったようだ…‥‥。

 領主の館を後にした俺達はその足で足りないものを買い足しつつ、街の外へと向かった。


「出来ればゆっくりと酒をひっかけたかったんだけどね」


 トゥスさんは買ったばかりの酒を丁寧にしまい込みながらそんな事をぼやく。

 俺も酒を飲むようになったらそう言うかもしれないけど……その気持ちはよく分からないな。

 そんな事を考えながら門をくぐると――。


「勇者様! 行ってらっしゃいませ、この世界を救ってください!」


 どこかわざとらしい声でそんな言葉が聞こえ、クリエの顔を見ると陰りが見えた。

 俺は彼女の袖を引っ張り、彼女がこちらを向いた時に口パクで「大丈夫だ」と伝える。

 するとクリエは途端に笑みを浮かべ――。


「任せてください!」


 と振り向き声に出したのだった。

 そんな彼女を見て俺は頭の上に乗るライムにだけ聞えるかのような小声で――。


「ひどい扱いだ……」


 そんなこと呟くと、ライムが何かを訴えるかのように頭の上でぴょんぴょんと跳ね始めた。


「分ってる、俺が俺達が付いてるんだ」


 俺は再びライムだけ聞える声量で呟く――。


『………………』


 ライムはその言葉に満足したのか、跳ねるのを止め落ち着きを取り戻した。









 門の外へと出た俺達は少し立ち止まる。


「で、次は何処に行くんだ?」


 あんな事があったからろくに決める事無く出てきてしまった訳だが、目的地はあるのだろうか?

 すると、トゥスさんは地図を取り出し――。


「酒ときたら賭けか」

「待て、なんでそうなる」


 何を考えてるんだこの人は……呆れ気味で俺が突っ込みを入れると彼女はニヤリと笑い。


「冗談だ、次に近いのはこのあたりにある村だね、地図に名前が無いって事は最近できたのかもしれない」


 そう言ってトントンと地図の上を指で叩いた。


「では、その村でキューラちゃんと式を上げましょう!」

「そうだな……って、うん?」


 今、クリエは何て言った?


「ですから式を上げましょう」

「何の式だ?」


 従者の重要な役割だろうか? 俺はまだ知らない事が沢山あるし、もしかしたら何かあるのかもしれない。

 真面目に考える俺だったが――。


「結婚式です!」

「なんでそうなった!?」


 なぜ結婚なんて話になる!? 困惑する俺にクリエは驚いたような表情をし――。


「え?」

「え? じゃない! え? じゃ! なんで結婚なんて話になったんだ……」


 というか、突然にもほどがあるだろ。

 俺が大きなため息をつくとクリエは残念そうな表情に変えた。


「だってさっき、街を出る前に結婚しようって……」


 街を出る前? そんな事を言った覚えは勿論ない、身に覚えのあるのは大丈夫だと伝えた口パクだけだ。

 とすると、クリエの言う結婚もそこから来てるのか?


「言ってない、あれは大丈夫だって言ったんだ」

「そ、そんなぁ……」


 がっくりと項垂れた彼女を見て俺は溜息をつきつつトゥスさんの持つ地図へと今一度目を向けた。

 ゾルグから見ると、一日ではつきそうにない距離だ。

 どのぐらいかかるのだろうか? そう聞こうとした時――。


「………………のに」


 クリエの声が聞こえた気がし、俺はそちらへと目を向ける。

 すると笑みを浮かべていた彼女は慌てた様に項垂れ――。


「何かあったのか?」

「何でもないです!」


 何故か必死な彼女に俺は首を傾げることになった。

 落ち込んだかと思ったら、笑っていたし、どうしたのだろうか?

 何かあったならすぐに言ってほしいものだが、今の必死な様子からして聞いても答えてくれるか……。


「あのな、すぐに言ってもらわないと対処できないかもしれないんだ。俺は――俺達はクリエを守る為に居る。はっきり言ってほしい」


 俺がそう言うとクリエはびくりと身体を一回大きく震わせた後、プルプルと小刻みに震えは始めた。

 やはり何かあったのでは? と俺は思ったのだが、トゥスさんもどうやらプルプルと震えている様だ。


「ど、どうしたんだよ?」


 俺は困惑し、思わず二人とも変だぞ? と言いそうになったのだが、クリエはばっと顔を上げると――。


「ほ、本当に何でもないです! さ、行きましょう!」

「お、おお……」


 トゥスさんが持っていた地図へと目を向け、すたすたと歩いて行ってしまう。


「って待てって! クリエ!?」


 当然俺は慌てて追いかけると――。


「ほんと、面白いお嬢ちゃん達だね」


 面白いって……一体なんのことだ?

 気になるが、今はそれよりもクリエだ。

 そう心配していたが、クリエは此方へと顔を向け……。


「さ、早く行きましょう!」


 満面の笑みを浮かべていた。

 落ち込んだり笑ったり、ころころと表情が変わる彼女は本来は此方が素なのだろうか?

 気になった所だが、それよりも――。


「前見て走らないと転ぶぞ!」


 俺はクリエにはやっぱり笑顔が似合うなっとぼんやりと考えたのだった。

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