第三十六話 帰還
アルフレッド、違うんだ、私はこの子を傷つけたくない、だから置いていきたいんだ、だから聞かないでくれ、いや、この子の意思を確認したことがあったか、この子がもし危険だとしても来ることを選べばそれを止めることはできない、だけど来たがっていたとして私はそんな子を置いていくことができるのか。
「フォルテ、少し危険だが私たちの世界についてくる気はないか。」
「ヘルの世界、この世界に住んでるんじゃないの。」
少し戸惑っているようだ、まあ無理もないか、まだ五歳ぐらいだろう。
「何も今決めろとは言わない、さっきの人が帰ってくるまでに決めてくれればそれでいい。」
「ううん、今決める、いや、もう決まったよ、私はヘルについていくよ、危険だったって良い、ヘルと一緒にいたい。」
「私なんかと一緒にいたいのか。」
「うん。」
小さいころから恐れられていた私を分かってくれる人がいるなんてな、まあ魔女を封印したことによって少し印象が変わりつつあるけど、そのおかげでベルゼブブとも出会えた、ゲエルは私が小さいころからよくしてくれていたな、まああの爺さんは家族みたいなものだからな、アルフレッドがこっちに向かって走ってくる。
「ヘルさん、聞いてきましたよ。」
「そうか。」
「どうぞ、ネデットです。」
そう言ってアルフレッドがネデットを渡してきたので私は受け取った。
「そしてその子のことなんですが連れて帰ってもいいみたいです。」
「そうか。」
「手を握ったり体に触れた状態でそのマジックアイテムを使えば一緒に行けます。」
「わかった。」
「それでは私はこれで、何かあればまた来てくださいね。」
「ああ。」
連れて帰ってもいいか、この子は私と一緒にいたいみたいだしいいか。
「ヘル、行こう。」
そう言ってフォルテが手を差し出してきた。
「それじゃあ帰ろうか。」
私はフォルテの手を握ってマジックアイテムをポケットから取り出し上へ投げた。
ここはどこだ、ふわふわだ。
「ヘル、起きて。」
この声はフォルテか。
私は目を開けた、小さい時によく見た天井が見える。
「ヘル、起きてくれたか、良かった、このまま起きてくれないんじゃないかと思っていたよ。」
「ベルゼブブ心配してくれてありがとう。」
「ところでこの子とその剣は。」
「その子はフォルテ、裏世界から連れて帰ってきた、それとこの剣は…」
私は起き上がり剣を触りながらそう言った、裏世界での思い出が頭の中に浮かび上がる。
「どうしたんだヘル。」
「この剣はネデットだよ。」
「ネデット、所有者が一番扱うのが得意な姿に代わる武器、そして魔女を殺すことのできる剣か。」
「これがネデットか、わしも見るのは初めてじゃ、一体どこで手に入れたんじゃ。」
「それは恥ずかしいんだけど、いや、みんな知ってるか、私が気絶してる間に裏世界に呼び出されてそこで手に入れたものなんだ。」
「裏世界か、また何でそんなところに。」
「そっちの世界での私を止めるために、そこで新しい技も覚えてきたんだよ。」
「そうか、それは良かった、こちらも話がある。」
ベルゼブブがそう言って立ち上がる。
「ヘル、外に出よう。」
ベルゼブブがそう言って私の手を握り歩き出す。
「ヘル、私も行く。」
そう言ってフォルテがついてくる。
「見ればわかるかもしれないが…」
私が殺した魔女の指先は血を出して倒れている、だけど魔女の指先に斬られたはずのウロボロスの死体がない。
「悪い知らせなんだがウロボロスは生きていた、逃げられたんだ。」
「別にいいよ、今こうしてみんな生きてるわけだから。」
ベルゼブブが笑った。
「そうだな、みんなちゃんと生きてるよな。」
誰も死んでいない、これでいいんだ、ここから魔女を倒すためにちょっとずつ進んでいけばそれでいい。
「そう言えば魔女教徒達の拠点は見つかったのか。」
「ああ、あそこに転がっているあいつが拠点の場所の書いたメモを持っていたよ。」
そう言ってベルゼブブはポケットから紙を出して広げてこちらへ向けてきた。
「この紙にある赤い丸が奴らの拠点だろう、私のしもべを今向かわせている。」
「しもべって何。」
フォルテがベルゼブブにそう質問した。
「ああそうか、君は見たことがなかったね。」
ベルゼブブはそう言った。
「これが僕のしもべだよ。」
そう言ってベルゼブブはフォルテに手を見せた、その手のひらに乗っているハエがしもべだ。




