第九十四話 鎧
魔女を倒したのにまだ部屋の中にいるブリナキア達、そして外からブリナキア達の姿をのぞいている一人の男、その男は鎧を身に着けていた。そう、その男とはブリナキアが龍を倒した後扉の隙間から見た男なのである。
「パトリックさんと約束をしたのですがどうしたらいいのでしょうか…」
ウルナがそう言うとブリナキアがウルナをじっと見つめる。
ウルナは嘘は言っていないみたいだ、でもどうしてパトリックさんと約束をしたんだろう、いや、そもそも私たちは約束の内容を知らない、まずは約束の内容を聞くことが先か。
ブリナキアはウルナを見つめて口を開く。
「その約束の内容を教えてください。」
ブリナキアがそう言うとウルナは鞄から網を取り出す、そう、パトリックから手渡された網だ。
「この網がその約束を果たすためのものです。」
ウルナはそう言ってブリナキアやアラン達に網を見せる。
「この網で何かをするのか。」
アランがウルナの方を向いてそう言うとウルナはアランのほうを向いて頷く。
「はい、これで捕獲依頼が出てる魔物を捕まえます。」
ウルナがアランにそう言うとアランはあきれた顔をしている、多分だが捕獲依頼の出てる魔物の居場所を知らない限り難しい事なのだろう、そもそも捕獲依頼の出てる魔物と出ていない魔物を見分けるところからだ、何故なら野生でも魔物はいる、国から出ている捕獲依頼と個人で出している捕獲依頼、これで報酬が大きく変わったりする、国からなら指定の魔物なら何でもいい、だが個人からの場合は違う、ちゃんと個人で買われていることを証明する赤い色のリングがついているかを確認しなければならない。つまり捕獲依頼が出ている魔物を探すのは難しいということだ、だからアランはあきれた顔をしたというわけだ。
「まあ、やる気はあるんですよね、だったら僕は手伝います。」
ビドンメがウルナを見てそういう。
「だったら勝手にしろ、俺は知らんぞ。」
アランはそう言って開いている扉のほうへと歩いていきそのまま部屋から出ていく。
そもそもウルナはどうしてパトリックとそんなめんどくさい約束をしたんだ、いや、今はこの塔から出る方がいいか、そう言えば部屋の入口のところに鎧なんて置いてあったか、いや、でも急に鎧が現れたと言ったことは聞いたことがないな、気にしなくていいか。俺はそう考えそのまま階段を下りていった、するとアウグストスと戦った部屋へと戻ってきた。
アウグストスは椅子に座って剣を持っている、そして剣を持っている反対の手には布を持っている、誰も来なくて暇だから剣を拭いているのだろう。そしてアウグストスの前には机がありその上にはサックに入った剣が何本かおいてある、そして床にはサックに入っていない剣が何本かおいてある、こちらの剣はまだ拭いていないということなのだろうか。
「おう、お前か。」
アウグストスはそう言って部屋に入ってきたアランを見つめる。
「その様子だと最後の戦いには参加していないようだな。」
アウグストスはそう言いながら剣を磨いている。
「どうだ、お前も拭いていくか。」
アランはアウグストスにそう言われアウグストスのほうへと歩いていきアウグストスの横の椅子に剣を抜いてから座る。
「お前なら分かっていると思うがブリナキアは本気を出していないぞ。」
アウグストスはアランのほうを向いてそう言う。
「本気を出していないというと…」
アランがそう言うとアウグストスは机の上に置いているまだ使っていない綺麗な白い布をアランに手渡す、するとアランはその布を受け取り剣を拭く。
「まだ力を隠しているということだ。」
アウグストスはそう言って手に持っていた布を置きまだ剣を入れていないサックを持ちそこに剣を入れる、そして机の上にその剣を置き床に置いている剣を手に取る、そして剣を見た後布を手に取り再び拭き始める。
「どのぐらい力を隠しているんですか。」
アランはアウグストスのほうを見てそういう。
「それは分からん…だが本当はもっと強いというのは事実だ。」
アウグストスはアランのほうを向いてそう言う、するとアランは剣を拭き終わったのかアウグストスに布を渡して立ち上がり剣をサックに入れる。
「覚えておきます。」
そう言ってアランはアウグストスのほうを見た後部屋から出ていった。
そのころのブリナキア達は。
「アランは一人で帰るみたいだからクロード、乗せてあげてくれるかな。」
ブリナキアはそう言って肩に乗っているクロードを見る、するとクロードは頷いた後飛んで部屋から出ていく。
「ウルナ、捕獲依頼の魔物を捕まえながら帰るっていうことでいいのかな。」
ブリナキアはそう言ってウルナを見つめる。
「はい、とりあえずはそんな感じでいきます。」
ウルナはそう言ってブリナキアのほうへと歩いていき網を何枚かブリナキアのほうへと向ける。
「これは…」
「一応自分で見つけた時に捕まえられるように分けておこうと思って。」
ウルナがそう言うとブリナキアはウルナから網を受け取る。
「分かりました。」
ブリナキアはそう言うとウルナはブリナキアを見てニコッと笑いビドンメのほうへと歩いていきビドンメに網を渡す。するとビドンメはウルナが持っている網を受け取る。
「それじゃあ網の使い方を説明します。」
ウルナはそう言いながらブリナキアとビドンメの間に立つ。
「まず網を一枚だけ持ってそれを広げてください。」
ウルナはそう言いながら網を一回床において一番上の網だけを持って広げる、それを見ながらビドンメとブリナキアも持っている網をすべて床に置いて一番上の網だけを取りその網を広げる。そしてウルナは二人とも言った通りにできていることを確認する。
「そして網から一本だけ出ている縄をつかみます。」
ウルナはそう言いながら網を回転させ網から一本だけ出ている縄をつかむ、するとブリナキアは網を置いて網から一本だけ出ている縄をつかむ、ビドンメはウルナとしたのと同じように網を回転させ網から出ている縄をつかむ。するとウルナは自分の後ろへと向かって網を投げる。
「網を投げたら縄の一番端を強く握ってください。」
ウルナがそう言いながら縄の一番端を持って握ると網は急に丸く閉じた。それを見てブリナキアとビドンメも同じように縄の一番端の部分を持って握ると網は丸くなった。
「そしてそのまま縄を自分のほうへと引っ張ります。」
ウルナはそう言った後縄を自分のほうへと引っ張る。それを見てブリナキアとビドンメも縄を持って引っ張る、すると丸くなった網はそれぞれのほうへと移動する。
「そして今は網を元に戻したいので縄の一番端を斬ります。」
ウルナはそう言いながら黒龍剣を抜き縄の一番端に向かって振り下ろす、すると縄が切れた瞬間丸くなっていた網がもとに戻る。それを見たビドンメは剣を抜き縄の端を斬る、すると丸くなっていた網は元に戻る、そしてブリナキアは氷華刀を抜き縄の端に向かって刀を振り下ろす、すると縄の端が切れた瞬間丸くなっていた網は元に戻る。
「そして最後にこの網をたたみます。」
ウルナがそう言って網の端同士を持って半分に折り地面に置く、そして再びそれの端を持って半分に折る、すると網がもとの大きさになる、そしてウルナはその網を床に置いている網の上に重ねる。それを見てビドンメとブリナキアもウルナがしたのと同じように網を折って行き元の大きさになったところでビドンメとブリナキアは床に置いている網に今持っている網を重ねる。
「それじゃあ網を鞄に入れて下へ降りましょうか。」
ウルナはそう言いながら床に置いている網を持ち自分のカバンに網を入れる。するとビドンメもウルナと同じように床に置いている網を持ち鞄に入れる。
「あ…」
ブリナキアは床に置いていた網を持ってそう言う。
「どうしたんですか。」
ウルナはそうブリナキアのほうを向いて言う。
「アランさんは先に行ったけど塔の中に入った時から時間は進まないんじゃ…」
ブリナキアはそうウルナの方を向いて言う。
「確かにそうですね、まさか魔女教徒が戦力を分散させようとアランさんを乗っ取ったんじゃ…」
「変な勘違いをしてくれているようだね…」
そう部屋の扉の方から声が聞こえてくる、そしてブリナキアが声が聞こえたほうを見る、するとそこには開いた扉に持たれている鎧があった、そしてその鎧は突然ガシャンと音を立ててバラバラになる。
「後ろ‼」
ウルナがそう言うとブリナキアは背中の鎌を取り後ろを向く、すると黒い服を着た男がブリナキアのほうに向かって剣を振っている、だがブリナキアはその攻撃を剣で防ぐ。
「ほう私の攻撃を防ぎますか。」
男はそう言ってブリナキアから距離を取る。
男に向かって突然ウルナが走り出す、すると男はウルナの方に手を伸ばす、するとウルナの動きは突然止まる。
「さよならだ…」
男がそう言うとウルナは突然上に上がり次の瞬間床にたたきつけられる、そして床に亀裂が走り床が抜ける。そして男は不通に着地する、ブリナキアは鎌を壁に当てゆっくりと降りていく、そしてビドンメは立ったまま落下していく、そしてウルナだが床にぶつけられたたいせいのまま落ちる。
「痛った‼」
ビドンメはそう言って男を睨みつける。
「お、お前は…何でおまえがここにいる‼」
ビドンメはそう男を見て言う、すると男は突然笑いだす。
「いやー面白いですねぇ、どうしてここにいるかって…それはですねぇ…」
男がそう言っていると後ろから氷の塊が男に向かって飛んでいく、すると男はその氷の塊を手でつかみそのまま砕く。
「黙って聞いてろ雑魚が…」
そう言って男はブリナキアを睨みつける。
この人は多分私たちを一瞬で殺せる、だとしたら今私たちができることと言えば…
その時大きな声が部屋に響き渡る。
「コラーー‼」
アウグストスの声だ。
「貴様ら一体何をしている…」
男はそう言ってブリナキア達を見る、そして男の姿を見つけたのかアウグストスは驚いている。
「いやー、貴方に会えるとは、ここはいいところですねぇ‼」
男がそう言うとアウグストスのおなかに何本か剣が突き刺さりアウグストスは血を流してそのまま床に倒れる。
「でも弱いですねぇ…」
男はそう言って倒れているアウグストスに近づいていきアウグストスに刺さっている剣を一本握りその剣をゆっくりと押し込む。
「どうですかぁ…」
男がそう言った時ブリナキアは男に近づいていき男に向かって鎌を振る、だが男はアウグストスから今握っている剣を抜きその剣で鎌を防ぐ。
「手を出すな、止まっていろ。」
男がそう言ってブリナキアの持っている鎌からから剣を離す、だがブリナキアは全く動かない。それを見てウルナはゆっくりと立ち上がりブリナキアに向かって歩いていく。
そしてウルナはブリナキアの肩を両手で持ちブリナキアを揺らす。ウルナがどれだけブリナキアを揺らしてもブリナキアは自ら動こうとしない。
「動いてよブリナキア‼」
ウルナがそう言った時だ、ブリナキアは鎌を床に落とす。
「ありがとうウルナ、もう少しで操られるところでした。」
ブリナキアがそう言うとウルナはブリナキアから離れていく。そしてブリナキアは十分ウルナが離れたことを確認するかのように辺りを見回し鞘から氷華刀を抜く。
「まずは貴様から殺させてもらおうか‼」
男がそう言いウルナの方へと走っていく、するとウルナやブリナキアの姿が突然男の前から消える。
そして暗い空間にいるブリナキア達は四角い穴から男の様子を見ている。
「でもよくブラックミストで私たちの姿を作り出しましたね。」
ウルナがブリナキアのほうを向いてそう言うとブリナキアは男のいるほうを指さす。
「あの人は多分魔女教です、でも今は戦わず下へ行きましょう。」
「ブリナキアさん、下に行ったところで結局一緒に出るんじゃ…」
ビドンメがそう言うとブリナキアはなぜかうなっている。
「分かりました、途中でアランさんとクロードと合流してそのままブラックミストの中に入り塔を出るというのはどうでしょうか。」
ブリナキアがそう提案するとウルナとビドンメはブリナキアのことを見て頷く。
「それじゃあ移動しましょうか。」
そう言って座っているブリナキアが立ち上がる、するとビドンメとウルナも立ち上がる。するとブリナキアはウルナ達が立ち上がったかを確認して歩き出す、するとそこにはまた外が見えている四角い穴が開いていた。
果たしてブリナキア達は無事に魔女を助け出すことができるのだろうか…




