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 三駅目で降りる。体はくたくただった。時刻は、あと十五分で四時になろうとしている。昼前からざっと四時間、人を追い掛け、人を殴り人に殴られ、人に追われた。過密スケジュールだ。誰かに見直しを求めたい。

 下らない事を考えながら、自販機で一番高い不健康そうなドリンクのロング缶を買い、駅から少し離れた公園のベンチに座る。今時珍しく、端に穴がいくつか空いた灰皿が設けてある。


 気を抜くと意識が朦朧とする。短時間でも、体を休めなくてはならない。

 プルタブを引き、エナジードリンクを呷る。懐を探り、ライターとハイライトを取り出した。少し迷ったが、吸う事にした。煙草を吸う事で癒されるのは喫煙習慣に染まった者のみだ。ナユタに来る前に多くの悪い習慣を断ち切ったが、これだけはずるずると引き摺っている。


 一口吸った途端に眩暈がした。ああ、そうだ。そういえばだいぶ血を流したんだった。思い出した途端に腕の痛みが戻ってきたようだ。ベンチからずり落ちる。ドリンク缶が地面に中身を吐き出す。右手に挟んだ煙草を何とか灰皿に捻じ込んで、叉反は立ち上がる。

 咄嗟の判断だったが、三駅目で降りたのは考えなしにじゃない。公園の近く、小さく今にも崩れそうな建物。木の看板。特徴を頭の中に巡らせる。


 あった。一軒家とも廃屋ともつかない建物に挟まれた小さな家。(かみ)(よし)診療所。

 公園の中をふらふらと歩き、何とか扉までたどり着く。人がいなくて良かった。今不審者として通報されるのは御免だ。

 インターホンを押す。電子的な鐘の音が響く。反応はない。もう一度押す。やはり反応はない。視界が霞んでくる。意識がおぼつかない。


 コン、と頭に軽い物がぶつかった。コンクリートで一度跳ねて、からからと転がる。

「ポイ捨てするんじゃない、この馬鹿もんが」

 聞き覚えのある嗄がれた声が、後ろから聞こえた。小柄の医師、神義がそこに立っていた。

 気が抜けそうになるのを何とか堪えて、叉反は小さく笑った。


 神義はナユタに来る前、まだ違う街で見習いをしていた頃からの顔見知りだった。ナユタからほんの少し離れたこの診療所で、表の客も裏の客も相手にしながら、ナユタが造られていくのをずっと見てきた男だ。神義、という名前以外詳しい事は何も知らない。

 何も言わずとも心得たように、神義は叉反を連れて診療所へ入ると、傷の具合を診始めた。


「全くふざけてやがるよ、フュージョナーってのは」

 治療を終えた神義が開口一番言った言葉が、これだった。

「どういう意味です」

 シャツを着ながら叉反は問い返した。汗ばんでいるが替えはない。一度車まで戻らないと。

 神義は呆れたようにため息をつくと、煙草を取り出して口に銜えた。


「どうもこうもない。傷の治りが早すぎるんだ。腕なんか相当深く抉られただろうに、もう塞がり始めてやがる。これじゃ、医者なんかいらねえよ」

 言われて、叉反は自分の頬に触れた。さっき切り裂かれた頬も、血はおろか傷跡さえほとんどあるように感じない。


「裏の世界じゃよく聞く話だがな。特に荒事絡みのフュージョナーは自己治癒力が恐ろしく高いんだそうだ。一種の回帰症って話らしいが。危険に晒されるせいか、体が少しでも早く回復しようとするんだろう。いずれにせよ普通の人間じゃ考えられん」

「人間ですよ、俺達は」


 反論したものの、叉反の胸に怒りはなかった。まだ鈍痛を残すものの、傷が塞がりつつある右腕が少し気になる。

 回帰症、という言葉にレインコートを思い出した。回帰症は、身体が持って生まれた動物や植物へと変化していく病だ。フュージョナーの発生と同じく原因は不明で、全てのフュージョナーが発症する可能性を持っている。


「人間じゃなくちゃいけないって事はねえ。どういう理由であろうと、他人とは違う体に知性を持って生まれてきちまったんだ。そこからどうするかを考えなくちゃいけない」

 神義が輪っかにした煙を吐き出す。ハイライトを取り出して火をつけると、神義が机の上で灰皿を滑らせて寄越した。


「で、そんなザマになってるって事は仕事中か? 探偵さんよ」

「ええ。ちょっと状況が複雑になっていて……」

 紫煙を吐き出しながら、頭の中を纏める。

 駅で叉反を追ってきた連中。刑事だ。駅中で堂々と発砲し、周りを一切顧みず人を追い回す。ナユタ市警察の警官達の顔は大体頭に入っているが、彼らは見覚えがなかった。それに、レインコートを撃ったライフル。麻酔銃に改造してあったが、あれはスナイパーライフルだ。おそらくはレインコートを仕留めるために狙撃手ごと投入された。


 市警ではない。警視庁、それもかなり上からの差し金だ。だが、その狙いは一体何だ。ぎりぎりのタイミングであの場に登場したという事は、それなりに前から叉反ないしレインコートを見張っていたという事。もっと言えば、神出鬼没のレインコートよりは、探偵のほうがはるかに追いやすいだろうから、見張られていたのは叉反だろう。そして、警察が叉反を見張る理由といえば、思い当たるのは一つしかない。


 深田慎二、そして計画書……。

 そこまで考えた時、携帯電話が震え出した。画面を見ると、公衆電話からだ。神義は素知らぬ顔で煙草をふかし続けているので、構わず電話に出た。

「はい」

『尾賀か?』


 意外な人物の声だった。ここしばらく連絡を取っていなかったが、声の主はすぐにわかる。

 ナユタ市警察署勤務、山本銕(やまもとてつ)(ろう)巡査。高校時代からの旧友だ。

「もっちー」


『もっちー、じゃねえ! 尾賀、てめえ一体何をしやがった!』

 山本巡査は激昂していた。彼は普段声を荒げる人物ではなかったが、今日はいつもとは違うようだ。

「何、とは……?」

『惚けるな! さっきから公安の人らがお前の事を探し回ってる。知り合いだっていう理由で俺の携帯も没収された。一体お前何をしたんだ、例の昼に攫われたチンピラと関係あるのかよ?』


「あ、ああ。深田さんは俺の依頼人の探し人で……」

 公安? 何故急に公安が乗り出してきた?

『事情はよくわからねえけどな、上の人はその深田ってチンピラとお前の事を血眼になって探してる。お前、今どこだ。ナユタか?』

「……詳しくは言えない。ナユタじゃない」


 言いながら、叉反は煙草を押し潰す。

『言えないじゃねえよ。どういう事情か知らねえけどな、何もしてねえんなら、早く出頭しろ。悪いようにはなんねえから!』

 嘘、ではない。少なくとも、山本にとっては。だが特殊部隊まで投入しておいて、警察がそう簡単に保護してくれるとは思わない。それに、まだ有礼との約束を果たしていない。仁の安全は確保されていないのだ。


 そういえば、有礼からの連絡がない。北駅での襲撃の件が耳に入っていても良さそうなものだが……。

「……すまないが、今から行かなければならないところがある。そちらには行けない」

『はあ!? あのなあ、ふざけてる場合じゃねえんだぞ!!』

「もっちー、頼みがある」


 相手の怒号が飛んでくるかと思ったが、叉反は続けた。

「今から言う学習塾に行って、明槻仁という少年を保護してほしい。刀山会に狙われている」

『お前何言って――』

「頼む。俺のほうは何とかするから、その子だけは守ってくれ。今回の一件とは何も関係がないんだ」


『何だってんだ……』

 山本は口の中で何かを呟いていたが、やがて舌打ちして言った。

『俺ももう時間がねえ。あとできっちり説明してくれるんだろうな』

「約束する」

『しゃあねえな……』


 不満げな山本に塾の名前を告げて、叉反は電話を切った。

「――行くのか、探偵」

 頃合いを見計らって、神義が言った。

「ええ。お世話になりました」

 財布から何枚か紙幣を取り出し机の上に置く。コートを着て、叉反は診療所を出ようとした。神義の声が、再びかかった。


「おい、探偵。お前、深田ってチンピラと知り合いなのか」

 叉反は振り返った。神義はすでに新たな煙草に火をつけている。

「ええ。それが何か」

「いや、同業の奴から最近そのチンピラの話を聞いたんだよ。そうとは知らず刀山会に追われてる奴の世話をして、組の連中からえらい目に合されたってな」

「どういう事です?」


 神義は手短に語った。一分後、叉反は診療所を出て、今後の行動を検討し始めた。

 ――少しずつだが、深田が抱えている事情に近付きつつあった。



 一つ一つを順当に積み上げなければならなかった。持てる物を全て使い、活路を開く。

 コンビニで黒マジックと封筒を購入すると、叉反はでかでかとメッセージを書き、懐に収めていたボイスレコーダーを入れて交番へと向かった。

 パトロール中らしく、見たところ人はいないようだ。封筒の表に殴り書いたメッセージ――『ナユタ市警宛 尾賀叉反』――の文字を見えるように机の上に置いて、素早く交番を出る。なるべく堂々としながら人気の多い商店街へ入っていく。付近に警官の姿はない事を確かめながら、人の中をかき分けていき、そのうちに、それなりに広い道路へと出た。


 日頃の交通量と比べれば、異常とも言えるほどの渋滞だった。道の端から端まで車で敷き詰まり、信号が変わる度緩慢に進行する。車と路肩に出来た僅かな隙間をバイクが通り抜けていく。

 横断歩道の信号が青になり、叉反は走った。ナユタへと流れ込む川にかかった橋を渡り、さらに進む。適当に息が切れてきたので、全力疾走で来た道を引き返し、橋の下にある貸ボート小屋の中へと入る。中にいたのは、暇そうに佇んでいる老人一人だけだった。


「すみません……」

 息を整えながら、叉反は老人に話しかけた。管理人らしい老人は驚いた顔で叉反を見た。

「……はい。どうしました?」

「突然申し訳ないのですが、ちょっと事件に巻き込まれてしまって……。携帯の電池を切らしてしまったので、すみませんが電話をお借りできませんか」

 案の定、老人は不審そうな顔をした。


「事件? ……ええ、まあ、そりゃ構いませんがね」

 老人の視線が破けたコートと血痕に注がれる。

「ありがとうございます」

 素早く礼を言って、叉反は老人が差し出す受話器を受け取ると一一〇番を押した。センターの女性が出て、事件か事故かを聞いてきた。


「事件です。実は今、変な男にバイクを盗まれてしまって……。カワサキの赤いニンジャです。ナンバーは――」

 叉反はさっき見たバイクのナンバーを告げ、老人から小屋の住所を聞きそれも告げた。

「蠍の尻尾が生えたフュージョナーで、かなりの大柄です。東京のほうへと逃げていきました。……はい、よろしくお願いします」


 言って、叉反は受話器を置くと、老人のほうへ向き直った。

「助かりました。僕は外で警察の人を待ちます。ありがとうございました」

 きょとんとした顔して、お気をつけてと言った老人に頭を下げ、叉反は外へ出た。

 これでいい。少しだろうが、時間が稼げるだろう。今のうちに、ナユタに戻らなければ。とはいえ、電車は当然使えない。ナユタ北駅を始めとして、ナユタの各交通機関には警官が張り込んでいるはずだ。


 再び駆け出して住宅街へ入る。人気のない道を選んで進み、目立つ建物がないか見渡す。ほどなくして、適当な物が見つかった。最近廃校になったらしい中学校だ。校舎はまだ取り壊されておらず、校庭の隅に生えた草は伸び放題になっている。

 近隣のタクシー会社に連絡して、学校を目印に来てもらうよう手配する。およそ十分後、中年の運転手が乗ったタクシーがやって来た。


「ナユタまで。急ぎで」

 後部座席に乗り込んで、叉反はあえてぶっきらぼうに言った。ルームミラーに運転手の怪訝そうな顔が映った。

「お客さん、それなら電車のほうが早いですよ」

「いや電車は無理なんだ。見張られているからな」


 足を開き、手を組んで深く腰をかける。もっとも尾があるので実際には窮屈だが、出来る限り大物らしく振舞った。高身長が役立つ時だ。運転手には申し訳ないが、威圧させてもらう。

「他の組の若い奴等にカチコミかけられてね。面倒だが、人目につかないようにナユタまで戻らなくちゃならない」


「降りて下さいよ」

 運転手がヒステリー気味に言った。声に怯えが混じっている。

「妙な事に巻き込まれるのは御免です。警察を呼びますよ」

 必死の言葉に叉反は笑い声を上げた。なるべく相手の恐怖を煽るように。完全にヤクザ者になり切って。


「呼びたきゃ呼べばいい。ここら一帯の道路はえらく渋滞しているから、お巡りが来る前に奴等に追いつかれてしまうよ。俺だって巻き込みたいわけじゃないが、自分の命が優先なんでね。乗せてってもらえれば助かる」

 言って、叉反は窓の外を確かめる振りをしながら、蠍尾を振った。そうして、ミラーに映った太い毒針に運転手の目がいくのを、しっかりと確認した。


「……今、ナユタはそこらで検問をやってますよ。昼間のゴクマのせいで」

「知っているよ。だからまあ、実際にはナユタまで入る必要はない。検問を避けて、大回りして旧市街の手前で停めてくれ。そうしてくれたら、あとは知らん顔で帰っていい」

 言い終えて、眠るように目を閉じる。一種の賭けだが、他に方法が思いつかない。答えが出るまで、闇を見つめて待った。


 舌打ちともため息ともつかない声が、運転手の口から漏れた。キーが回され、エンジンがかかる。それでも運転手はブレーキを踏んだままだったが、やがてもう一度嘆息すると、車を動かし始めた。



 四十分後、叉反は旧市街にある工場のすぐ傍まで来ていた。旧市街にも警察の手は入っているだろうが、より警戒されているであろう新市街から戻るよりははるかにましだ。

 工場裏手のフェンスを乗り越え、旧市街に入る。まだ警官の姿はない。辺りに気を付けながら、昼間置き去りにした車のところまで戻った。


 叉反のミニバンは無事だった。中も外も何かされた形跡はない。

 妙だと思った。もう一度辺りを見回すが、人影はない。通りには誰の姿もない。

 例えば、これが相手方の手であるなら、この車は間違いなく囮だ。のこのこ出て来て車に近付いた叉反は、今まさにこの瞬間にでも、罠を張った者の手に落ちるだろう。それが警察であれ、ゴクマであれ、だ。


 だが、誰かが現れる気配はない。車も手付かずだったところ見ると、この辺りを捜査していた警官達は叉反の車を発見出来なかったのだろうか。そんなはずはない。確かに隠し場所には気をつかったが、あの時は急いでいたし、それに隈なく探せば見つかる場所だ。


 とすれば、あえて手を付けずにいたのか。今考えたような罠を張るために――……。

 考えても答えは出ない。叉反は車に乗り込んだ。仮に警察に見つかったとしても、車ならスピードが出せるし、最悪乗り捨てて逃走手段を変える事も出来る。

 エンジンをかける。ブラックのウィッシュXが唸りを上げた。


 ひとまず向かうべきは新市街だ。気になる事があった。考えをまとめるために、ナユタ北駅の近くまで行く必要がある。

 慎重に車を走らせた。土曜の夕方になれば、都会のナユタは人で溢れ返る。雑踏の中で警官の目がいくつも光っている気がして、正直いい気分ではない。本来なら彼らとは仕事の範囲が違うし、追われるような事など決してやっていないのだが。


 ナユタ北駅からそれなりに遠い位置に、大きなデパートがある。叉反はそこの駐車場に入ると六階の空きスペースに車を停めた。無論買い物のために寄ったのではない。車から降りて外を見れば、北駅とそれに隣接するショッピングモール、さらに円形の細長いビルが見える。ランガムホテル《ナユタ》。イギリスにある有名ホテルのナユタ支店だ。この国ではナユタだけでなく、東京、京都にそれぞれ一店ずつ構えている。


 それら三つの建築物を見ながら、叉反は思考を回転させた。気になっているのは、ゴクマが今どこに潜伏しているのか、という事だった。

 これまでの道筋を思い出す。鈴木の携帯に入った留守電を聞いて、叉反が旧市街に着いたのが一時。そこから刀山会に連れ去られ、有礼の前に引きずり出される。その間の移動時間が、およそ三十分。有礼と会話し、深田からロッカーの事を聞き、再び車に乗せられて北駅に向かう。有礼は時間を破らなかっただろうから、駅にはほぼ間違いなく、三時に到着している。


 当然、ゴクマの連中――鍵の渡し役だったサラリーマン風の男と、レインコート――も、三時に到着していたのだ。急な取り決めだったにも拘わらず、時間通りに、計画書が隠されたロッカーの鍵を持って。


 電話の時に、深田は初めて計画書の場所を暴露した。ロッカーの鍵をどこに持っていたのかは不明だが、鍵まで自分の身から遠ざけていたというのも考えにくい。

これまでの経歴上、ナユタは彼にとってそこまで馴染みのある街ではないし、そういう街で要の鍵は手放さないだろう。そして、ゴクマはその鍵を持って来た。二時間もなかったというのに。その事実が指し示す事は何か。


 結論、ゴクマは深田と共にナユタにいる。昼間の中央街道での攻防戦の後、どうやったのかナユタ市内に戻ったのだ。そして二、三時間、深田を痛めつけた後で、有礼との取引に応じた。

 そこまで考えて、叉反はふと北駅に向かう途中で電話が震えていた事を思い出した。取り出して、着信履歴をチェックする。


 メールが一件に、電話着信が三件。メールのほうは、何と山本からだった。時間は三時丁度。文面は一言、『何しやがった』だ。別に何もしていない。仕事をしただけだ。

 着信履歴のほうは、全て依頼人の電話からだった。予想はしていた。昼間ニュースを見た後に電話してそれっきりだ。気にならないほうがおかしい。


 留守電も三件残っている。一件ずつ再生する。

『もしもし……。尾賀さんですか。今どうなっているんですか。連絡を下さい』

 女性の声が再生される。間違いなく、依頼人からだった。何かをしながらかけているのか、電話の奥で雑音が聞こえた。着信した時間は、二時三十八分だった。


 二件目を再生する。さっきよりも周りの音が聞こえる。車が走る音。人のざわめき。咄嗟に嫌な予感がした。

『尾賀さん。どうしても気になったので、今、(りん)を連れてホテルを出ました。ごめんなさい。連絡下さい』

「何だと!」


 思わず声に出してしまった。という事は、依頼人は今、ナユタ市内をうろついている事になる。危険だから出るなとあれほど言ったのに。

 昂ぶる気持ちを抑えつつ、着信時間を見る。二時五十五分。画面を操作して、三件目を再生する。時間は二時五十七分。伝言は短い。

『事務所に向かっています。着いたら連絡します』


 聞き終えた瞬間、携帯電話を叩き付けたい衝動に駆られた。どうする。どうすればいい。この足で、一度事務所に戻るか? 否、それで見つかればいいが、もしいなかった場合はどうする。それに、依頼人が泊っていた安ホテルから叉反の事務所までは一時間ほどだ。それで、何故四回目の連絡がない? 故意に電話をしていないならともかく、もし万が一、電話をかけられない状況に陥っていたとしたら――……。


 電話を操作して依頼人にかける。コール音は鳴らない。留守電にも繋がらず、圏外か電源が入っていないという音声が流れる。嫌な予感が、胸の中に広がっていく。

 気を鎮めろ。叉反は必死に自分に言い聞かせた。頭の血を下げて、まずは一つ、だ。一つずつ目の前の事を片付けなければならない。煙草を吸いたくなったが、駐車場内は禁煙だ。深呼吸を何度か繰り返して、気を落ち着かせる。


 少しは感情が冷えきた。深呼吸をしながら、一一〇をプッシュする。

『一一〇番です。事件ですか、事故――』

「探偵の尾賀叉反だ。深田慎二の妻、深田美恵子(みえこ)と娘の凜が行方不明だ。三時直前に電話があって以降連絡がない。深田慎二の一件で事件に巻き込まれた可能性がある。至急手配してくれ」


『待って下さい――』

 二度は言わない。電話を切った。

改めて、叉反は着信時間を確認する。二時三十八分、五十五分、五十七分。三十八分の時点で、車はまだ移動中だ。五十五分の時には、既に駅構内でロッカーを目指して歩いていた。五十七分の時、鍵を持つ男と接触した。


 やはり、ゴクマ側の行動が早い。電話での約束から一時間と少しで駅まで来ている。単純に考えれば、奴らの隠れ家はナユタ北駅から一時間以内、という事だろう。

 だが、さらにここで疑問が増える。

 レインコートの事だ。奴のようにあからさまな不審者が、一時間近くも街の中を移動出来るだろうか? 警察に一度あの姿を晒し、しかも今日の街道での騒ぎのせいで、ただでさえ警戒が強まっていたナユタの街の中を。


 無理だ。奴がいくら速く走れようと、あの姿を見咎められないのは考えにくい。

 レインコートは、叉反が鍵を手に入れたそのすぐ後、不意に現れて有礼の部下を殺してみせた。劇的な登場だが、舞台裏を考えるなら、叉反達のすぐ傍で襲いかかるタイミングを計っていたのだ。その潜伏時間も、決して長くはない。五分もあの姿でいて、怪しまれないわけはない。奴はおそらく、叉反が鍵を手に入れる直前に、あの場に乱入したのだろう。


 あくまでそうだと仮定して、ならばゴクマの隠れ家は、ナユタ北駅の直近にあるはずだ。

 ショッピングモールか、ホテル。駅のすぐ傍といえばその二つだ。隠れられそうなところが思い当たらないので、駅の中というのは候補から除外する。

 ショッピングモールせよホテルせよ、人の目から逃れられるのが第一だ。さらに長時間籠る事が出来て、怪しまれない場所。


 ホテルに部屋を取った。モールの倉庫に隠れた。――どちらも、駄目だ。倉庫はいずれ人の出入りがあるだろうし、ホテルの部屋で暴行したのなら誰かしら気付く。深田が大声を上げる可能性もある。物音そのものを遮断出来るような場所でないといけない。


 他の手がかりを考えて、叉反は有礼の事務所でかけた電話の事を思い出した。

 あの時、オープントークに設定された電話口からは、深田の声がはっきりと聞こえた。声だけが。マイクは他の音を拾わなかった。さっき聞いた依頼人からの電話では、周囲のざわめきが聞こえてきたというのに。


 叉反は遠くのショッピングモールとホテルを睨みつける。もし、深田があの二か所のうちどちらかに監禁されているとして、周囲の音が入らないような位置というのはどこだ。

 地下か、高所。高所ならば最上階かその近くの階。いずれにせよ極端な位置だ。そこなら人に気付かれず、周りの音も入らないかもしれない……。


 車に戻る。他に情報もない。ひとまず当たってみる事にした。

 細長い塔のようなランガムホテルに向けて、叉反は車を発進させた。西日がかなり眩しい。ナユタ市に日が沈もうとしている。


 ショッピングモールの地下駐車場に車を停めて、叉反は後部に積んだスーツケースから着替えを取り出した。一日中走り回っていたせいでスーツがかなりくたびれている。下着を含めて、手早く新しい物に着替え、必要な物を内側に仕込み、念のために四角いフレームの伊達眼鏡とビジネスバッグを取り出す。ボディスプレーで臭いを消し、整髪料を使って乱れた髪を整えれば、夕方の街を歩くビジネスマンの出来上がりだ。


 エレベーターで二階まで上がった。駅を含めてこの辺りには、確実に監視の目があるはずだ。少し遠回りして様子を見る。同時に、ホテルに探りを入れる方法も検討しなくてはならない。

 日中は人が絶えないこのショッピングモールは、今日はいつも以上に賑わっている気がした。どことなく、客達が浮足立っている。少しばかり興奮気味で、急ぎ足だ。


 家電量販店の前を通る。大型テレビがいくつか並び、夕方のニュースを流していた。

『お伝えしています通り、先ほど午後三時半、ナユタ市内にある指定暴力団刀山会の事務所が、何者かによって爆破されました。事務所内にいた会員十五名が、現在病院で治療を受けています。警察では暴力団同士による抗争の線が強いと見て、現在捜査を進めています』


 ニュースを見る客を装って、叉反は画面を見つめた。

 有礼から連絡がないわけだ。さっき監禁されていた場所は、恐らくここだろう。三時半なら、有礼はまだ事務所で、計画書を入手したかどうか、その連絡を待っていたはずだ。もしいなかったとしても、しばらくは攻撃を避けるために身を隠す。旧市街に警察が見当たらなかったのも、こちらの応援に行ったからだ。


 チャンスだ。刀山会と警察、どちらの警戒も薄くなっているなら、叉反が動き回るのは今しかない。

 エスカレーターを速足で降りる。通路を見回して――あった。公衆電話だ。硬貨を入れて、あらかじめ調べておいたランガムホテルの番号をプッシュする。すぐに、新人らしいフロント係が、身に着けたてらしい丁寧な物腰で電話に出た。


「ナユタ市観光ツアーに参加した者だが、急用が出来たために到着が遅れた。すまないが旅行会社の係を出してくれ」

 フロント係が戸惑ったように声を失くした。緊張のためか、キーボードを叩く音が少し強い。

「……失礼ですが、当ホテルでは本日そのようなツアーのお客様はいらっしゃっておりません。再度、ホテル名をお確かめ頂いたほうがよろしいかと――」

「そんなはずはない!」


 わざと怒鳴り声を上げる。

「回帰症でずっと動けなかった甥が、やっとの想いでナユタまで来たんだ。顔を隠すために厚手のレインコートを着ている。長身で目立つからわかるはずだ」

 電話の向こうで、小さく「ああ」という声が聞こえた。

「しかし……。ナユタ市観光ツアーのお客様は本日ご予約なさっていません。申し訳ありませんが、今一度ホテルをお確かめの上――」


「もういい」

 おどおどとした係の言葉を遮る。

「そんな事を言うんだったら、これから直接行って確かめてやる。ちゃんとした客を馬鹿にして、一体どういう商売をしているんだ!」

 受話器を叩き付ける勢いで、電話を切った。当たりだ。ゴクマの連中はホテルにいる。


 二階に上がって、モールを出る。円形の広場を囲うように設計されたショッピングモールは北と南がそれぞれホテルとナユタ北駅に繋がっている。北の道を真っ直ぐいけばホテルの正面玄関だ。

 宣言通り、すぐに訪ねる事にした。ただしツアー客としてではない。決して急がず悠然とした足取りで、ホテルへと向かう。


 ドアマンが一礼して扉を開けてくれた。行楽シーズンではないが、ランガムホテルのロビーには大勢の客がいた。さっと辺りを見回して、警備員を探す。いた。着ている制服を見て、どこの警備会社であるかを把握する。

 フロントに近付いた。さっき電話に出たらしい男の係が、青い顔で入り口のほうを見ている。


「すみません」

 叉反の声に、係員ははっとなってこちらを見た。

「はい、お客様……」

「お世話になっております。シンドウ警備のソガと申します。本日は、警報システムの点検で参りました」


「はあ……」

 曖昧に頷きながら、係員は自前のメモらしい手帳をめくった。

「恐れ入りますが、本日はそのようなお話は伺っておりませんが……」

「いえ、実は」

 快活な笑いを挟んで、叉反は耳打ちするように顔を近付けた。


「抜き打ちの現場監査も兼ねているのですよ。彼なんかほら、早速減点です」

 微笑みかけながら、叉反はロビーにいる警備員の一人を指し示した。視線の先にいる警備員は、隠れるように欠伸していた。

 係員が小さく吹き出した。緊張が少しほぐれたようだ。

「最上階から順に見ていきますので、よろしくお願いします」


「わかりました。ああ、最上階のホールは入らないで下さい。医療セミナーの最中ですので」

「医療セミナー?」

「回帰症についてのセミナーです。全国から泊りがけでお集まりですので……」

「なるほど。それは邪魔したらまずいですね。気を付けます、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げると、係員は頷いてエレベーターの位置を教えてくれた。

 エレベーターに乗るのは叉反一人だけだ。ホテルは四十階まであるが、エレベーターは直通ではなく二十階で乗り換えるらしい。

 七階で人が乗ってきた。三人の親子だ。叉反に気を配る様子もない。客のほうは心配しなくてもいいが、問題はスタッフだ。大ホテルのスタッフだからこそ、彼らは客の顔を覚えている。出来るだけ出くわさないほうがいい。


 十二階で人の出入りがあったのを機にエレベーターを降り、そのまま非常階段へと向かった。十七階まで昇り、エレベーターで十九階へ。二十階まで階段を使い、そこからエレベーターで二十五階、降りて階段へ。

 四十階まで昇り切るのに、二十分以上かかった。息を整え、エレベーターを降りてネクタイを締め直す。


 セミナー中だというのに、ホールからは物音一つ聞こえて来なかった。入り口にはセミナーの看板が出ている以外は受付もない。

 ドアを開ける。鍵はかかっていなかった。

 広いホールには机が並び、綺麗に整頓されていた。だが、いたのは一人だけだ。

「深田さん!」


 ホワイトボードのすぐ横に両手を縛られ、目隠しのまま椅子に座らされた深田の姿があった。

叉反の声にも反応がない。

「深田さん!」

 猿轡を外し、目隠しを取る。顔面は痣が目立ち、服装はそこら中が破けて血が滲んでいる。


「たん、てい……?」

 焦点の定まらない目で、深田が叉反の顔を見上げる。

「喋らないで。助けに来ました、すぐ病院に」

「計画書は……?」

「それは後です。駅から回収はしてありますから――」


 ドアが緩やかに開く音がした。幾人かの足音がホールの中に入って来る。

「よくやった。ちゃんとお使いが出来たじゃねえか」

 低い男の声に、ノイズめいた音が微かに混ざっていた。小さく呼吸をして、叉反は後ろを振り返る。


 周囲は黒服達に囲まれていた。全員が銃を持っている。ざっと見回しただけでも、十二、三人。手にはそれぞれベレッタ・モデル8000、グロックモデル・17ピストル、H&KモデルPSPピストル、IMIモデル・ジェリコ941と、どこから掻き集めたのか、さながら銃の見本市のようだ。


 そして彼らを従えるように、大柄の男とそれより少し背の小さい女が立っている。

 女のほうはわからないが、男のほうはすぐにそれとわかった。フュージョナーだ。革のジャケットに血が乾いたような色のシャツ、レインコートに負けず劣らず体格が良く、そして、まるで人間の瞳のようにぎらついた複眼がこちらを見ている。ヤママユガだ。口元には、口吻の代わりに機械めいた黒のマスクをしている。


「ゴクマの破隠(はがくれ)だ。今回は引っ掻き回してくれたな、探偵尾賀叉反」

 ノイズ混じりの声で、破隠が言った。声帯と口内に機械を埋め込む事で、仮に、頭部が完全に回帰しても人間の声を取り戻す事が出来るという技術の話を、昔どこかで読んだ。

「用件はわかってるだろ。さっさと出してもらおうか、計画書を」


 脇下に吊るしたホルスターから、破隠が拳銃を取り出す。シグ・ザウエルP226。

「またシグ・ザウエルか……」

 銃口に目を配りながら、叉反は言った。

 ヤママユガの顔が、笑ったように歪んだ気がした。

「ほお、詳しいじゃねえか。銃が好きなのか、お前」


「嫌いだ。そんな物、反吐が出る」

 射線に晒される度、硝煙を嗅ぐ度、銃声を聞く度、記憶が蘇る。

「俺がホテルに来たのを知っていたみたいだな」

 体を破隠が警戒しないぎりぎりの範囲で動かし、深田の壁になるように向き合う。


「ここの警備員とは懇意にしていてな。怪しい奴を見かけたらすぐに連絡が入るようになってるんだよ。特に、蠍の尾が生えた奴とかな」

「約束は守ってくれるんだろうな。俺は計画書を持って来たぞ」

「勿論だ。お前が計画書を渡すなら深田は返してやるよ」

 叉反は頷いた。スーツの内ポケットから青いUSBを手に取り、床に放る。


 女がそれを拾って、机の上に置いたノート型の端末に差した。ディスプレイにデータが次々と現れ始めた。銃口を微動だにしないまま、破隠が画面に目をやった。

「なるほど。確かに本物らしいな」

 破隠が女に目配せした。女が頷き、いきなりUSBを引き抜き床に叩き付けると、ヒールの踵で踏みつけた。無機質な破壊音がして、青のUSBが無残に壊れた。


「やっぱりまだ隠してやがるな。深田、もう一度だけ聞くぞ。〝計画書〟はどこだ?」

「おい待て、どういう事だ――」

 言葉の終わりが爆音で遮られた。答えの代わり引き金が引かれた。胸に、腹部に、ハンマーで殴られたような衝撃が走る。撃たれた。計五発。耐えられるものじゃない。体が前に崩れ落ちる。眼鏡が飛んでいた。


「ボス!」

 女の声が響いた。

「心配するな。この階には他に誰もいねえよ。だがまあ、探偵はこのままにはしておけねえ。お前ら、適当に処理しとけ。残りは各自ばらけて身を隠せ。追って連絡する。ヘリはもう来ているな?」


「今、到着したようです」

「よし。お前とお前は深田を運べ。行くぞ」

 足音が聞こえる。深田が叫び声を上げようとして、その声がくぐもる。ドアが乱暴に開かれ、足音が去ると共にまた乱暴に閉じられた。


 叉反の襟首を誰かが持ち上げた。その瞬間、掌を取って手首ごと捻り、立ち上がりざま持ち上げて叩き付ける。残っているのは四人。銃を構えた瞬間、黒服の一人が叫んだ。

「よせ、これ以上銃は使うな!」

 怯んだその一瞬に、手近な男に拳を叩き込む。その拳が振れ動く動きそのまま次の男の顎へ裏拳を打ち込み、突っ込んできた男の胴めがけて前蹴りを突き入れ、最後の一人に左フック気味に拳をお見舞いした。


 内臓がかなり痛む。スーツに穴が五つ出来ていた。それだけで済んだのは、昔のつてで手に入れた防弾チョッキのおかげだ。今日使う事になるとは思わなかったが。

 体重差がかなりある相手に攻撃されたせいで、男達はすぐには立ち上がれなさそうだ。彼らへの対処は後回しにし、ホールを飛び出して、屋上へと上がる階段を探す。走る度、体の中が痛むのを何とか堪える。悪態の一つも吐きたくなる。


 非常階段を駆け上り、屋上へのドアを開けた。途端にヘリの回転する爆音が耳をつんざいた。

 外は夜になっていた。光を放つ大型ライトがヘリポートを照らしている。風は強くスーツが煽られる。破隠は女とヘリに向かうところだった。深田はその先で男二人に引き摺られていた。女が先に叉反に気付き、それを見た破隠が振り返った。


「生きてやがったか。頭、狙えば良かったな」

 爆音の中で、ノイズの走る声が銃口と共に向けられた。

 駆けた。一直線に。破隠に向かって。

 銃声が響いた。頬を熱が掠めた。体を揺さぶる。もう一発。スーツの肩口が弾けた。射線から体を逸らす。もう一発。脇の下が爆ぜる。


「先に行け」

 破隠が女に言った。その時には拳の間合いだ。疾走の勢いを殺さぬまま拳を繰り出す。難なく破隠が躱し、身を捻るまま銃把を握る手で掌底を肋骨に叩き込んでくる。銃把ごと喰らいついた掌底に肺から息を吐き出すが、怯まず左拳を打ち込む。掠りもしない。右足が蹴飛ばされる。体バランスが崩れたところで顔面を殴り付けられ、腹部に痛烈な蹴りが入る。身を起こす間もなく、後頭部を銃床で殴り付けられた。


 胸倉を掴まれる。銃口がしっかりと(こめ)(かみ)に押し付けられた。

「じゃあな、探偵」

挙動は一瞬だった。引き金が引かれ、銃声が響き、血が弾けて飛び散った。

右目の視界が真っ赤に染まっている。額が激しく痛む。が、掠めただけだ。肉が少しだけ削られ、銃弾の熱で熱く痛む。


 乾いた音を立てて拳銃が屋上に落ちた。その上に、血が滴り落ちる。

「て、めえ……」

 破隠のノイズが酷くなる。毒針が、その手を貫いていた。

 咄嗟に、拳銃に手を伸ばす。破隠の血が付いた銃把を握り、引き金に指をかける。照準は破隠の胸元、撃ちたくはないが、この距離なら絶対に外さない。

 複眼が叉反を睨んだ。叉反はぼやけた照星の先を見た。


「ボス!」

 女の声が遠くから聞こえる。次の瞬間、顎を下から蹴り飛ばされた。握り潰さんばかりに尾が握られ、毒針が引き抜かれる。

 破隠の舌打ちが聞こえた。

「俺が直々にぶっ殺してやりてえが時間切れだ。命拾いしたな」


 破隠が身を翻し去っていく。起き上がって撃てば当たるかもしれない。だが、引き金にかかった指は硬直してそれ以上動かなかった。体が震える。銃口もぶれている。

 銃なんて最低だ。

 気を失う直前、そんな事を叉反は思った。


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