都市伝説創作委員会の沿革3
2の続きです
そんなこんなで、俺は委員会に参加することになり、生徒会会則の部活動規約第35条「3名以上の会員が執行部に申し出て」という規定を満たした。だが、一つだけ疑問があった。机の上に座っている律子に向かった。
「よくこんな部名で通ったな どんなコネを使った?」
「人聞きの悪い……でも、申請書の名前だけは変えたわ」
確かに、その部の名前を何と呼ぼうが構いはしない。だが、プライドみたいなものはないのか、こいつは。
「で、何て書いたんだ?」
「ぶ、文芸部……」
「それ、駄目なんじゃ」
「し、仕方ないじゃない、生徒会の先生、厳しいんだから……」
彼の律子様にも怖れるものはあるようだ。
にしても文芸部ときたか。一応この学校には文芸部は存在しない。
きっと、律子も律子なりに考えたのだろう。一口に都市伝説と言ってもその種類は様々だ。医学的な都市伝説もあれば、怪談話に使うようなオカルトなもの、はたまたデステニーランドの都市伝説なんてのもあるらし。
律子はあれで外面を気にする。オカルト研究部と書けば一番しっくりくるだろうが、それでは今ある交遊関係を崩しかねない。とはいえ、何か特定の、生物研、化学研ではなんだか違う。多種多様な書物を紐解くという意味合いでは、寧ろ文芸部が外面を崩さず且つ部の審査にも通りやすい、ベストな選択だったのかもしれない。
「しかし、谷口さんもよく受け入れたね……もしかして、無理矢理……」
「そ、そういう訳ではありません」
ならどうして? 説明しろ、と律子に目で訊いた。
「さっちゃんとは1年前に図書室であったの、私はそんなに頻繁には行けなかったんだけど、それでも暇なときは云ってたの、で、その度にさっちゃんとは会って本についた話してたの」
それが相反する彼女らの出会いだったのか。
律子は続けた。
「で、ある日さっちゃんに借りてた本を返しに、教室に行ったときにある本を読んでたの」
ある本? 一体なんだろうか。俺は谷口に向く。
「『消えるヒッチハイカー』です」
なるほど、それなら納得がいく。
『消えるヒッチハイカー』とは、アメリカのブルンヴァンが著したもので、この1冊の本が「都市伝説」という言葉を世に示したと云われている。俺も昔その本を読んだし、律子も徹夜で読んだと絶賛していた。
「ちょうどその時準備の途中であんたは一1人決まってたんだけどもう1人がなかなか見つからなくて」
「それで誘ったのか……谷口さんもそういうのに興味あったのか?」
「少しだけ、でも、きっとお二人には敵いませんよ」
谷口は苦笑した。だが、俺が興味があったのは本当に昔の話だし、『消えるヒッチハイカー』を読んだのもかなり前だ、もうほとんど内容も覚えていない。
「それに、私が興味をもったのは心霊的な都市伝説ではなく、生活などに関する都市伝説です」
心霊的なものでいうと、トイレの花子さんや口裂け女などが有名だが、生活などでいうと、血液型で性格が決まるというものや白髪は抜くと増えるだとか、そういった世間一般では噂程度のもので、「○○だって、テレビでいってた」レベルのものだ。そういうのは普通、都市伝説とは言わず迷信と呼ぶ。
「で、これからの活動はどうするんだ?」
「うーん、そうねー、考えとく」
「は?」
「うん、そういうことだから、今日は解散! また明日ー」
「おい、ちょっと待てって」
俺の呼びかけにも答えず、律子は足早に部屋を出た。
なんだよあいつ……。つーか考えとくってなんだよ。1年準備して考えてなかったのか。
薄暗い実験室、俺と谷口は取り残されてしまった。
日は未だ高い。気づけば運動部の声が聞こえる。
谷口はあらら、といったように微笑を浮かべている。
「俺たちも帰るか」
「そ、そうですね」
そうして俺と谷口は学校を出た。
昼時というときもあってか、駅まで続く道に人や車はまばらだった。
「あー、とー……谷口さん、家は……」
「あ、駅から少しのところです」
「なら、駅まで一緒に行こうか」
「そうですね」
俺は電車通学だからそこで別れる。
駅までは10分程度。そこまで彼女と帰ることができる。
俺と谷口は並んで歩いた。
これ、傍から見れば、カ、カップルに、見えるんじゃ……。
俺がそんな妄想を繰り広げていると、谷口が口を開いた。
「そういえば、一つ、お願いが、あるんですが……」
「え、何?」
こ、この流れで、お願い? ってまさか、え?
「あの……私も……加島さんとも愛称で呼びあえたらなって……」
あ、愛称? 柔らかく言うとあだ名?
「あ、ああ、そういえば二人はあだ名で呼び合ってたよね」
「はい、律さんにあだ名をつけてもらって……私、昔からそういうのに憧れてて……」
確かに、谷口はそういうタイプではない。図書室へ行ったり、教室でも本を読んでいたりする以前に、彼女は美人だ。
ある程度の可愛い子だったり、すごい美人でもアクティブな子なら近寄っていけたりするだろうが、超高校級の美少女なら、それならではのオーラや見えない結界のようなものがある。多分、彼女も幾度か告白されたり、遊びに誘われたりしただろう。でも……いや、止めよう。詮索なんて無意味だ。
「そうなのか……じゃ、ど、どんなのにしようか」
「わ、私には決められないので、加島さんに任せます」
「んー、とは言っても俺もそういうの苦手だからな……シンプルに下の名前とかでいいんじゃないか?」
「そう、ですね……よろしくお願いします、サトさん!」
そんなこんなで、あだ名が決まった。