都市伝説創作委員会の放課後
『議題、新しい都市伝説を作ろう。』
使い古された黒板にはチョークの字でそう書かれていた。
初夏、スポーツをするには持ってこいというような晴天で、グラウンドから中央館を挟んだ北館の、それも3階の端に位置する生物実験室にまで、運動部の掛け声は聞こえた。
俺もこいつに出会わなければ、いや、止めよう。考えたところで無駄なことはもう分かりきっている。
ボーッと窓の外を眺めてると、あいつが頭を小突いてくる。
「ねえ、聞いてるの!?」
「全然聞いてる」
適当に返事したせいで言葉を誤用してしまった。流石にこいつもそれに気づいたらしい。
「あんた、この委員会においての自分の立場、わかってるの?」
「わかってるよ、だからこそ、こうやって体力を温存して……」
突如として俺の腹に拳がめり込んだ。
「ぐっ……」
堪えきれず、その場で踞った。せめて前置きでも掛け声でもいいから寄越せよ。なんでいつも無言なんだよ。まじでこわい。
すると2人掛けの机が3列に並ぶ中央の一番後ろの席から、美少女が駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫ですか?」
汚れのないその声に、身も心も洗い流されるようだ。
「律さん、いつも言ってますけど、暴力はいけませんよ?」
その声に、少し怒りが帯びる
「で、でもこいつも悪いでしょ?」
律子は少し気圧される。
「何が何でも、暴力はいけません!」
彼女は、めっ、というように指を突き立てた。
「ごめん、さっちゃん……」
流石の律子も咲夜には頭が上がらない。
「そうだぞー、律子ー、争いからは何も生まれないぞー」
「あんたは黙ってろ」
もはや、なんと言っていいか、例えるならば鬼のような目で律子はこっちを見ている。冗談抜きでこわい。ちびりかけた。
「……っーか、これ何回目だよ」
「今日はまだ一回しか殴ってないでしょ!」
「ちげーよ、この議題だよ」
今日「は」とか「まだ」とか、不穏な言葉が聞こえたが、話が進まないからスルーする。
「何回目って、まだ陸な案もでてないじゃない」
今日は5月の最終水曜日、先週の水曜からこの『議題』について会議している。いや、会議というか、お茶会というか、まあそんな感じである。
「その陸な案がでると思ってるのか?」
「もちろん!」
なんでそんなに自信ありげなんだ……。3人寄っても文殊の知恵にはならんぞ。
「そもそも、こんなことしてどうするんだよ、生徒指導部に連れ出されるのはもうごめんだ」
そもそも、この同好会活動には意味があるのか? 捗るのは俺の(咲夜についての)妄想くらいだぞ。
――もっと言えば、なんで俺はこんなとこにいるんだ?