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104.限界突破の勢いで

 ある意味賭けだった。

 グロリア・グレイがまともに正面からぶつかって勝てる相手ではないというのは、誰の目から見ても明らかだった。事実、テラと引き剥がされ単なる干渉者に成り果てた俺に、いくら力が優れているとは言え単なる能力者に過ぎないモニカとノエルが加わったところで全く太刀打ちできなかった。

 強力なモニカの魔法は地力をあげる手助けはしてくれるが、それだってあくまで数値の何%かを上昇させるに過ぎない。元々の力の差が激しすぎて、全くお話にならなかった。

 ノエルは様々な敵を蹴散らしてきた巨人を五体も投入したのに、戦うことも許されず、グロリア・グレイの大きな尾でなぎ倒されたあと、あっけなく消えてしまった。

 強い。

 強すぎる。

 テラが『世界で二番目に凶悪な竜』と言ったのには意味があったのだ。

 ただ強いだけじゃない。信念を曲げず己の使命を全うしよう、竜の誇りを守り続けようという意思が恐ろしく固い――、どんなことを言ったとしても、彼女はすんなり首を縦に振ることはないようだ。

『何度説明しても通じなかった』とアッシュとエルクが言っていた、まさにそういうことだった。戦っても勝てない相手に根気よく時間をかけて話し続け、ようやく赤い竜石を手に入れてくれた。そう思うと、あの二人を尊敬の目でしか見られなくなった。

 自然と剣を持つ手が震えていた。

 怖い。

 後先考えずテラの身体に入り込んでしまったことも、グロリア・グレイという凶悪な竜と対峙していることも。

 逃げられるのであれば逃げてしまえばどれだけ楽か。


『グロリア・グレイは私たちを逃さないぞ。覚悟ができていてのあのセリフなんだろうな』


 テラの不安そうな気持ちがじわじわと伝ってくる。

 覚悟? できているわけがない。

 いつも不安で押しつぶされそうで、どうやったら前に進めるのか、状況を打破できるのか。ギリギリのところで判断を迫られて、俺は遂におかしくなってしまった。“表”から存在を消されたことで自暴自棄になっていたことも一因かもしれない。俺は所詮捨て駒だ。だから何が起きようとも構わない。この妙な竜人の格好から元に戻れる保障もないというのに、通常では考えられないことをやってしまったのだ。

 けど。

 逃げたら終わり。

 それだけはわかる。

 逃げてしまえば竜石は手に入らない。モニカもノエルも幻滅するだろうし、ここまで案内してくれたアッシュとエルクにも申し訳が立たない。

 ドレグ・ルゴラの力を封ずる手段がなくなり、“表世界”にまで侵食を始めた最凶最悪な竜は野放しになる。

 近い将来二つの世界の境はなくなり、たくさんの魔物が“表”にあふれ出していく。

 Rユニオンの大事な仲間、家族、知り合い、大切なモノが全部全部居なくなってしまう。

 そして、それらの切っ掛けとなったことを、美桜はいずれ知ってしまうのじゃないか。

 その前に、彼女が自分のことを全部知ってしまう前に、俺は片を付けなければならない。

 グロリア・グレイとの戦いはあくまで通過点に過ぎない。……だろ?


『格好ばかり付けても実力が伴わねば、戯れ言に過ぎないのだぞ』


 わかってるさ。

 だから同化してるんだろ。

 二人で最強、俺とお前は最高の相棒だって見せつけるために。


「――行くぜ!」


 俺はテラの声で気合いを入れ、剣を構えてグロリア・グレイに向かって走った。

 宮殿の燭台から飛び散った魔法の炎がチラチラと揺れ、虹色の岩壁を照らす中、グロリア・グレイは不敵に笑って杖を掲げた。

 斬りかかるのと同時に相手の杖先から魔法がほとばしり、俺は硬い何かに弾かれて大きくよろめいた。シールドか。しかも、かなり硬い。


『魔法を』


 言われなくても。

 (いかずち)を剣に纏わせ、再度斬りかかる。しかし、強固なシールドはなかなか破壊できそうにない。何度斬りかかろうが、思うように剣先が届かない。


「チッ……!」


 一旦退き、グロリア・グレイを睨み付ける。

 人型になったからって相手は弱くなったわけじゃない。竜の姿ではパワー、人型では魔力が増すタイプか。

 ふいに、薄紫色の光がグロリア・グレイの上から降ってきた。その真上に魔法陣、防御力を減らす記述。――モニカだ。

 離れたところにはいるが、しっかりサポートしてくれる。こんな不毛な戦いに巻き込まれ迷惑してるだろうに、彼女は相変わらずのクールさで全体を見渡してくれる。


「救世主様! 続けてください!」


 重ねがけをするつもりか、モニカは更にもう一つ同じ魔法陣をグロリア・グレイの真上に描いた。


「小癪な」


 グロリア・グレイは杖をグンと動かしてモニカに向けた。

 呪文の詠唱も魔法陣もなく、一抱えもある炎の塊が突然宙に現れる。グロリア・グレイがツンと杖先を動かすと、赤々とした炎の塊は空中を滑るようにして転がり、洞穴の隅に逃れたモニカの元へ真っ直ぐに進んでいった。


「モニカ! 避けろ!」


 が、俺の身体が反応するよりも声が洞穴の隅々まで届くよりも早く、炎はモニカへと到達する。

 ゴゥと燃えさかる音がして、炎の塊がモニカを呑み込んだ。


「モニカ――ッ!!」


 テラの声と被さって、ノエルの声も耳に入った。

 まだモニカの魔法が効いているらしく、ノエルはぼんやりと銀色に光ったシルエットのまま。炎に包まれたモニカの直ぐ後ろで両手で頭を抱え、よろめき、地面にへたり込んでいる。


「嘘だ……、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」


 呪文のように繰り返すノエル。

 手を出そうとして熱さに怯み、助けることもできずにいる。真っ赤な炎に照らされた顔は、絶望の涙でぐしょぐしょだった。

 ダメだ、見ていられない。


「グレイ! 標的は私のはずだ!」


 我慢ならず、俺の意識を押しのけてテラが叫ぶ。


「我に(あらが)う者、全てが敵ぞ」


 グロリア・グレイは淡々と言った。


(あらが)えば死と知っていながらも我に立ち向かう、なんと愚かしいことか。ゴルドン、(うぬ)も我の前であの人間の女と同じように屍と化すか」


 生気を感じぬ金色の目が俺を睨む。

 コイツ、本当に血も涙も。


「屍ではありませんよ」


 洞穴に声が響いた。

 まさか。


「これしきの炎で私は屍にはなりません」


 モニカの身体を包み込み焼き殺したと思われていた炎が、グラリと動いた。

 黒焦げのシルエットがすっくと立ち、高く右手を掲げている。


「炎を止めるのに時間がかかっていたのです。あまりにも大きな炎でしたから、一度には処理しきれなくて」


 黒いローブから徐々に炎が消えていく。炎は徐々に左手に集まり、その手の中にマグマ玉のように毒々しく光る赤いものが握られているのが見える。

 炎を、吸い取っている。


「吸収魔法というものがあります。魔力を放たれたのであれば、吸い取ってしまえば良い。敵から放たれた力を自分の魔力として吸収し、糧にするのです。あなたの放った魔法は私が全部吸い取って、あなたへの弱体化魔法へと変化させる。攻撃魔法も大事ですが、私はこういう地味な魔法が大得意なのですよ」


 モニカを包んでいた炎が完全に消え去った。彼女は集めた魔法の力を手のひらに乗せて更に圧縮させると、あめ玉でも舐めるかのようにヒョイと口の中に放り込んでしまった。

 そのあっけなさと彼女の成したこととの隔たりに、俺も、ノエルも、グロリア・グレイも驚きを隠せなかった。ノエルは涙で濡らした顔できょとんとしているし、グロリア・グレイも突然の妙な出来事に心奪われ、すっかり固まってしまっていた。


「人間の女、只者ではないな」


 グロリア・グレイは歯を軋ませた。


「どうでしょう。私自身、自覚はありませんが」


 モニカは不敵な笑みを浮かべる。

 ただ強いだけじゃない、彼女が塔の魔女の候補生となったのにはきちんと理由があったってわけだ。こんな特殊能力、見たことも聞いたこともない。もし彼女が干渉能力を失わずにいたら、確実に次の塔の魔女に選ばれていたに違いない。


「救世主様、それにノエル。驚かせてごめんなさい。もう大丈夫です。彼女の放った魔法は私が全部吸い取ります。二人とも、遠慮せずに戦ってください」


 言いながら彼女は、既に新しい魔法の準備を始めている。とんでもないタフさだ。

 俺も、ぐずぐずしては居られない。

 体勢を整え、一気に斬りかかる――グロリア・グレイが咄嗟に避ける。杖を細身の剣に変え、グロリア・グレイが斬りかかってくる。盾で弾き、向こうの攻撃の隙を突いて反撃。彼女の一撃一撃が重い。人間の姿をしていても力が人間程度とは限らないらしい。さっきの巨体では不可能だったスピードで、次から次へと斬り込んでくる。

 剣が弾かれ、盾を支える左腕が痺れてきた。

 なのにまだ、肝心の一撃すらグロリア・グレイには届いていない。

 とにかくシールドが硬い。

 一般的に魔法でシールドを張る場合、俺に限らず一枚の板をイメージすることが多いようなのだが、彼女のそれは板ではなく、岩。自分自身を包み込む巨大な岩なのだ。魔法剣で斬りかかっても、岩の一部が削り取られるだけで全く本体に達しない。それほど凄まじい魔力。


『物理攻撃はほぼ効いていない。別の方法を』


 言われなくても。

 最後に一撃、思いっきり食らわして――、思いっきり弾かれる。

 後ろの飛び退き着地、剣を杖代わりにして虚空に二重円を描く。

 俺が文字を刻み始めるより少し先に、突如として深緑色の光が複数視界に映り込む。光は徐々に四つ足の獣の姿に変化し、現れたのはキマイラ。ライオンの頭に山羊の身体、蛇の尾を持つ怪物だ。五体のキマイラたちは、息も吐かぬうちに一斉にグロリア・グレイへと向かっていく。

 こんなことをするのはノエルに違いない。モニカの奥、彼の表情を見ると、腫れた目をしたまま歯を食いしばっていた。さっきまで泣きじゃくっていた割に、しっかりとした顔だった。

 ノエルは俺の魔法陣が中途半端なのに気付き、相変わらずの生意気さを残したまま大声で叫んだ。


「何ためらってんだ! 早くしろ!」


「わかってるって」


 何の魔法なら効く? 向こうが火ならその逆か。


――“凍てつく刃よ、敵を貫け”


 魔法陣が青く光り、尖った刃状の氷が次々にグロリア・グレイに向かってゆく。が、弱い。彼女のシールドは氷を弾き、砕けさせてしまった。


「じゃぁ、これはどうだ」


――“静謐な氷の精よ、グロリア・グレイの身体を全て凍結させよ”


 熱を奪えば。咄嗟に思った。

 魔法陣が光ったのと同時に、手のひらほどの小さな精霊たちがグロリア・グレイの周囲を舞い始める。実際精霊なんてこの世界に存在するかどうかもわからなかったが、頭の中に思い描いた図通りに、精霊たちはグロリア・グレイに冷たい息を吹きかけ始めた。

 次々に襲い来るキマイラを剣や魔法で弾き、俺の魔法に対処する余裕がなかったのか、徐々にグロリア・グレイの身体は凍っていった。腕、足、身体。纏わり付いた氷を何度も払うが、氷の精たちは次から次へと息を吹きかけ、少しずつ少しずつグロリア・グレイから体温を奪っていく。彼女の表情が次第に歪んでいくのを、俺たちが見過ごすわけはなかった。


『凌、今だ』


 再び剣を構える。そして魔法。炎を纏わせていく。

 ダークアイと戦ったときにもやった、温度差攻撃ってヤツだ。

 力強く地面を蹴り、思いっきり飛び上がった。目指すはグロリア・グレイ。キマイラたちを飛び越え、全ての力を込めて剣を振り……下ろす。


「はぁぁあぁぁぁぁあぁああっ!!」


 グロリア・グレイがふいに顔を上げた。金色の目がギラリと俺を睨み付けている。


「食らうか!」


 その両手を俺に向け――。

 もし、俺が俺のままだったら助からなかったかもしれない。

 グロリア・グレイが放った爆撃魔法は、洞穴の天井をいとも簡単に破壊した。地面は激しく揺れ、洞穴を覆っていた竜石の欠片が砕けて地面にどんどん落ちた。細かい破片から、中にはエアバイクほどの大きさのものまで、様々な色に光る竜石の欠片がどんどん地面に落ちては散らばっていった。

 天井から落ちた竜石に当たると、ノエルの出したキマイラたちは次々に姿を消した。

 モニカもノエルも、巻き込まれまいと道を戻っていく。

 宮殿の柱が何本も倒れた。美しかった石畳も、瓦礫で埋め尽くされてしまった。

 俺は地面に転がりながら、その様を見ていた。

 立ち上がろうとしても、全然身体が動かない。息が苦しく、身体が軋む。

 なんて魔法だ。あんなの、食らったことがない。


「人間」


 グロリア・グレイはそう言って、俺の背中を蹴飛ばした。

 身体をゆっくりと傾けて彼女を見上げるまでの間に、俺は自分がテラと分離して、いつもの自分に戻っているのに気が付いた。視界の隅に、やはり地面に伏している金色竜のシルエットが映り込んだ。


「好きなだけ竜石を持っていくが良い」


 グロリア・グレイの口から思いも寄らぬ言葉が出て、俺は思わず目を見開いた。


「え? 今なんて」


「竜石は宮殿を潜った先、左側の通路の奥から採掘できる。もしドレグ・ルゴラの力を封じるのだとしたら、あの愚かな金色竜と同じくらいの大きさの塊が必要だろう」


 彼女の表情は穏やかだった。

 魔法の炎に照らされ、オレンジがかったシルエットがそう思わせるのか、虹色に光る竜石の壁や天井が、彼女を幻想的に浮かび上がらせているからそう思ってしまうのか。

 彼女は直ぐ側に屈み込んで、俺の顔をまじまじと見ていた。


「我に傷を付けたのは(うぬ)らが初めて。滅茶苦茶な戦い方だが、認めざるを得まい」


 傷?

 彼女は垂れた髪の毛を払い、左肩を露出させた。左肩から胸にかけ、30センチほどの長い傷がある。傷口が真新しく焼け焦げ黒ずんでいるところを見ると、確かにあの魔法剣が傷つけたに違いなかった。


「この傷は記念に残しておこう」


 グロリア・グレイはどこか嬉しそうだ。



「あの愚かな金色竜を認めたわけではない。(うぬ)を認めたのだぞ。(うぬ)ら人間を」


 フフフと声を漏らし、グロリア・グレイは目を細くして肩を震わせた。

 俺は呆然と、彼女を見上げるばかり。

 要するに、勝った。そういうこと?

 全然勝った気はしないけど。


「テラは」


「ゴルドンのことか? 貴奴(きやつ)は気を失っておる。さて」


 ペロンと、何故かグロリア・グレイは舌なめずりした。

 膝を付き、俺の首の下に手を潜らせて、上体を持ち上げる。目をしばたたかせている間に――、唇が重なった。唇の中に舌が潜り込んでくる。細くて長い舌。歯に彼女の牙が当たる。熱い息と共に、何かを俺の中に注ぎ込んでくる。

 抵抗なんか全然できない。身体を引き剥がそうとしても、彼女は凄まじい力で俺を押さえ込み、無理やり……キスを。

 彼女はうっとりと目をつむり、懸命に舌を這わせた。

 身体が火照った。意味が、わからない。

 なんで俺、殺されかけた相手にキスなんかされてんの。

 グロリア・グレイは竜じゃないのか。どうして人間の俺に。

 異様に長いキスだ。ヤバい。下半身が反応してしまう。決してそういうのじゃないのに。こんなの、誰かに見られたら。

 半竜女の激しい吐息と心音だけが耳に響く。

 薄い布を纏っただけの柔らかな肢体。胸や二の腕が身体に当たる度に、俺は自分の理性と戦い続けた。

 生殺しだ。最悪すぎる。こんな、こんなの。我慢できるわけ。

 気が付くと、胸を鷲掴みにしていた。柔……らかい。そして、あったか……。


「何をしておる」


 唇が急に寂しくなって、ハッと我に返った。

 グロリア・グレイの美しい顔が目の前に。胸を掴む俺の手を、機嫌悪そうに見ていた。


「何をするつもりだったのだと聞いている」


「え……、えっと……。おっぱ」


「生殖行動など必要とはしておらん。我は瀕死の(うぬ)に力を分けてやっていたのだ。あのままでは歩くことさえままならなかったのだろう」


 あ――……。

 そういうこと。

 何か前にも似たようなことがあった。

 あのときは確か、吸い取られる方だったような。


「手を離さんか。愚か者めが」


 ああ、せっかくの感触が。

 グロリア・グレイは立ち上がり、黒いドレスの裾を直した。

 俺も腕で口を拭って、仕方なく立ち上がる。確かに、身体が軽い。体力が戻っているような気がする。


「きゅ……、救世主、様……?」


 出口の方から声がして振り向くと、モニカとノエルが恐る恐るこちらを覗き込んでいた。

 瓦礫をかき分けかき分け、慎重に進んできて、


「大丈夫ですか? お怪我は……」


 と言ったところで、モニカはキャッと声を上げ、両手で顔を覆ってしまった。

 どうしたんだと疑問符だらけの俺に、ノエルがひと言。


「うわぁ……。最低だな、下半身膨らませて」


「ええっ?」


 慌てて確認。ヤバっ。隠したところでもう遅い。


「『何か、抱き合ってキスしてるように見えるんだけど』ってモニカに言われて、んなわけねぇだろと思ったんだけど。最低だな。さっきまで戦ってたとか竜とか関係なく欲情しちゃうわけな」


「違……っ! そういうのじゃなくて」


「“悪人面”じゃなくて、“変態”って呼ぼうかな」


「えええ……。せっかく竜石採掘の許可取れたのにそりゃないよ」


「許可?! 嘘だろ?」


 口をあんぐりさせて、ノエルがよろめいた。

 いつもキッチリ立てている髪はすっかりグチャグチャになってしまっていた。


「嘘ではない。我が許した。人間の小僧、なかなか愉しませてくれたな」


 グロリア・グレイは腰に手を当て、上から目線でノエルに答えた。

 さっきまでとは打って変わった態度に、ノエルはしどろもどろでサッとモニカの陰に隠れてしまう。


「魔物を具現化させ五体同時に操るのは至難の業ではない。魔法を吸い取るそこの女にしてもそうだ。塔の魔女め、なかなか面白いことをしてくれる。久々に良い運動になった。(うぬ)もだいぶ力を失っているようだが、我が分けて進ぜようか」


 またグロリア・グレイはペロリと舌なめずりをする。

 アレはダメだ。いろんな意味で!

 手をクロスさせて必死に止めろとアピールするが、彼女は全く見てくれない。


「ハァ? そんなの要らないし。それより、本当にいいのかよ。かなり大事な石なんだろ」


 怪訝そうにノエルがグロリア・グレイを覗き込む。


(むし)ろ、待っていたのだ。我は、待っていた。いずれこの世界にかけられた呪いを解く者が現れると信じ、待ち続けた。人間どもが騒ぎ立てる救世主などといういかがわしい者ではなく、真にこの世界から我らを解放してくれる存在となり得る者を。丁度いい、採掘場までの間少し、話をしようではないか」


 そう言って、彼女は少し口角を上げた。


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黄昏のレグルノーラ~災厄の神の子と復活の破壊竜~
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「レグルノーラの悪魔」から20年後のお話です。
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